そして、現在

そうして現在。


「…」


がちゃがちゃと言う音。

刻は腕輪をつけられる。

鋼鉄の腕輪だ。

手首に巻かれて、間に鎖で繋がっている。

それは手錠だった。

腕を引っ張ると鎖が腕を束縛する。

それだけではない、刻の首元に首輪が掛けられていた。

更に、鎖がついている。

トワイライトが首輪の手綱を持っていた。



「さあ、行きましょうか」


トワイライトは楽しそうにそう言った。

刻は、この状態で外に出たくなどなかった。

しかし、彼女曰く、こうでもしなければ刻は自由に動くことができない。

すでに刻という存在が要注意人物として挙げられていたのだ。

この後どうなるのか、不安を覚える刻。

特に説明がなく彼女に言われるがままだった。

廊下へと出る二人。

学校の廊下とは違い、どこかの教会のように純白な空間が延々と広がっている。


(ここが、ヴァルハラか)


刻はそう思った。

一般的な武装人器では建物に入ることすら許されない。

ここは戦女神と、契約した武装人器だけが入る事が許可されている。

本来ならば刻は入る事すらできなかっただろう。

武装人器にとって憧れの場所に刻が不本意ながらに立っていた。


(これで要注意人物として扱われていなければ最高だったんだが、複雑だな…)


残念だと心の中でそう思う刻。


「ん、もしもし?」


刻に向けてトワイライトは振り向く。

黄金に輝く髪の毛が左右に揺れた。

彼女は細い指先で刻が立ち止まっていることを確認すると、鎖を引っ張って歩くように促した。


「…俺はこれから、どうなるんですか?」


刻がトワイライトに聞いた。


「心配しなくても大丈夫です、少しだけ皆さんとお話するだけですから」


皆さんとは一体誰なのか、刻には見当もつかない。

やはり不安ばかりが募っていく。


「それよりも…一つだけ、お伺いしたいことがあります」


刻は改めてトワイライトに話しかける。

緊張が走る刻。

一体何を聞かれるのか、心配そうな表情をした。

刻は喉を鳴らした。

真剣な表情をする。

そして彼女の顔を見た。

顔面を真っ赤にしているトワイライト。

刻の状況を自分に反映させている表情だ。


「…こうして、自由を束縛されて歩くのって、興奮しますか?」


彼女の質問に、刻は脱力した。

一体、その質問に何の意味があるのだろうか。

その意味を探すが、幾ら頭を捻っても、意味を知る事が出来ない。

なので、刻は彼女の質問に対して、一言、言葉を口にする。


「…はあ?」


その言葉は、一体、この女は何を言っているのだろうか、と言う返答だった。

刻の冷めた目付きを受けたのか、トワイライトは身震いを覚えた。

耳まで赤くしながら、薄桜色の唇を舌先で舐めて濡らしていた。


「参考までに聞きたいだけなので…あの、鎖を持つ側に興味はありますか?」


今度は、鎖を持つ手を刻に見せた。

明らかに、今の状況とは関係の無い話だと、刻は今更になって察した。


「…あの、この話、深掘りする必要ありますか?」


出来る事ならば、これから先、自分はどうなってしまうのだろうか。

そういった事で頭を悩ませたかった。

だから、トワイライトの質問に答える気は無かった。

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