新しい世界へ

拳から、じんわりと熱を感じる。

普段の己では感じる事の出来ない、衝撃の熱。

順応した事で、魔装凶器の力を扱えている。

何度も確かめる様に手を開いたり、握ったりして、そして眼前に迫る新たな魔装凶器に向けて拳を固めると、顔面を殴った。


(待ってろよ、すぐに、ぶっ殺してやる)


刻はそう思いながら走り出す。

何体もの魔装凶器が刻へ向かっていく。

それは、主である黒いドレスの女性を守る為だろうか。

だが、彼ら魔装凶器が、刻を狙う事は無かった。


「行きなさい、刻」


羽搏く煽動王アネモネ・アトモスフィアキング〉の能力を使役。

有する能力は、対象を限定し、弾き飛ばす事が出来る。

一度、振り翳せば、魔装凶器を限定にする事で、その対象の間に誰が居ようとも、魔装凶器のみを弾き飛ばす事が出来る。

戦処神器セイヴァード〉だからこその、破格の性能であった。

更に、刻の体を押し上げる様に弾き飛ばす事で、一直線に目掛けて疾走の手助けを行う。

これにより、黒いドレスの女性へと、一気に近づく事が出来た。

刻は拳を構える、確実に相手の心臓を潰す為に、拳の内側から釘を生やす。

釘の先端が拳に生え出して、刺突性能を上昇させた。


黒いドレスの女性は、大きく手を広げる。

肉体の隅々から、黒い歯車を飛び出した。


「いってらっしゃい」


その言葉と共に、刻は黒いドレスの女性に、釘の拳を突き刺す。

皮膚を破り、肉を突き破り、骨を砕く感触の末に、激しく動く心臓の音が、拳から伝わって来る。


「あぁ…これが最期、私の終わり、とても素敵…私を終わらせてくれるキミは、一体、なんて言う名前なの?」


自らの胸元に突き刺さる拳に、線の細い指先を絡める。

刻は、彼女の言葉に、冷たく言い放った。


「てめぇが、犠牲にして来た奴の名前、全員言ってみろ、そうすりゃ教えてやる」


大きく目を見開く。

そして残念そうな顔をして、微笑んだ。


「残念ね…全員の名前を言い終わる前に、死んじゃうから…」


黒い女性は、刻に向けて指先を向ける。

すると、刻の肉体は後ろへ向けて弾け飛んだ。


「さあ、いってらっしゃい…この世界の全て、大勢の弱者を救う為に…」


彼女の胸元から血が流れ出す。

いや、それは血では無かった。

固形物、黒い歯車が、大量に放出し、空に目掛けて飛んでいく。


「この世界の変容を見守れない事だけは、残念だけれど…私の死が、序章へ繋がる」


そして、黒い魔女は、微笑を浮かべながら、肉体が灰色に変色し、砂の様に砕け散る。


「ようこそ、魔装凶器が統べる世界へ」


その言葉を最後に、多くの黒い歯車を周囲に飛ばして、黒い魔女は死に絶えた。

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