第3話



 「で、どうしてくれるんだよ」



 デートが終わって、晩飯にありついてた。


 コンビニで買った弁当と、昨日のおかずの残り。


 15人家族という大世帯の俺ん家は、料理当番が4人くらいいて、昨日のおかずを担当したのは「俺」だった。


 俺は、爺ちゃんが住んでた古い家の方に居座ってる。


 “古い家の方“っていうのも変な話だが、ようは大世帯すぎて、一個の家じゃ収まりきらないって話。


 広い庭の中に家が三つあって、そのうちのひとつが爺ちゃん家で、一つは母さんたちの家、そしてもう一つは、母さんの兄貴のとこの家だ。


 みんな「家族」だった。



 爺ちゃん家は築50年以上経ってて、何度か増築も行ってる。


 半分は古くて半分は新しいツギハギの作りになってて、リフォームしていない側は今にも倒れそうなくらい傾いてる。


 地震が来たら、多分崩れると思う。


 窓枠が歪んで大窓が開かないし、障子扉だってそうだ。


 いつかは家全体をリフォームしたいんだが、それには莫大な資金が必要で…



 (ちゃんと返しとけ?)


 「何をだよ」


 (ラインだライン)


 「返すって」



 好き勝手言いやがって。


 あっという間に1日が終わってしまった。


 ただでさえ先輩に釣り合わない俺が、今日みたいな失敗を犯してしまったらどうなるか、お前もわかるだろ?


 「次」はないんだ。


 絶対に。



 (もう「次」のことを考えてるのか。浅はかだな)


 「考えるだろ!?普通」


 (デートだけが全てじゃないんだぞ)


 「お前に何がわかる??彼氏いる歴なしの「神」が」


 (この私が、そんな低俗な次元にいると思うか?彼氏とか彼女とか、そんなのは下賤のものたちの所業だ)


 「そんな考えを持ってる奴に、俺は「恋愛」のアドバイスを受けているのか?」


 (私の価値観などどうでもいいだろう。見るに見かねたというやつだ)


 「何度も言ってるが、”余計だ“っつーの」


 (じゃあせめてこっちのことを考えたらどうなんだ?お前の気持ち悪い妄想のせいで、安眠することもままならん)


 「それはお前が勝手に…ッ」



 元を正せば、ある“出来事”がきっかけだった。


 爺ちゃんが病気になった時、近くにある神社に何度もお参りをしてた。


 神社っていっても、そんなに大層なもんじゃない。


 草はボーボーだし、そこらじゅう蜘蛛の巣やカビだらけで、”手入れが届いてない“ってもんじゃない。


 今も昔も、誰も管理していない神社だった。


 街からは少し離れた山の中にあるし、交通の便は最悪だし、色んな諸事情があるんだとは思う。


 ただ、俺はその神社によく行ってた。


 今住んでる家は、神社がある山の麓にある。


 だから行こうと思えば、子供の足でも行けた。



 俺は「神」を信じない。


 神にも色んな定義があるとは思うが、少なくとも“天地を支配する不思議な力をもつ”的な、そういう非科学的な次元の存在には、目を向けるつもりはない。


 …ただ、少しだけ期待している自分もいた。


 爺ちゃんがよく言ってた。


 「お天道様が見てる」って。


 良いことも悪いことも、全部後になって返ってくる。


 正しいと思うことをしても、それが本当に正しいことかどうかは誰にもわからない。


 けど、間違いを間違いと気づくためにも、自分に正直でいなさい。


 誰にだって間違いはあるのだから、せめて、面と向かって言葉を言える人間になりなさい。



 ——って。

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