最後の気力を振り絞る

肉体から剥げる魔装凶器の装甲。

それと共に、刻の手には、黒色の歯車が握り締められていた。

その黒い歯車は何も発する事は無い。

ただ、力だけが感じ取れた。


「…成仏したかよ」


刻は寂しそうな表情をする。

魔装凶器に変える事が出来る元凶は倒した。

しかし、まだ魔装凶器は大勢いる。


「刻、元に戻りまして?!」


四葩八仙花は驚きの表情を浮かべながら告げる。

本来、魔装凶器となったものは、二度と元に戻る事は無いのだ。

それなのに、刻だけは例外で、元の姿に戻っている。


だが、それは嬉しい事では無い。

元に戻ったと言う事は、実力も元に戻っただけである。


「ッ、魔装凶器マーダークライッ!」


まだ、魔装凶器は大勢存在する。

戦争の渦中に、刻は存在していたのだ。


「雅ッ!行きましてよ!!」


そう言いながら大きく扇を振り上げる。

だが、四葩八仙花に接近する魔装凶器。

能力を使用するのを止めて、彼女は魔装凶器の攻撃を扇で受ける。


「くッ!早く、お逃げなさいましッ!!」


四葩八仙花はそう叫んだ。

刻は立ち上がろうとする。

だが、下半身が力が入らなかった。

膝を突く刻は、自身の肉体の限界を迎えているのを察した。


(あ、マズイ、意識が)


自身の身体能力の限界を超えて行動したのだ。

肉体は既に、一日の行動限界を過ぎていた。

意識すら落ちそうになる刻。


しかし周囲の魔装凶器はお構いない。

倒れそうになる刻に接近し、攻撃を開始しようとする。

獣の如く、理性の無い魔装凶器による鏖殺が始まろうとしていた。

だが。


流石に、これ程の騒ぎを起こせば、騒ぎを聞きつけた者は大勢居る。


「―――刻ちゃん」


その言葉と共に。

刻の肉体に、高速で射出された鎖が繋がり、引っ張られる。

そして、灰色の髪を靡かせる、幼馴染の胸元に、刻の身体が沈められる。

柔らかく、女としての肉付きをした、折紙千代姫の抱擁だ。

傷だらけで、血を流していて、彼女の衣服に血液が付着する。

それでも、折紙千代姫は気にする事が無い。

掌で、刻の傷を抑えながら、哀しみを抱きながら抱き締める。


「だから、嫌だったのに、刻ちゃんが、痛い思いなんて、させたくなかったのに…あたしが、無理矢理にでも…刻ちゃんを閉じ込めておけば…こんな事には、ならなかったのに…っ」


周囲の魔装凶器を睨みつけながら、彼女は片手で鎖を操作する。


「お前らが、刻ちゃんを、ここまで傷つけたんでしょ?なら良い、死んで」


冷たく言い放つと共に。

折紙千代姫は改めて、自らの〈武装人器アーセナリード〉に命じる。


「繋ぎ合わせろ―――〈武装人器アーセナリード〉」


その言葉を最後に。


(折紙、…いや、■…)


刻は、昔の名前を思い出した。

折紙千代姫が、戦処女神になる前の名前を、だ。

しかし、覚えているのは其処まで。

刻は限界を突破し、そして、気絶する様に眠るのだった。

















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