第4話 償いの代償


コンビニのレジ袋を握りしめた凛の姿が、今でも目に焼き付いている。


その日、母が彼女を台所で厳しく叱っているのを、僕は部屋から聞いていた。


「あなた、高校生なのよ!」母の声は怒りと悲しみで震えていた。「自分のバイト代を全部、私たち家族に渡そうとするなんて、どういうつもり?」


凛の声は小さく、震えていた。「で、でも、せめて響さんの治療費くらいは…」


「治療費?馬鹿なこと言わないで!あなたに払える値段じゃないわ!」


僕は扉を少し開け、二人の様子を伺った。凛は 震えながら、両手で持っていた給料明細を落としてしまった。目には涙が浮かんでいる。


母の厳しい眼差しと、凛の萎縮した姿。罪悪感に苛まれる少女の、歪んだ償いの形。


「ごめんなさい…」凛は何度も謝った。


母の怒りが、彼女を心配するがゆえのものだということは分かっている。この子が自分を追い詰めることを恐れて、ここまで厳しく当たっているのだろう。


僕は静かに咳払いをして部屋から出た。


「凛さん」


彼女は驚いて振り返った。涙で腫れた目。

病室で見た目と一緒だ。


「あんまり、思いつめないでね」

彼女の瞳に、戸惑いと悲しみが交錯する。


僕には分かっていた。彼女の中で、事故は癒えない傷となって刻まれていることを。彼女が背負い込んでいる、重すぎる代償を。

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