第3話 歪んだ償い

退院後、僕は彼女の異常なまでの献身に戸惑っていた。

あちらの家族とも話し合いをし、僕の家にリハビリの手伝いをしに来ることになった彼女。


毎日、凛は僕の家の玄関に現れる。家事、掃除、洗濯、食事の用意。まるで罪滅ぼしのように、彼女は僕の生活のあらゆる隙間を埋めていく。


最初は助かると思った。リハビリで動けない僕にとって、彼女の存在は便利だった。でも、次第にその献身が異常であることに気づき始めた。


朝は午前5時、まだ暗い時間に玄関を開けて入ってくる。母は最初、不審に思っていたが、凛の必死な様子を見て黙認するようになった。


「私が、せめて少しでも…」


彼女はいつも同じ言葉を繰り返す。償いという名の歪んだ愛情。僕の事故前の生活を、彼女は完璧に再現しようとしていた。


サッカーユニフォームを洗濯し、部屋に飾る。トロフィーを丁寧に磨く。まるで、僕の過去を祭壇のように祀っているかのようだった。


「...そこまでしなくても」


ある日、僕は本気で彼女を諭した。

しかし、どれだけ言っても...

「私には、これしかできない…これくらいしか...」

と言って聞かない。


彼女の目は、哀しみと罪悪感で、どろどろと濁っていた。まるで、自分の存在の意味を失うかのような恐怖に震えている。


僕は彼女を心配していた。この病的なまでの献身は、彼女自身を蝕んでいく。罪悪感という名の牢獄に、彼女は自らを閉じ込めようとしている。


でも、まだ僕には、彼女を救う言葉が見つからなかった。

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