諦める事を覚える
「売れ残っちまったなぁ」
呆然としながら刻は空を見上げながら歩いていた。
何故か、悔しい気持ちは無かった。
この結果は予想出来ていたからだろう。
思えば最初の頃からだった。
武装人器として覚醒した年。
学園へと転入して来た刻は現実を知った。
最初のパートナー決めの時も、クラスの大半が
『あー、余り物だ』
『本当だ、かわいそー』
『ナイフとかだったら私が貰って挙げよっか?』
情けを掛けて、刻をパートナーにしてやろうと言う者も居た。
しかし、刻の能力が歯車と聞くと、彼女達は笑った。
『ウソ、武器ですら無いじゃん!』
『そんな武器形態でどうやって戦うの?!』
『あぁ、おかしいッ!鉄屑が夢見ちゃってる!』
それに釣られて笑う男子生徒達の顔は、自分が無能な能力で無くて良かったと思っている、そんな顔をしていた事を覚えている。
(最初の頃は、見返してやるって気持ちだったけど…もう誰も、俺の事を必要としてねぇんだって思うと、やっぱ、そうだよなぁ、って、そんな感想しか出て来ねぇや)
掌を見詰める。
刻は歯車を生み出すと、ゆっくりと回り出す。
(俺って存在を認めて貰う為に、努力をしたが…誰からも見向きもされなかった)
掌から、肩から、足から、首から、背中から、あらゆる箇所から歯車を生み出す、木製の歯車やシリコン製、金属製の歯車と多様な歯車である。
「…それならもう、仕方がねぇか」
刻は苦悩から解放を望んだ。
最早、武装人器としての価値は無い。
それを理解出来た以上、刻は逆に諦めが付いた。
「これが、運命って奴だ、潔く諦めるしかねぇよな?」
儚げに笑いながら、刻は自らの歯車を収納する。
(それか、大人しく折紙千代姫と契約するか?…は、何を今更、お前が否定したんだ、それなのに、擦り寄るなんて、虫が良すぎる話だろ)
折紙千代姫はそんな事気にしないだろうが、その道は自分にとって都合の良い展開でしかなく、彼女に買われると言う選択を選ぶ気にはなれなかった。
すっぱりと諦めた刻は自らの腕時計を確認する。
(考える事を諦めたら腹が減ったな…)
腹部に手を添えて、刻は歩き出す。
放課後の時間帯であり、学園外へ外出する生徒の姿が見られる。
刻もゆっくりと歩きながら外出をして、周囲を見回した。
(何か飯を食って、その後はどうするか…)
最早、武装人器としての道は諦めた。
ならば学園に居る意味も無いだろう。
早々に退学届でも出そうかと考える。
しかし、そうなると法律の問題に当たってしまう。
一応は優良武装人器として認定して貰う為に卒業はした方が良いだろう。
で無ければ、一生、不良品として首輪を装着する人生が待っている。
そんな窮屈な人生は嫌なので、退学届けを出す事は止める、そう考えていた時だった。
ふと、道路の周辺で人が走り去る姿が見えた。
何やら急いでいて、他にも悲鳴の様な声が聞こえてくる。
ようやく、物思いに耽る事から離れると、商店街前に人の姿があった。
悶え苦しむ様に体をくねらせて、次第に服を破り筋肉が肥大化していく。
「うわぁ!!
外出していた男子生徒の一人がその様に叫んだ。
「は?!」
〈
人が武器と成る方向性は二種類ある。
武器化の制御をする事が出来る代わりに出力が低下する〈
武器化の制御が出来ず、出力が最大になる代わりに理性が消え失せ、手当たり次第を破壊し尽くし殺戮の限りを尽くす〈
今、刻の前に悶えるのは、先程覚醒を果たした〈
この世界の人間は皆、その肉体の内部に武器化現象を備えている。
それが覚醒するのは今日かも知れないし死ぬ寸前かも知れない。
一度覚醒をしてしまえば、その肉体が元に戻る事は無い不可逆なものだった。
「くッ」
相手を見据える。
魔装凶器と化した元人間。
肥大化した腕から生える無数の釘。
恐らく、この人間が発現させた武器は、〈釘バット〉なのだろう。
「うがぁ!!」
叫ぶと共に、魔装凶器が大きく腕を振り上げる。
ぶんぶんと振り回すと、男子生徒たちは蜘蛛の子を散らす様に離れる。
「
「誰か緊急要請をしろ!!」
商店街の店員らしき男性が、男子生徒に声を掛けた。
「な、なあ、あんたら武装人器だろ?!何とかしてくれよォ!」
そう言うが、彼らには無理な話である。
「
「早く、早く
そう言って誰も魔装凶器を止めようとしなかった。
そして、魔装凶器は腕の武器を構える。
人間の時よりも二倍に膨れ上がった魔装凶器。
近くに居た子供連れの主婦に向けて攻撃をしようとする。
どうやら主婦はその場から逃げ遅れたらしい。
「いやああ!!」
叫ぶ主婦、せめて子供でも守ろうと抱き締める。
烈しい音と共に、衝撃が地面を伝わる。
しかし、主婦たちに怪我は無かった。
「ぐ、ふッ!」
真正面から魔装凶器の攻撃を受け切った刻。
頭部を強く殴打されたが、頭部が破壊された様子は見られない。
「奥さん、早く、離れて」
釘バットが当たる寸前、刻は頭部から歯車を出した。
釘の頭部が彼の頭に減り込む事無く、歯車に当たった為に、辛うじて衝撃が頭に伝播する程度で済む。
「あ、貴方も早く逃げなさい!!武器になっても、叶わないでしょ!!」
主婦はそう言いながら子供を連れて離れる。
確かに、彼女の言う事は正しい。
「そうだ!!ってお前!!屑鉄ッ!!」
「お、俺達は誘導、非難だ、あいつが捨て駒に…いや、時間稼ぎをしている間にッ!!」
「あいつ馬鹿だろ、
「まあ、屑鉄だし良いんじゃね?」
「そ、そうだよ…むしろ、身の程を弁えろって感じだろ」
「屑鉄の癖に、な」
彼らの声が聞こえてくる。
確かに、彼らの方が正しいと思える。
此処は、
だが、それを待った所で、一体、魔装凶器がどれ程の被害を齎すか。
人を傷つけるかも知れない、大切な何かを壊すのかも知れない。
その様な性格の良い、正義の味方が自己献身に奔りそうな事など、刻は一切考えない。
あるのは単純な考えだ。
(キレた、何もかも、俺も、テメェもッ!!)
誰も彼もが無理だ無謀だと告げる。
刻には価値が無い、意味が無い、どうしようも無いと、蔑み笑い、嘲り指を差す。
気に食わない事ばかりだ、最早、我慢をする必要はない。
「魔装凶器だってんなら、倒しても良いよな?なんせ俺は、武装人器だもんなぁ!!」
拳を強く握り締める。
拳骨部分から二枚の歯車を突飛させた。
歯車の一枚目を回転させ、二枚目を逆方向に回転させる。
そうする事で、肉を抉る破砕機と同じ役割を持つ武器へと変えた。
それを自らの頭を殴った釘バットの様な腕に向けて叩き付ける。
めり、めりッ、と嫌な音を立てながら肉を食い込ませて破砕していった。
腕との神経が繋がっているのか、魔装凶器は赤い目を細めて後退した。
「うがァ!!」
刻を睨み付ける魔装凶器に対して、刻は歯車を引っ込めて歯を剥き出して笑った。
「キレたか?お互い様だぜ、キレてんだよこっちも!お揃いだなァおい!!」
刻は手招きをする。
自分一人で、この強敵を倒す気概だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます