私が選んだ最高の人生。

@kamulo

私が選んだ最高の人生。

このおじさんを突き飛ばせば早く橋を渡れる。


だけど私はそれを選択しない。すれば警察に捕まって将来が閉ざされる。それは私の人生にとってよろしくない。


だから私はおじさんの後をついてゆっくり渡る。


人生は選択の連続だ。毎日毎秒迫る選択。その結果で人生が無数に分岐する。したがってベストな選択をし続けなければならない。


私はいわゆる女子高生。周りからは「大人過ぎ」「哲学者」「人生二周目」なんて言われる。


否定はしない。だって私は高尚だから。考えることが好き。よく人生や世界について考える。


両親には気味悪がられている。しかし気にしない。だって私だから。私という生き物だから仕方ない。



この授業の内容はほとんど理解している。そのため聞く価値が薄い。だから私は睡眠を選んだ。後の体力を回復した方が効果的だから。


体育は仮病で休む選択をした。今日は苦手なダンスをやるから。無理をすると精神衛生上良くない。そのため保健室で英気を養うことにした。


グループワークはきちんとやることにした。クラスメイトとの付き合いは今後も避けられない。ここで関係を悪化させるべきではない。それは学校生活を送るのによろしくない。だから相手の話を聞いて理解してあげた。



大学受験は自分の学力に見合ったところを二個受けた。どちらも国立。私立は親の経済状況を鑑みるに厳しいところがある。だから配慮した。


第一希望は落ちた。あの問題の選択肢を間違えたからかもしれない。仕方ない。第二希望は合格した。どちらであっても人生設計にはそこまで影響しない。何も問題は無い。


奨学金を借りた。学生寮に入った。出来るだけ初期費用を抑えて入学の準備をした。両親も笑っている。良い選択ができたはずだ。



適当なサークルに入った。大学でも人間関係は必要だ。講義や進学や就職の情報を獲得できる。費やすリソースも多いがメリットも多い。そこまで活動に興味は無い。そこそこに人が多くて活気があったから。無難な選択だった。


男性に言い寄られた。私と特別な関係になりたいようだ。少し悩んだ。そして要求を受け入れることにした。一度彼を受け入れたからといって私の価値は下がらない。むしろこの経験が今後の糧になる。そう判断した。


彼とはもう会わないことにした。特別な経験をした。しかしそこまで意味のあるものに思えなかった。あの選択は失敗だったかもしれない。彼からのアプローチは止まない。だが拒否する選択をした。



サークルの代表に推薦された。活動にずっと参加し続けている姿勢を買われた。活動内容への愛着は無い。だが就職の際には有効かと考えて受け入れた。学業とも両立できているので問題無い。


彼はサークルを去った。居心地が悪くなったらしい。元々活動へも積極的ではなかった。やはりあの選択は間違いだったのだろう。無駄になった。人間関係はどこまでも難しいと分かった。


卒業後は就職する選択をした。院進や公務員も考えた。だがそこまで学業に思い入れは無い。国のために身を粉にする意思も無い。すると就職という選択肢しか残っていない。必然だった。



大企業に入社した。自分の学歴的に問題無いところ。それに自分が望む福利厚生の水準に達しているところ。業界や職種には拘りが無い。何があっても文句は無い。良い選択ができた。両親も笑っていた。


勤務を始めると想定より分からないことが多かった。パソコンの使い方やマナーや社内システムの仕様などなど。自分のやろうとすることに着手する前から選択肢が多い。障害を取り除かないと本命の選択に辿り着かない。学びになったので取り入れていく。


上手くいかないことが頻発した。第三者間で食い違う要求。マニュアル皆無のため手順不明な作業。後から追加される条件。それと人間関係も。一時に判断すべき選択肢があまりにも多い。慣れたら出来るようになるとは聞いた。しかし本当なのか。適切な選択が出来るようになる判断力。いつか本当に身に付くのか。疑わしい。今から出来ることは無いのか。



そうやって選択肢を考え続けた。私の頭は考えるためにある。それでここまでやってきた。


出来るはずだ。並行する判断を。


導けるはずだ。私なりの最適解を。



そうやって


かんがえていたら


どうしてか


ちょっと


つらくなった



あれ。私は何をしていたか。


そうだ思い出した。考えることに疲労を感じていたのだ。それで考えることの中止を試みた。あくまで一時的に。本当に止めるわけではない。少し休憩を挟むことを選択しただけだ。今後の人生のために。


しかし両親は笑っていない。当然だ。他者から見れば心配の的だろう。キャリアにも影響があるに違いない。しかし選択肢はこれしかなかった。これを選べば後の人生は良い方へ傾く。そう判断した結果だ。



そうして私は選び続けている。常に自分のためになる可能性を。


後悔しそうになる時もある。あの選択肢は間違っていたと。


しかし選択の機会は多過ぎる。いちいち気にしていたら身体がもたない。


だから私は胸を張る。その時々の私が考えて選んだ結果だ。それ以上はありえない。


最高の私が選んでいる。したがって私の人生はいつも最高だ。


ああなんと幸いなことか。世界の誰よりも自分の人生が上手くいっている。その実感がある。


これからも私は選び続ける。最高の結末に辿り着くことを信じて。


それでは私は次の選択がありますので。


ありがとう。またいつか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私が選んだ最高の人生。 @kamulo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ