歯車は狂わない

 

「そして、キミたちに対して怒りを浮かべる事も無ければ、それ以外の理由で活動するものも居る、…さて、キミはどうかな?無価値な武器でありながら、魔装凶器を倒した、歯車さん」


そうして、黒いドレスを着込んだ彼女は、魔装凶器と化した刻に話し掛ける。

膝を突いた状態で、動く気配すらない彼に、彼女は耳元まで近づいて、囁く。


「だいじょうぶ、きみは強くなった…きみが望む事をしても良いんだよ?それを、どうか私にみせて?」


子供を宥める様な声を漏らす。

その声に、ようやく反応したのだろうか。

上半身から釘を生やす魔装凶器はゆっくりと立ち上がる。


「そう、それで良いんだ…さあ、キミの力、を」


そして。

魔装凶器は顔面を黒いドレスの女へと向ける。

細くて長い、針の様な牙を剥きながら、魔装凶器は硬く握り拳を作る。


「なら、俺のヤりたい事、ヤらせてもらうぞ」


唸る事しか出来ない筈の魔装凶器。

人語を話した事で、口を開き呆然とする黒いドレスの女性。

そして、魔装凶器の拳が、思い切り、彼女に向けて振るわれる。

拳の全てが、釘を打ち付けられており、当たれば釘の面が皮膚に食い込むだろう。

しかし、魔装凶器の動きを一瞬で察したのか、黒いドレスの女性は背後へと後退し、攻撃を避けようとした。

だが、その一瞬は、隙を突かれた様なものだった。

反応が遅れて、身体を傷つけるまでには行かなかったのだが、それでも、彼女のシースルーのドレスに釘の面が引っ掛かり、思い切り引っ張られた為に、ドレスが破れる。

結果、ドレスに包まれた真っ白な肌と共に、たわわに実った乳房が露出してしまう。


「あら」


予想外だったのか、その様に声を漏らして、自らの胸元を片手で抑えると、乳房を隠す。


「まあ、何て酷い事をするの?お気に入りのドレスだったのに、破るだなんて、酷い人」


その口調と表情からは、怒りを浮かべている様子では無かった。

それでも、想定外である事には変わりなく、自らの命令に反した魔装凶器に興味を抱いている。


「でも、凄い、普通は、力を得ると、人間性を失うのに、キミは理性と自我を残してる…一体どうして?」


不思議そうに尋ねる彼女に、魔装凶器は肩を軽く回しながら言う。


「俺は、歯車の武装人器だ、テメェがくれた黒い歯車は、俺の耳によく響いたんだよ」


だから、彼は自我を残す事が出来たのだと、そう言った。

刻が、魔装凶器として変質した後の話。

彼は意識を失い、夢の様な浮遊感と共に、それらに出会った。



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