魂の反響



『たすけて』

『ゆるさない』

『ころしてやる』

『いたい、いたぃ…』


夢の中では、複数の声が反響していた。

多くの武装人器の魂が、複雑に繋がれていていると、刻はそう感じた。

何故、そんな声が聞こえるのか。

それは、この複数の魂の集合体が、刻に装着された歯車だったからだ。

同じ、歯車と言う部品だからこそ、刻は同体の気持ちを理解する事が出来る。


『たすけ、て』

『いやだ…し、死なせて、くれぇ…』


思う様に動けず、自由を束縛され、成仏する事も出来ない状況へと陥った。

複数の怨嗟の声と、救済を求める声が、歯車の擦れる音として刻に訴え掛けたのだ。


『どういう事だ?…あんたら、何者だ?』


刻は聞いた。

彼らが何故、この様な複雑かつ猟奇的な歯車として変貌してしまったのかを。

彼ら歯車、武装人器の集合体は彼の問い掛けには答えない。

だが、少なくとも、彼らが一つに融解してしまった理由が聴こえてくる。


『女に部品にされた』

『色んな部品で、俺達が作られた』

『魔装凶器を人為的に発生させる為の道具として』

『たすけてくれ』

『死にたくない』

『お願いします』


その様に悲壮感漂う声色で刻に投げ掛けて来る。

だが、刻にはどうしようも無い事だ。

彼らの為に何かしたくても、刻はただの武装人器でしかない。


『おねがいだぁ』

『タスケテ…タスケ、テ…』


夢の中で、無数の人々の手が刻を掴み出す。

刻の心の内に、彼らに対する恐怖が生まれ出した。

彼らの手を振り解かなければ、自分も闇の中へと引き摺り込まれるかも知れない。


『いや、あんたらを助けるのは無理だ、俺には出来ない』


しかし。

刻は彼らから逃げず、手を振り解く真似もせず。

真正面から、悪びれる様子も、義憤にかられる様子も無く、そう言った。


『だけど…あんたらの気持ちは、痛い程に分かるよ』


同じ歯車だからこそ。

彼らの感情が噛み合い、共感覚を抱く。

自由を失い、肉体を失い、矜持を失った。

武器として扱われず、道具として使用される運命と化した。

それが、口惜しく、悔しく思う。


『…カタチだけでも、救われたいよな?』


刻がそう言った。

すると、刻の言葉を聞いていたのか、魂の集合体は、自然と冷静沈着となっていく。

刻が、彼らの魂を理解し、共感する様に、彼らも、刻に共感し、理解を深めていく。


『許せねぇよな、その女、ぶん殴って、そんで、恨みを晴らしてやりてぇよな?』


刻の語り掛けに、魂の集合体は頷く。


『殴ってやる、倒してやる、俺が、あんたらの分まで、そいつを、辱めてやる』


刻の宣言。

それを聞いた彼らは、一丸となって頷く。


『やってくれ』

『たおしてくれ』

『そいつを』

『おれらの無念を』

『どうか』

『どうか、お願いします』


心の奥底から。

刻は了承の一言を口にした。


『任せろ』


その声が漏れると共に。

次第に、刻の肉体が軽やかになっていく。

夢の浮遊感が鎮まっていき。

そして現実の重さを全身で受け止める。

目覚めと共に、刻は、彼らが恨み、激しく憎しみを抱く、黒色のドレスを着込んだ女性が隣に居た事を察した。

そして、魔装凶器としてでは無く、刻として、自我と意志を以て攻撃をしたのだった。


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