オークション

オークションルーム〈ブンダーカンマー〉。

能力と人権を競売へ出し、戦処女神セイヴァルキューレ達が競り合う場だ。

既に競売は始まっていて、夫々の戦処女神セイヴァルキューレ達が札を挙げて欲しい武器を奪り合っている。


「はい、20番、400、33番、440、04番、500ッ!はい、500万、出ました!他、他には居ませんか?はい、落札ゥ!!」


大賑わいを見せる競売会場。

幕の裏側から外を見る刻。

ステージの上には多くのスポットライトに照らされている。

客席は暗いが、何とか競売で扱う札が見える程の灯が付いていた。


「04番の戦処女神セイヴァルキューレ様、強気だなぁ…」

「これまで全部買ってるぜ?」

「あぁ、もしかしたら全部、競り落とすんじゃないのか?」


そう男子生徒達が話していた。

その話に割って入る様に、刻が顔を出す。


「誰の話をしてんだ?」


そう聞くと、男子生徒達は振り向いた。

相手が刻であるのを確認すると、同情の顔を浮かべる。


「あぁ、お前か…あれだよ、トワイライト様だ」


そう言われたと同時。


「おい、次は…なんだ、鉄屑かッ!」


運営の役員がステージの幕から入って来る。

そして、刻の顔を見てそう罵った。

睨まれながら、蔑称を言われれば、流石の刻も言い返したくなったが。


「お前、時間通りに来いよ!お前がトリになっちまっただろうが!!」


そう言われて刻は即座に黙った。

確かに、時間通りに来なかったのは自分が悪い事だった。

会場に辿り着くまでに、かなりの時間を有してしまった。

それは言い訳に過ぎないので、刻は口を出す真似はしなかった。


「ほら、最後だ行って来い!!」


そう言われて、刻の背中を押してステージの上へと出される。

躓きそうになりながらも、刻はスポットライトに当てられながら周囲を見回す。


(さっき、トワイライトって言ってたな?)


そう思いながら、彼は目を動かして探す。


「うわー…あれ」

「鉄屑だ、売れ残ってるじゃん」

「誰か買わないの?」

「買うワケないでしょ、あんなゴミ」


戦処女神セイヴァルキューレたちがその様に、刻の姿を見ながらそういう。

最早慣れたものであり、刻は特に気にする様子も無く周囲を探して、そして見つけた。


暗闇の中でも黄金の色気を持つ女子生徒。


トワイライト。

名前は刻も聞いた事がある。

畏怖の意味を込めて〈人器殺し〉のトワイライト、である。

敵である〈魔装狂器マーダークライ〉を討伐する際に、〈武装人器アーセナリード〉を使用するのが戦処女神セイヴァルキューレの遣り方である。

トワイライトは、多くの〈武装人器アーセナリード〉を侍らせており、相手に合わせて人器を遣うのだが、彼女の力は余りにも強過ぎた。

戦処女神セイヴァルキューレは武装人器に対して熟練度と好感度が高ければ高い程に洗練された武器として使役、異能の力が上昇する傾向にある。

それにより、彼女は一度、武装人器を使用するだけで破壊してしまう程に力を流し込んでしまう傾向にある。

その為、彼女に選ばれると言う事は、人器の肉体は補修不可に至るまで破壊されてしまう。


しかし。

武器として使われて死亡した場合、それは名誉ある事として世間的にはそう認識される。

トワイライトと共に戦ったと言う事実、彼女の歴史の一部に慣れると考えれば、彼女に扱われる武装人器もまた悦ばしい事であった。


「…うーん」


トワイライトは刻の顔を見ていた。

金髪で、さらさらとした髪に、名前と同じ彼岸花を模した髪飾りを付けた彼女は、頬を赤くしながら刻の顔を見詰めている。


(…もしかして、俺を取ってくれるのか?)


舌先を出して舌なめずりをしながら、淫靡な笑みを浮かべていた。

脈ありか、と思っていた刻だったが、突如としてトワイライトは客席から立ち上がる。

それに伴い、付き人である武装人器たちもその場から離れだした。


「面白そうな方ですが…きっとすぐに壊してしまいます」


目を細めて、刻を見ながらそう告げる。

戦処女神セイヴァルキューレによっては、その魂を認識し、どのような武器であるのか感知する事が出来た。


「可愛らしいですが…だからこそ、無闇に奪ってはならぬ命もありますからね」


その様に刻を評価していたが、その様な言葉は、刻の耳には届かない。

そして、彼女はオークションルームから退席してしまう。


(俺だけ買わないのかよ、…いや、買われてたら使われてたし、そうなると…死んでた?…じゃあ買われなくて良かったのか?いやでも、武装人器としてどうなんだ?いや、他にも俺を買ってくれる人がいるかも…)


そして周囲を見回す刻だったが。

誰も札を挙げる素振りは見せなかった。

それ所か、トワイライトの退室に伴い、他の戦処女神セイヴァルキューレたちも退室していた。

誰も、刻を見てはいなかった。


「…笑っちまうな」


顔を引き攣らせながら、やせ我慢をする様に、刻はそう言って笑っていた。

武器として評価を得る為にオークションに出た。

なのに、武器として買われる事すら出来なかった。

それは最早、刻はスタートラインにすら立つ資格が無いと言われているようなものだったのだ。

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