新たな力の元で

「貴方、意識はあるんでして?」


恐る恐る、四葩八仙花よひらはっせんかは刻に聞いた。

黒いドレスの破片を拳に付着させた刻は、それをもう片方の手で剥がしながら顔をお嬢様の方へと向ける。


「あぁ、俺は歯車だからな、黒い歯車を植え込まれても、上手く動かせるんだよ」


と、さも当然の様に言う。

だが、刻自身も、それに気が付いたのがついさっきの事であった。

もしも、刻が黒い歯車に込められた魂の声を拒否すれば、魔装凶器と同じ様に意識を奪われていた可能性がある。

結果的に、刻は魔装凶器を体内に取り入れる事が出来たのだった。


「さて、そんじゃあ、こいつらの願い事を叶えてやるとするか」


刻はそう言いながら、改めて握り拳を作る。

魔装凶器を装備した刻、黒いドレスの女性は、胸元を隠した状態で微笑みを浮かべた。


「うん、それがキミの遣りたい事なら、存分にすると良い、それはきっと、素敵な事だと思うから」


怒りも興奮も、浮かべる様子も無く、刻の遣る事全てを許容する言葉を口にする。

胸元を隠していた手を下げて、両手を大きく広げて、全てを抱擁するかの様に、魔装凶器たちに告げる。


「キミたちの全てを私に見せて?」


甘い声に、魔装凶器は反応し、口を大きく開く。


「ァォァ呀あああああああ!!」


その言葉と共に、魔装凶器たちが大きく声を荒げた。

破壊と殺害、それらを許容され、自らの力を誇示する為に動き出す。


四葩八仙花よひらはっせんか様」


刻は紫陽花の髪を靡かせる四葩八仙花よひらはっせんかに声を掛ける。


「なんですの?」


巨大な扇を構える彼女は、魔装凶器の迎撃に備える。


「こいつらの弱点は黒い歯車だ、それを壊せば、あいつらは解放されます」


黒い歯車を体内に内臓する刻だからこそ、魔装凶器の弱点を知り得た。

その言葉に、四葩八仙花よひらはっせんかは頷く。


「情報、感謝致します、とき


名前を呼ばれる。

一瞬、刻は呆けた。

己の名前を知覚してくれていた。

あの、戦処女神が、だ。

それに嬉しさを噛み締めた。

そして。


迫り来る魔装凶器に、刻は握り拳を叩き付ける。

鋼の拳、釘が撃ち込まれた拳。

魔装凶器は巨大な剣が上腕となっていた。

大振りな攻撃を視覚に入れた状態で回避。

拳を胸元に向けて叩き付ける。

その瞬間、能力が発生する。

それは、魔装凶器の元となった者の能力である。

〈釘バット〉の武装人器。

この能力には二種類の能力があった。


「ブッ飛べ」


一つは、バットとしての能力である。

対象の中心線、顔面、胸元、腹部、芯の通う部分に全力スイングの拳を叩き付ける事で、対象の肉体を打ち飛ばす程の衝撃を発生させる〈強打者フルスイング〉。

これにより、魔装凶器の胸元に備わる黒い歯車ごと破壊し、肉体を打ち上げる事が出来た。



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