第2話
「…あの」
気になって聞いてしまった。
なんで、オーケーしてくれたのか。
なんで断らなかったのか。
「…プッ。何それ。キミが誘ったんでしょ?」
「そうなんですけど…」
「うーん、そうだなぁ…。興味本位?」
「興味…本位…?」
「ほら、ヒロ君ってさ、字がうまかったじゃん?びっくりしたんだよね。初めて見た時は」
…ああ
俺が高校に入って書道部に入ったのは、爺ちゃんの影響が大きかった。
爺ちゃんは地元じゃ有名な画家で、それなりに高いお金で絵を売ってるような人だった。
おまけに、「字」もうまくてさ?
ここで言う「字」って言うのは、書道のことだ。
爺ちゃんは「書」の作家でもあった。
“白と黒を扱う天才だ”って、周りは言ってた。
その影響をもろに受けたのは俺だった。
かっこよかったんだよ。
初めて、その作品を見た時に。
「この人凄いかも、って、思っちゃったんだ。だから、興味本位」
「…はあ」
先輩がなんで書道部に入ってたのか、今まで聞いたことはなかった。
「書道部」なんていうマイナーな部活が学校にあった時点で驚きだった。
本当は美術部に入りたかったんだけど、まさか、書道部があるとは思いもせず…
「…先輩は、なんで書道をしようと思ったんですか?」
「私?んー、とくに理由はないんだけどね」
「そうなんですね」
「自分の弱点を克服したくてさ?」
「弱…点?」
「優柔不断なとこがあるから、私」
全然そうは見えない。
優柔不断だから書道部に入ったっていうのも、イマイチわからなかった。
先輩曰く、“思い切りが大事”って話だった。
書道において、「二度書き」は禁止されてる。
試験でカンニングするのと同等の倫理的タブーのような、禁止行為の一つだ。
昔も今も、書道において二度書きはタブーで、一般常識でもある。
どうやら、それが先輩の中での“ヒント”になったようだった。
「形だけじゃなくて、運筆のリズムが、時間の経過とともに表現される。それが「書」でしょ?二度書きは、本来の自分を隠して良く見せようとする粉飾行為みたいなものだから、そういう偽りのなさの中に、生きてみたいと思ったんだ」
「…はあ」
「あれ?私今かっこいいこと言わなかった?」
「…そ、そうですねッ!」
「絶対そう思ってないでしょ」
クスクスと笑いながら、俺の前を歩く。
「清廉潔白」という言葉を、絵に描いたような人だった。
先輩は。
立ち振る舞いも、ちょっとした仕草も、隙がないほどに綺麗だ。
どっかのガサツな女とは違う。
“クールビューティー”って感じ?
落ち着いた物腰も、スタイルの良さも、——全部。
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