長時間、温泉の中で回復


重苦しい吐息を口から吐き出す四葩八仙花。

心地良さそうに湯船に浸かっている。

お湯に髪の毛が入らないようまとめていて、数本の細長い紫陽花の色をした髪の毛が肌にべっとりとくっついていた。

女性専用の風呂場だが、人が出払っていて彼女の独占状態だった。

人目を気にせず、とろけた表情をしている。


「さすがに運動不足だったかしら…」


四葩八仙花はそう思いながら、手のひらで自らの腹部や太腿を摩った。


「こちらの方は大きいことに越したことはありませんけど…」


そうつぶやきながら、湯船に浮かぶ自らの乳房を持ち上げる。

彼女の体型は他人から見れば気にも留めない。

むしろ、その豊満な肉付きは多くの男性を魅了させる。

しかし、当の本人は少しだけ太ったかもしれないと反省を抱く。


「…あの後、刻はどうなったのかしら…」


湯船に浸かりながら、四葩八仙花は武装人器のことを考えていた。

あれほど武装人器として精神が気高い者はそういない。

自分の思考にぴったりと当てはまる。

刻のことは是が非でも武装人器として契約を結びたいところだった。

しかし、あの後、戦女神たちによって刻の身柄は拘束され、ヴァルハラへと連れて行かれてしまった。

今頃は戦士長たちによる会議で今後の処遇が決められていることだろう。

運が良ければ監視対象としてヴァルハラに保護されるだろうが、最悪、武装人器として処分される可能性の方が高かった。


(あのような武装人器として気骨のある人物はそういませんから、最悪処分されるようになったのならば、私がどうにかしなければ)


自らの私財を投じてでも、刻を助けようと思っている。


「…それにしても、ヴァルハラの治療施設はおざなりですわね」


自らの屋敷の中で作られた治療施設の方がまだ使い勝手が良いので、四葩八仙花はぶつぶつと文句を口にしていた。

ヴァルハラにある温泉は肉体の傷や怪我を癒す効能を持っている。

しかし、効能の濃度を薄めているためか、完全に回復するまでには数時間かっていた。


「ん…ふぅ、…いい加減のぼせてしまいそうですわ」


そう言いながら、四葩八仙花は湯船から出ようと立ち上がる。

頭に巻いたタオルを取り外すと、長い紫陽花の色をした髪の毛が重力に従って垂れた。

そのま湯船から出ると、タイルを歩いて鏡の前に立つ。

鏡の前の自分は自他共に認める美しさを誇っている。

両腕を上げてポーズを取りながら体型をチェックしているのだが、少し不満な表情をしていた。


「やはり少しだけふくよかになっている気がしますわね…」


自らの胸を持ち上げながら、そのように思う四葩八仙花。


風呂場へと入って来る、傷だらけの女性。

傷と言っても、斬り傷は一切ない。

全身が打撲だらけで、複数の青痣を作っている程度だ。

だが、他人の目から見れば、痛々しい姿である事には変わりない。

胸元を手で覆いながら、湯気を掻き分けて風呂に浸かろうとする。

その際に、二人の戦処女神の視線が絡まった。


「…あんた」


目を細めて、四葩八仙花の顔を見詰める。

灰色の髪、猫の様な琥珀色の瞳。

それは、折紙千代姫だ。

先程まで、ディセンバー戦士長に模擬戦と言う名の折檻を受けていた。

折檻が終わると、彼女はふらつきながらも、回復効果のある温泉へとやって来たのだった。

折紙千代姫の顔を見て、彼女が何者であるのか、頭の中を巡らせる。

それは確か、刻が動けなくなった時、鎖を使い、彼の窮地を脱して見せた戦処女神である事を思い出す。


「あなたは…確か、折紙千代姫、さん」


名前を口にする。

すると、折紙千代姫は目を細めた。

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