第6話 失われた夢
喫茶店の片隅、僕たちの間に広がる微妙な空気。凛は、砂糖をコーヒーにゆっくりと溶かしながら、覚悟を決めたように口を開いた。
「サッカー…本当に気にしていないんですか?」
鋭い質問。凛の瞳は、僕の奥底を見透かそうとするかのように固定されていた。
笑うしかなかった。
「気にしていないって言ったら、嘘になる...」
初めて、本音を少し零した。
プロを目指していた自分。高校でもトップクラスの成績。スカウトも何社か興味を示してくれていた。全てが、一瞬で消え去った夢。
でも、それ以上に大切なものがあると、今は理解している。
「けどさ、命の重さって、サッカーよりもずっと重いんだ」
凛の目に、涙が浮かぶ。でも今回は、罪悪感からくる涙ではない。理解しようとする、小さな共感の涙。
「諦めたわけじゃない」と、僕は付け加えた。「違う形で、夢は続くからさ」
コーチや指導者として。分析者として。サッカーと関わる道は、まだいくらでもある。夢は形を変えるだけで、決して死んだわけじゃない。
少女は、少し安堵したように深く息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます