幼い頃の記憶

幼い頃の記憶。

それは、まだ彼が、■■■■と言う名前だった頃の話。

そして、彼女が■■■と言う名前だった時の話。


灰色の髪を靡かせて、涙を流す彼女を尻目に、刻は体を抱き締めた。


『だいじょうぶ、おれがまもるから』


大人が口を酸っぱくして言い続けて来た、絶対に入ってはいけない場所。

嘗て、魔装凶器の軍勢が押し寄せて、戦処女神と戦い、ゴーストタウンと化した廃墟の地区。

荒れ果てた舗装道路、半壊した建物、誰も居ない場所には、ならずもの達が潜んでいた。


子供にとって、危険な場所と言われても、危険の意味が分からなければ、其処に入ると言う重要性も理解出来ていない。

むしろ、子どもの頃の禁忌と言う言葉は、破る為にあるのだと思う程だろう。


そうして、複数の子供が、自分たちの遊び場として、禁止エリアへと入る事があった。

其処で、魔装凶器、と言わずとも。

武装人器として価値が無い武器たちが集まっていた。


彼らは社会に憤りを感じていた。

武器として覚醒したが、戦処女神は彼らを使わなかった。

社会に出ても、武装人器だからと言われ、決して取り持ってくれなかった。

必死になって就職し、職についても、無価値な武器として蔑まれ、笑いものにされてしまう。

そうして精神を病み、裏社会へと流れていく者が後を絶たない。

そして、運悪く…刻が居た場所は、武装人器として価値の無いものが、社会に恨みを抱き、復讐をしようとしているものの集いであったのだ。

当然、まだ子供が話を聞いても分からないテロリストの計画だが、聞いてしまった以上は、口封じをしなければならない。

散り散りになって別れ、そして、刻は■■■■と共に隠れた。

涙を流して震えている彼女を、強く抱き締めて恐怖を和らげる。


『なにがあっても、おれがまもるよ』


そう告げて、■■■■は、頷いた。

彼女にとって、刻は何よりも安心する存在だった。


その後の事は、刻自身もよく覚えてはいない。

記憶の片隅から思い出した内容の中で、その出来事だけが一番記憶に残っていたのだろう。


この事件の後。

多くの叫び声が耳の中に残る中。

刻と■■■■を含めた子供たちは、戦処女神に保護されたのだった。


『…おれは、あんな大人には、ならない』


それが、刻が無価値な武器である事を嫌悪する正体だった。

その後、歳を重ねていき、彼女は戦処女神となった。

刻も同じ様に武装人器となり、武器としての道を歩む。

人だった頃の経歴と名前は消され、武器として、女神として、歩む事になったのだ。

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