第6話 失われた夢


喫茶店の片隅、僕たちの間に広がる微妙な空気。凛は、砂糖をコーヒーにゆっくりと溶かしながら、覚悟を決めたように口を開いた。


「サッカー…本当に気にしていないんですか?」


鋭い質問。凛の瞳は、僕の奥底を見透かそうとするかのように固定されていた。


笑うしかなかった。


「気にしていないって言ったら、嘘になる...」


初めて、本音を少し零した。


プロを目指していた自分。高校でもトップクラスの成績。スカウトも何社か興味を示してくれていた。全てが、一瞬で消え去った夢。


でも、それ以上に大切なものがあると、今は理解している。


「けどさ、命の重さって、サッカーよりもずっと重いんだ」


凛の目に、涙が浮かぶ。でも今回は、罪悪感からくる涙ではない。理解しようとする、小さな共感の涙。


「諦めたわけじゃない」と、僕は付け加えた。「違う形で、夢は続くからさ」


コーチや指導者として。分析者として。サッカーと関わる道は、まだいくらでもある。夢は形を変えるだけで、決して死んだわけじゃない。


少女は、少し安堵したように深く息を吐いた。

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