第1話・いきなりトップバトル!これが異世界のアイドルライブだ
・グマンの国西区 とある広場
月明かりの夜中の広場には大勢の人が集まり、大音量の音楽と歓声が響いている。この世界のアイドルのライブがもう既に始まっているのだ。
前に進めば広場のステージが見えてくる、その中央で歌うアイドル衣装を着た少女、彼女の歌声に合わせギターを弾く少女にドラムの様な打楽器、シンセサイザーの様なキーボードの付いた楽器を鳴らす少女達……
ガールズバンドの様にも見えるが、ここは異世界、その見るものすべてにどことなくファンタジー映画の様な装飾が目立つ。
やがて彼女達の演奏と歌は終わる、中央で歌っていた少女が何気なく出した魔法陣からボトルを取り出し水を飲む。水を飲み終えた後、ボトルを投げ捨てるとボトルは魔法陣の中へと入り、共に消えていく。
その一服の後、マイクを手に持ち、観客に向けて声を放った。
少女「皆さん、今日はレッドサンズのライブに参加ありがとう!」
少女は笑顔を見せて手を振る。
少女「今日はファイトも無くてちょっとつまんなかったかな?」
少女は観客に聞く。
観客の声が色々と響く、「そんなことなかった」「楽しかった」「つまんなかった」「ファイトが見たかった」
少女「OK、色々あるね。ならアンコールに答えてあげるよ……」
「いるんでしょうグレンダ、出てきなよ」
少女の声に反応して観客の中から一人の少女が出てくる。彼女がグレンダなのだろう、歓声と共に観客が広がりグレンダがステージへと進む道が出来上がる。
「グレンダ!」「グレンダ!」「グレンダ!」「グレンダ!」
歓声のグレンダコールが響く。
グレンダ・マチャップリン。率いるアイドルチーム・グランドアースは、このグマンの国のアイドルランキングの1位である。
対して少女、ホムラ・バーナーナの率いるアイドルチーム・レッドサンズのアイドルランキングは15位。ランキングだけを見れば、かなりの大差がある。
しかしだからこそホムラは彼女に挑戦した。高みを望むための挑戦、そしてグレンダは1位ではあり誰の挑戦も受けていたからでもある。
ホムラ(来てくれて嬉しいわ、グレンダ・マチャップリン。これで最高のライブになる)
グレンダはステージに上がるとホムラからマイクを受け取る。
グレンダ「いいステージだったわ、ホムラ・バーナーナ。そしてレッドサンズのメンバー達」
グレンダは少女達に拍手を送る。
グレンダ「でも、ファイトとなったらどうなのかしらね」
グレンダはホムラにマイクを向ける。
ホムラ「当然……」
ホムラはグレンダからマイクを取る。
ホムラ「……いけるに決まってるでしょ」
湧き上がる歓声、闘争心、お互いにギラついた瞳を合わせ合う。グレンダの口元に笑み、ホムラの手に震え、周囲は張り詰めて唾をのむ緊張感に包まれる。
???「合意と見てよろしいでしょうか!?」
刹那、張り詰めた空気を引き裂く声が響く。
ステージの上、一番目立つ所にさっきまでは無かったはずの逆光と人影、全員の目がそれに注目する。
人影は瞬時にホムラとグレンダの前にその姿を現す。
???「グマンアイドル協会は公式レフェリー、ロー推参」
その人物は忍者とプロレスのレフェリーが混ざったような白黒縦縞の忍び装束を着ている少女だ。
彼女は名乗った通りグマンの国でアイドル同士が戦う時、グマンアイドル協会より派遣される公式レフェリーである。
彼女達レフェリーがアイドルファイトの勝敗を記録し協会に申告、そして勝敗に応じてポイントを増減、ランキングに反映される。
このグマンの国のアイドルランキングの仕組みは簡単だ。
グマンの国の各地にある広場や闘技場で簡易的なライブをする。これは自由。
しかし、今回のレッドサンズのような大掛かりなライブをするとなると話は変わってくる。
このようなライブをするにはアイドルのチームとして協会に登録をして、簡易的なライブやファイトで実績を積む必要がある。
その実績をわかりやすくしているのがポイントだ。ライブをする事で観客から貰え、ファイトで勝つことで相手から奪える。
観客が何故ポイントを持っているかと言えば、市販されているブレスやコアマテリアにポイントが付属しているからだ。
観客が自分のそれを持ってライブに参加する事でアイドルグループにポイントが振られる。
アイドルは得たポイントに応じてライブで使用する楽器や装飾などの許可が下りる。
故に人気のアイドル程、派手で多彩なライブを行える。
それで終わらないのが、このグマンの国のアイドル活動である。
このグマンの国のアイドルはミュージシャンでもあり、ダンサーでもあると同時にファイターでもあり、プロレスの様な対戦が行われる。
今回のようにライブを見に来ていたアイドルを終了時に指名してステージに立たせ、ファイトを申し込む方法は一例に過ぎない。
場所と日程が被り、ライブ権を勝ち取る為にライブの始まる前に行われる事もあれば、ライブ最中に乱入してファイトを申し込まれる事もある。
それがあることで、新しい芸術が産まれる事もあればライブのキャンセルもある。
負ければ離れるファンもいる、そのファンとファイトに負けたポイント、何重にも重なって失う事になるリスクがある。
勝てば相手からファンが得られる可能性もあり、ポイントも貰え、自分達を高めるリターンがある。
勝者は得て、敗者は失う。シンプルな構造。
ロー「それでは改めて、両者合意と見てよろしいですね?」
グレンダ「ええ」
ホムラは頷く。
ロー「それでは、これよりこのファイトは協会公認の正式なアイドルファイトと認定された!レフェリーはこの私、ローが担当させていただく!!」
周囲は盛り上がりを見せる。
ロー「術式開始、対魔防壁展開ッ……」
ローは右手に魔法陣を展開する。その魔方陣は周囲を包み込むように広がり、やがて見えなくなる。これは周囲にファイトによる被害が及ばないようにする結界、バリアだ。
ロー「それでは、これよりチームレッドサンズ、ホムラとチームグランドアース、グレンダのファイトを開始します!両者ドレスセットアップを!」
ホムラとグレンダはお互いに自分の腕に付けているブレスにコアマテリアを装填する。
ホムラ「CoverWatch2《 カバーウォッチツー》、今日はそれで来るのね」
グレンダ「ええ、折角のお誘いですもの。あなたはまだブレスがP-S4《パーフェクトシステムフォー》なのですね、5にはなさらなくて?」
ホムラ「まあ、これで足りるからね。箱使いに心配されたくはなかったけど」
グレンダ「舐められているわけでは無いとわかっただけ良かったです。私も気兼ねなく全力で行けます」
『CoverWatch2』
グレンダのブレスが起動音を鳴らしてからシステム待機音が鳴り始める。
これはシステムのニュートラル状態。後は起動用のキーを入れる事で魔術ドレス生成装置は起動して、対象者に戦う為の衣装を纏わせる。
『F-F/ver7.Remake《ファイナルフォース バージョンセブンリメイク》』
ホムラのブレスも起動音を鳴らしてからシステム待機音が鳴り始める。
そして観客たちもそれぞれブレスを持つ人は、自分のブレスにコアマテリアを装填し始める。
ホムラ&グレンダ「「ドレスアップ!!」」
『ドレスアップ』それが魔術ドレス生成装置ブレスを起動させるキーとなる呪文だ。これで、2人は戦う為の衣装を身に纏った。
会場はまた歓声に包まれるが、その中で少女が一人、険しい顔で二人を見ている。それに気づいたもう一人の少女が彼女に話しかけた。
少女A「おや、なにか不思議そうにしていますね」
少女B「あ、うん。よく知らなくてね」
少女A「そうでしたか~、今日のレッドサンズのライブはチケット制で事前に予定されてましたけど、もしかしてアイドルのライブそのものが初めてですか?」
少女B「うん、興味本位で見たかったから、あそこの……」
少女Bはステージのギターを持つ少女を指さす。
少女B「彼女に入っていいって言われてこれもらったんたんだよ」
少女Bはこのライブのチケットを見せる。
少女A「なるほど、セジールさんに招待されたわけですね」
少女B「大丈夫なの?チケット制って事は定員は決まってるんでしょ?」
少女A「まぁそうなんでしょうが、恐らく今日がチケット制になった理由はホムラさんのグレンダさんへの挑戦がメインでしょうからね」
少女B「どういうこと?」
少女A「つまり、チケット制にしてメンバーの誰かがグレンダさんにそれを渡せる様にしていたんじゃないかって話です」
少女B「所謂、挑戦状ってことね」
少女A「そういうことでしょうね。それで、セジールさんが持っていたグレンダさん用のチケットの余りを貰ったんですよ、あなた」
少女B「……なるほどね、それともう一つ聞かせてくれる?」
少女A「なんですか?」
少女B「なんで皆ブレスレットをするの?」
少女A「ああ、それはですね。ブレスにはアイドルモードとファンモードと言うのがあるんです」
少女B「はぁ」
少女Aは自分のブレスを少女Bに見せる。
少女A「ファンモードにして、コアマテリアを取り付けることで……」
少女Aが自分のブレスにコアマテリアを取り付けてブレスを起動されて機器をいじり始める。
少女A「ライブメニューオープン」
少女Aのブレスからメニュー画面が飛び出してくる。
少女A「私のブレスとコアマテリアは古いんでけど、一応ホムラさんに合わせてF-F6《エフエフシックス》にしています。」
少女B「なに、エフエフシックスって?」
少女A「コアマテリアの名前です。ホムラさんが使っていたF-F7《エフエフセブン》と同じシリーズなんです」
少女B「なるほど、同じシリーズだと何かあるの?」
少女A「このライブメニューから色んなエフェクト、光の杖の様な物なんかを振って応援するんですが……」
少女Aはブレスを操作して光る棒を召喚して軽く振る。
少女A「ファイトやライブの時にホムラさんのドレスや魔法の発色に合うので悪目立ちしないんです」
少女B「ふーん、なるほどね」
少女A「一ファンとしては可能な限り応援するアイドルのコアマテリアと同シリーズを使いたい感じですが、持ってなかったりしたらなるべく似たような物を使うようにしていますね」
少女B「アイドルと合わせるんだね」
少女A「はい。舞台の主役はあくまでライブ中のアイドルですからね」
少女Aは再びステージを見る。
少女A「そろそろファイトが始まりそうですよ」
少女Bも再びステージの二人を見つめる。
グレンダ「魔力同調よし、魔術ドレス異常なし」
ホムラ「こちらも、オールクリアよ」
ロー「準備はよろしいですね?」
二人は頷く。
ロー「それでは参りましょう!アイドルファイト!」
観客「ラァァァァァァイブッ!!」
ホムラ&グレンダ「「ゴー!!」」
二人は互いに向かい突進すると拳をぶつけ合う。その衝撃だけで稲妻が走る。
そして互いに離れ間合いを取る。
グレンダ「いい挨拶ですね。ホムラ・バーナーナ」
ホムラ「そっちこそ」
ホムラは剣を召喚してそれを握る。
グレンダ「では私も」
グレンダはハンドガンの様な銃を2丁召喚する。
ホムラ「サブマテリア!!」
ホムラは自身の剣に宝石を二つはめ込む。
グレンダが銃撃を始めると同時にホムラの周囲は炎に包まれる。
グレンダ「さすが!」
グレンダは自分の真上に銃撃を放つ、そこにいたホムラはそれを刀身で防御する。
ジェット噴射の様な勢いで炎をコントロールしてホムラはグレンダとの間合いを詰めて反撃に出る。
ホムラの剣撃をいなすグレンダ、隙あらば放たれる銃撃を躱すホムラ。
やがてグレンダの銃口はホムラの頭を、ホムラの剣先はグレンダの喉元に突き立てられる。
グレンダ「アイドルファイト公式条約第二条!」
ホムラ「顔を故意に狙ってはいけない!!」
二人は互いに武器を下げて互いの胸めがけて攻撃を放つも互いに回避する。
グレンダ自身の銃を一丁投げ捨て代わりに手裏剣を召喚して、ホムラの持ち手めがけて投げる。
ホムラ(手裏剣!?)
手裏剣がホムラの手に当たり、その勢いでホムラは剣を手放してしまう。
グレンダ「今ッ!」
グレンダは発砲、その弾丸はホムラの胴に当たってホムラの鎧を削る。
ホムラ「ちぃッ!」
ホムラは魔術によって炎を流す。
ホムラ「アイドルファイト公式条約第一条……ファイト中、ドレスを脱がされたものは敗北となる……」
ホムラは炎の中で体制を立て直す。
ホムラ「一発もらっちゃったけど、これなら!」
ホムラは炎で剣を作り再びグレンダへ迫る。
グレンダ「!?」
グレンダめがけて炎の剣で斬りかかろうとするホムラ。しかし、ホムラの炎の剣は白い煙となって霧散する。
グレンダ「これは!?」
刹那、煙を一閃の剣撃が払い、グレンダの鎧の一部が砕ける。
グレンダ「そういうことッ」
ホムラが振るったのは自身の召喚した剣。炎を流し、グレンダの位置を誘導、炎の剣と言う代用品で攻撃するというブラフを作り、斬りかかる所で消火して煙と言う目隠しを作って、剣を拾い斬りかかる隙を作ったのだ。
ホムラは微笑む。
ホムラ「マテリア!一番雷撃!二番爆撃!」
ホムラは剣に組み込んだ宝石の魔法を使い追撃する。
グレンダ「ええぃ!」
グレンダは発砲して宝石を破壊して追撃を回避する。
ホムラ「まだ!マテリア!斬撃波!」
ホムラは宝石を装填し剣から衝撃波を放ち、それに自身の放つ炎を纏わせる。炎の斬撃波がグレンダに迫る。
グレンダは魔術障壁を展開してそれを防ぐ。
グレンダ「マテリア、単発魔術を組み込んだ魔法石を入れ替え、武器の強化や魔術を駆使して戦う。やはりホムラさん、F-F7《エフエフセブン》を使いこなしているようですね」
グレンダにホムラが迫る。
グレンダ「ならッ!」
ホムラが自身の間合いにグレンダを入れた瞬間、グレンダは光に包まれ瞬時に剣を召喚してホムラの剣撃を受け止める。
ホムラ「まさか!」
グレンダ「そのまさか!」
グレンダの鎧と剣はホムラと同じ物になっている。
ホムラ(CoverWatch2の魔術、15秒程度だけど相手のコアマテリアの能力をコピーできる)
グレンダ「いくよ!」
グレンダの剣が変形する。それに合わせてホムラの剣も同じ様に変形して輝きを放っていく。
ホムラ&グレンダ「「アルティメットウェポン!!!!」」
「「はい!はい!はい!はい!はい!はい!」」
まるで演舞、息の合った様な剣捌きで周囲に弾けた光を振りまく。
そしてお互いほぼ同じタイミングで手を前に出す。
グレンダ「シャドー!!」
ホムラ「フレア!!」
お互いに手のひらから魔法陣を出現させ黒い炎を放つ。
グレンダ(魔術では互角、これなら)
ホムラ「……ッ鎮圧!」
ホムラは魔術を使い自分の髪をとめていたリボンを解き、ぶつかり合う黒い炎に放り込む。
リボンが炎の中に沈むと同時に灰色の爆発が起こり黒い炎が消える。
グレンダ「!?」
グレンダは何が起こったかわからなかった。グレンダは次の一手としてコピーが切れる時に魔術によって電撃魔術を含む投槍を召喚して投擲し、ホムラを痺れさせるつもりでいた。
しかし、先手を打ったのはホムラだった。ホムラはリボンに消火の魔術を編み込んでいて、それをこのタイミングで発動させたのだ。
ホムラ「アルティメットウェポン……リミット解放」
ホムラの剣が変形し発光する。同時にホムラは隙を見せるグレンダへと迫り、その光り輝く剣から伸びる斬撃を放つ。
グレンダ「ああああああああッ!」
絶叫と共に斬撃に撃たれるグレンダ、そのドレスと鎧はボロボロに砕けてグレンダは倒れる。
湧く歓声、しかしレフェリーは無言で見つめる。歓声の中には悲鳴、歓喜、怒号。番狂わせを喜ぶもの嘆くもの、ホムラへの称賛、侮蔑が声となって混じり合う。
ホムラは、それに応えようとはしない。まだ倒れたままのグレンダだけを見つめる。
グレンダ「……さすがね」
グレンダはゆっくりと立ち上がる。身構えるホムラ。
グレンダ「ホムラ・バーナーナ。バーナーナ家の令嬢でありながらアイドルを志す、何故です?」
グレンダはホムラに問いかける。
ホムラ「それは……一つにバーナーナ家の名を広める為でもある。しかし一つに私の夢の為でもある」
グレンダ「その夢とは?」
ホムラはほくそ笑む。
ホムラ「勝ったら、教えてあげてもいいわ」
グレンダは微笑む。
グレンダ「……あなたとこうしてファイト出来る事、光栄に思いますわ」
グレンダはコアマテリアを取り外す。
グレンダ「アイドルファイト公式条約第五条、ファイト中のコアマテリアの変更は一回のみ認められる」
『Call of Beauty MakeUP Ops Cold《コールオブビューティーメイクアップオプスコールド》』
ホムラ「CoBシリーズ……コアマテリアでは有名なオーソドックスな遠距離攻撃を楽しめる物」
グレンダ「そう、他のシリーズとは違い戦術を補強する魔術は殆ど無い。あるのはカスタムされた銃器のみ」
グレンダに新たなドレスを纏う。
グレンダ「ご存知かと思いますが、私の持つ魔法は……」
グレンダは後方へとジャンプする。
ホムラ「自分の移動するスピードを上昇させる」
グレンダは加速し、ステージから観客席のバリアへと着地する。
グレンダ「正解!」
グレンダはライフルを召喚すると同時にホムラへ向け発砲する。
ホムラは剣を使い銃弾を薙ぎ払う。
ホムラ「なら次は私の魔法……」
グレンダ「存じておりますよ、バーナーナ家は代々炎を操る魔法を持って産まれると!」
ホムラ「そう、代々伝わってれば炎にはこんな使い方もあるのよ」
ホムラは自身の手足や背中から炎を放つとそれを調整してジェット噴射の様にして宙に浮く。
グレンダ「それは……」
ホムラ「そう、ファイト最初の方に出したアレよ。これの角度を調整すれば!」
ホムラはジェットに乗ってバリアの薄い膜をバリバリと割りながらグレンダへと迫る。
ホムラ「どおぉぉぉぉぉぉ!!!」
ホムラはグレンダへと剣を横に振る。しかしグレンダに避けられる。
ホムラはグレンダの方を向くがそこには既にグレンダの姿は無い。
一瞬の隙を突くように銃弾がホムラを掠める。ホムラは銃弾の軌道を読んだ先を見ては炎をジェットに変えそこへと迫る。
何度もそれを繰り返す。ホムラの斬撃が崩す会場は一粒の欠片もバリアによって弾かれ粉々に砕かれ観客に被害を与えない。
鼻歌が聞こえる、それに歓声が沸く。これはグレンダの余裕だ。
ホムラ(瞬間移動とも思える超スピード……そして一瞬の弾丸。これよ、これがグレンダ・マチャップリンのアイドルファイト)
ホムラに向かって走る一瞬の閃光、一発の弾丸が迫る。ホムラはそれを掴み、砕く。
ホムラ(これを攻略しない限り、私は勝てない)
ホムラ「フォームチェンジ」
ホムラの剣が消え、代わりにグローブの様なものが召喚されるとホムラはそれを手に付ける。
ホムラ「リメイクバージョンのこれ、使いにくくなってるけどやってみるわよ」
ホムラは拳を前に突き出す。
ホムラ「グレンダ……あんたの弾丸一発残らず、叩き潰す!」
それを遠くから見ていたグレンダは歌い始める。
グレンダの歌は会場に響く。
ホムラ「これは、拡声の魔術」
ホムラは音の出所を探る。
少女A「これが、グレンダさんのアイドルとしての魅せ方」
少女B「凄いね、さっきまでの激しさとは一転して落ち着いた雰囲気を作り出してる」
少女A「姿を見せずに、声だけ魅せる。それも、みんなの耳に直接ね」
グレンダの声にゾクゾクと心地良い感覚が付加されている。
ASMR《エー・エス・エム・アール》、自律感覚絶頂反応と現代で呼ばれる現象をグレンダは魔術によってこの会場全体に広げているのだ。
少女B「この場の音も、感覚さえ支配する。だけど姿を見せない……みんなの視線をばらけさせながらも注目を集めてる」
ホムラは炎のジェット噴射で光の線を描きながらグレンダを探す。
少女B「見えた」
暗闇でキラリと光る銃身を少女Bは見逃さなかった。銃身から光が放たれる、それはホムラへ向かって直進する。
瞬間、ホムラの鎧が砕け、空中でバランスを崩す。
無数の光がホムラへ向けて放たれる。なす術も無くホムラはその銃撃を浴びる。
ホムラは魔術によって体制を整える。
ホムラ(……50発中28発)
ホムラが握っていた両拳を広げると、合計で28発の弾丸が収まっている。
ホムラ「まだまだぁ!」
ホムラは拳を握り収めていた弾丸全てを粉々にし、銃弾が放たれた先に向けて炎を放つ。
しかし、その先にグレンダの姿は無い。
また、歌が聞こえ始める。
少女A「あぁっ……」
少女Aはゾクゾクと身を震わせる。グレンダのASMRの魔術の力だ。
少女B(……?)
少女Bには感じない。そんな風に今回は、感じる人と感じない人が分けられている。
その理由はブレス。ブレスを付けている人にグレンダが魔術をかけている。
少女A「これがラバーズブレス。グレンダさんから与えられる愛の息吹きよ」
少女Aは恍惚とした顔でそう言う。
少女B「なるほどね」
少女Bは淡々とした顔でグレンダの姿を探して辺りをキョロキョロする。少女Bの目線はホムラに止まる。
少女B(あの人、道化にされてる。お父様が言っていた相手の掌の上で踊らされている状況、戦場の道化……)
グレンダの歌が再び会場に広がる。少女Bは少女Aの様にそれに魅了される人々を少女A見る。
少女B(この子もどちらかと言えばあの人を応援している側だったのに……グレンダって人の歌に魅入られてる)
少女Bはグレンダを見つける。
少女B(この場所はもう、彼女の支配下だ)
ホムラを狙い無数の弾丸が雨の様に降り注ぐ。
少女B(あの人自身も)
ホムラはそれを躱し、見切り、叩き潰す。
少女B(みんなも……)
少女Bはグレンダの声に魅了される周囲の人を見る。
少女B(さぁ、どうするの?)
少女Bは真剣な眼差しでホムラを見つめた。
ホムラ(ステージが支配されてくのがわかる。これがグレンダ・マチャップリンのアイドルとしての実力……)
ホムラは宙に舞いながらそう思う。
ホムラ「けどねぇ!」
ホムラは炎を会場周囲全体に放つ。
少女B(歌が止まった……)
放った炎が会場を包んでから数秒、ホムラはある場所を睨むと炎を操りそこ周辺に炎を集中させる。
グレンダ「ぐうぅぅぅッ!」
グレンダが苦しそうに炎の中から出て来る。
ホムラ「負けたとは思ってない!」
ホムラが指を鳴らすとレッドサンズのメンバーはそれぞれの楽器を持ち出しメロディーを響かせ始める。
観客「これは!」「ホムラの十八番だ!」「Burner Burning Sun《バーナーバーニングサン》!」「BBS!BBS!」
ホムラ達レッドサンズのファンがここに来て盛り上がりを見せる。
少女B(流れが、変わった)
グレンダ「ホムラさん、あなたもしかして……」
ホムラ「そう、今度は私のアイドルとしての流儀を教えてあげる」
ホムラのテーマソング、Burner Burning Sunがステージに鳴り響く。
ホムラ「相手のパフォーマンスを魅させてから、それを凌駕する!それが私のアイドルパフォーマンス!」
観客は盛り上がる。少女Bは息を吞む。
少女B(その為、その為にピンチを演出していた……)
グレンダ(私のOPS《さくせん》をいつでも攻略できる策を持っていながら……)
グレンダは銃を構える。そしてステージをスライドするように高速移動し、また会場の闇へ消えようとするも。
ホムラ「逃がさない!」
ホムラはジェット噴射でその後を追う。
グレンダ「ならッ!」
グレンダは銃撃を始める。ホムラは銃弾を躱しながらもグレンダの後を追う。
銃弾と炎が会場を巡り光の螺旋を描く、絶え間ない発砲音は観客の耳に届かない。それはステージを大音量のホムラのテーマソングが支配しているからだ。
少女B(これが本当に戦いの光?お祭りのイルミネーションみたい)
ホムラとグレンダの戦いは熾烈、お互いに一歩も譲らない。互いの有効打とならない魔術が広がっては消え広がっては消えを繰り返して会場を盛り上げる。次第にホムラのテーマソングも終わりを迎える。
そして、二人はステージに戻ってくる。
ホムラ「お互い、次で決めないと魔力がヤバいんじゃない?」
グレンダ「そうね、次の一撃に全てをかけましょう……よくて?」
ホムラ「ええ」
ホムラは炎を体に纏わせ、グレンダは銃器を帯電させる。
グレンダ「これが私の必殺魔術レールガン!!」
ホムラ「なら、私も必殺技で応える!!この熱く燃える拳でッ!」
グレンダ「シュート!!」
グレンダのレールガンが放たれる、ホムラはグレンダへと迫る。グレンダのレールガンがホムラの頬をかすめる。弾丸の衝撃がホムラの鎧をドレスを紙のようにバラバラに砕くもホムラは動じずグレンダとの距離を縮める。
ホムラ「必殺!!」
ホムラの真っ赤に燃える手がグレンダの腹部に触れる。
ホムラ「Burner Burning Smash《バーナーバーニングスマッシュ》!」
ホムラの手から炎が噴き出しグレンダを包み込む。炎はグレンダの鎧をじわじわと砕いていく。
グレンダ「まだまだッ!!」
グレンダはハンドガンを召喚してホムラを撃つ。ホムラの鎧も砕かれるが……
ホムラ「バーン……アウトッ!!」
炎が勢いを増してグレンダの鎧を粉々に打ち砕き、ドレスを燃焼させ、あっという間に消え去る。そこに残ったのは薄布に覆われたグレンダだけだ。
ロー「勝負あり!!勝者、ホムラ・バーナーナ!!!」
会場は騒然とした。大番狂わせ、湧き上がるはホムラ達レッドサンズのファン達。現トップであるグレンダが負けた事にショックを受けるグレンダのファンもいる。
グレンダとホムラはブレスのエネルギーを切り、元の服装へと戻る。
グレンダ「見事ね」
ホムラ「ありがとう」
二人は握手をする。
グレンダ「まさかここで1位を奪われるなんてね」
ホムラ「そう、手加減してたように見えたけど?」
グレンダ「まさか……」
グレンダはどこか悲しそうな表情をする。
グレンダ「それより、これからはあなたがトップ。狙われるわよ」
ホムラ「わかってるわよ」
ホムラはマイクを取ると会場全体を見渡す。
ホムラ「アイドルファイトはエンターテイメントでなければいけない!!」
ホムラは天を指さす。
ホムラ「私は今、グレンダから奪ったトップの称号を保守するつもりはない。これより先、我がチームレッドサンズ全員は誰の挑戦でも受ける!!トップの座をかけて挑戦する者、ただの力比べ、理由など問わない。私は私を、私たちのファンを楽しませるライブを所望する!」
その宣言はグレンダが3年前トップになった時と似た宣言だった。それはグレンダがトップを奪った相手は保守的で、アイドルファイトから逃げる様にトップを維持し続けたのがこれと似た宣言をしたきっかけだった。私がトップになったからには逃げも隠れもせずアイドルファイトを盛り上げていく。そう言う宣言だった。しかし、ホムラの宣言は私がトップになっても、変わらない。グレンダの意思を継いでこれからもアイドルを盛り上げて行くというものだ。
この宣言はブレスの通信魔術を通じてグマンの国全体に広がった。
・グマンの国西区 アイドルチーム・アーサークラウンの城 キャラメロット城
城の中、円卓を囲む複数のモノリス。その一つ一つに魔法陣が灯っていく……
モノリス1「グレンダ・マチャップリンが負けたと聞きました」
モノリス2「報告は既に、キングアーサー」
モノリス2はモノリス1をそう呼ぶ。
キングアーサー「ライブの予定を見るに、レッドサンズに負けたようですね」
モノリス3「明日だったら、私達のはずだったんだけどねぇ」
キングアーサー「慎みなさい、トリスタン卿。明日は明日、切り替えられなければ負けますよ」
トリスタン卿「失礼しました……」
キングアーサー「少し計画が崩れましたがいいでしょう、ホムラ・バーナーナ。あなたとファイトする日を楽しみにします」
・グマンの国西区 アイドルチーム・ブルームーンのアジト
ソファに座って笑う少女。
少女C「ははははは、やったねホムちゃん。1位おめでとう!」
拍手する少女C。
少女C「でもねぇ、これで私も大きく動けるよ。赤には青、太陽には月、なんで私がこ~んな名前のチームを率いてると思ってんのさ!」
少女Cは月明かりを睨み微笑む。
少女C「負けないよ~ホムちゃん。あんたのライバルとしてね」
・グマンの国北区 アイドルチーム・レッドベレーの基地
基地内部、ブレスから表示されるデータを読む少女とデスクに佇む男。
少女D「現時刻をもってチームレッドサンズ、リーダーのホムラ・バーナーナがトップとなりました」
男「ああ。計画にさしたる支障はない、続けろ」
少女D「了解、プロデューサー」
・グマンの国西区 とある広場
舞台はレッドサンズのライブ会場へと戻る。盛り上がる場内にチームレッドサンズのイントロが響く。それは勝利を盛り上がるビクトリーライブ。
ホムラは魔術によって飲み物の入ったボトルを召喚するとそれをグレンダに渡す。
ホムラ「はいこれ、喉の回復薬入り」
グレンダ「なんのつもり?」
ホムラは自分の分のボトルを召喚して一気に飲み干す。
ホムラ「歌ってくれるつもりだったんでしょ?」
グレンダ「そうね、あなたに勝ったらそうするつもりだったけど」
グレンダはホムラに渡されたボトルを飲みきる。
グレンダ「フレーバーが違うわね、どこの魔法薬?」
ホムラ「うち(バーナーナ家)直伝よ。炎を使うだけあって、煙を吸ったとかの諸々も治癒しとかなきゃいけないのよ」
グレンダ「なるほどね」
ホムラ「さて、何を歌いましょうか?」
グレンダ「あなたの好きなのでいいですよ。私、合わせますから」
ホムラ「そう、なら勝手するわ。セジール!ナズナ!ライナ!『レッドサンライズアップ』レディ!」
セジール「うっし!」
ナズナ「はいな!」
ライナ「なんだな~」
レッドサンズのメンバーがそれぞれ曲に合わせる準備をする。ミュージックが始まる前のチューニング、機器の調整等はこの異世界でも似たようなものなのだ。
このステージの最後を飾る曲が始まる。互いに戦った者が肩を並べながら歌うその曲には『陽はまた昇る、前を向いて歩こう』と意味の込められた歌詞が含まれていた。
少女B「……いい歌」
少女A「ええ」
会場の少女たちは感動していた。勿論、ここにいる他の人も様々な感情を昂らせる。一曲4分程度の今日という日最後の音楽は、思ったよりもあっという間に終わってしまう。
主催者、チームレッドサンズのメンバーが支度をすると同時に観客も余韻冷めない賑わいを見せながらも会場を去っていく。今日のステージは終わったのだ。
大規模なライブステージに関しては、グマンのアイドル公式委員会が後片付けを行う。ファイトがあった場合、レフェリーが主だって行う事が基本だ。ローは人がいなくなった会場に散らかされたゴミを魔術を使って回収するとそれと共に姿を消した。
会場を後にした少女Aと少女Bの二人は話しながら歩いていた。
少女A「楽しかった?」
少女B「ええ」
少女A「私ね、これでも一応アイドルやってるんだ」
少女B「……意外」
少女A「もちろん、あんな凄いのは出来ないけど。歌うくらいならやってるんだ」
少女B「そうなんだ」
少女A「もしよかったらなんだけど、あなたも一緒にやってみない?」
少女B「いいの?」
少女A「いいよ~。私、ここに来て知り合った子達とグループ組んでるんだ。場所は東区だから今日は宿に泊まる事になるんだけど……」
少女B「私もここに来たばかりですから、今日は宿に泊まる予定でした」
少女A「なら私のところ泊まりなよ」
少女B「そうする」
2人は何気ない会話をしながら宿の前へ着く。
少女A「そう言えば、名前聞いてなかったね。私はアーニャ、アーニャ・サァーシミィ」
少女B「ジェミーです。よろしくお願いします」
自己紹介を終え、2人は宿の中へと入っていった。
異世界アイドル戦記 アイドルファイターズ コフィア・コーフィー @Koffear
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