第8話 特別


視線を感じながらも教室に辿り着いた私達は少し名残惜しいけど繋いでた手を離してお互いの席に着いた。

 その時の葵の寂しそうな顔を見た時はゾクゾクきたね。

 けど顔には出さない。出したら引かれちゃうかもだし私のキャラも崩れちゃうから必死で我慢した。


「なんか今日の高西さん機嫌良さそうじゃね?」

「ねっ!なんか雰囲気が違うっていうか」

「それな、顔はいつも通りなのになんか幸せオーラが出てるというか」


 ……訂正、どうやら幸せオーラとやらが出てたみたい。まあ、表情が変わってないならまだセーフ。たまたま機嫌がいいだけの日として捉えられるだろう。


「ねぇ、しーちゃん」


「どうしたの?」


「今日一緒にお昼ご飯食べよ!」


「えぇ、いいわよ」


「やった、ふふ楽しみだなぁ〜」


 あぁ天使よ、天使がいるわ。昼休みがが待ちどうしいわね。


「高西さんが誰かと一緒にご飯?」

「そんな、ありえない」

「てかなんであいつは普通に高西さんと会話出来てんだ?」

「しーちゃんって、なに!?」


 外野がなんか言ってる気がするけど今はお昼になんの話をしようか考えるのに忙しいから気にしないことにしよう。


「高西さん、ちょっといい?」


「何かしら?」


 私が昼休み葵と喋ることリストを頭の中で作っているとクラスの女子が話しかけてきた。


「えっと、西宮くん?とはどういう関係なの?」


 どういう関係か?う〜んそう言われるとどういう関係か分からないわね。

 ただの幼馴染で片付けることもできるけどそれはなんか嫌ね。あと周りに葵を取られないためにも何かしらのアピールもしとかないと。


「強いて言うなら特別な関係、かしらね?」


 そう、葵と私は特別。だからあなた達には悪いけど葵は渡さないわ。


「と、特別って、えっと、二人は付き合ってるの?」


「いえ、まだ付き合ってないわ」


 そう、まだね。まぁ葵とは別に恋人っていう関係じゃなくてもいいんだけど、どうせなら一番近くで葵を守護りたいし。


「そ、そっか、うん。ありがとう」


 そう言って女子生徒は去っていった。

 ふっ、完全勝利ね。葵の隣は渡さないわよ。

 そんなことを考えてると葵が少し頬を赤くしながら話しかけてきた。


「しーちゃんにとって僕は特別?」


「えぇ、特別よ」


「そっか、えへへ、嬉しい。えっと、僕もしーちゃんは特別だと思ってるよ」


「知ってる」


 特別、ふふっいい響きね。さてと葵と話してたら時間が過ぎるのが本当に早いわね。葵のことはこれぐらいにして授業の準備をしなきゃね。


 ――――――――――――――――――――――――


 しーちゃんに特別って言われた時すごく嬉しかった。

 けど、僕なんかが特別でいいのかな?もしかして気を使っただけなんじゃ……そう思うとすごく不安。

 だけどしーちゃんは、昔からイタズラのための嘘はついても僕を本当に傷つけるような嘘はついたことがない。

 だから信じてみようと思う。




「なぁ、ちょっといいか?」


 次の授業が体育だったため体操服に着替えているとクラスメイトが声をかけてきた。


「う、うん、なに?」


「単刀直入に聞くけど、お前高西さんとどういう関係だ?」


「僕とし、高西さんはただの幼馴染だよ」


「ほんとか?付き合ってたりしてないよな?」


「う、うん」


「そうか、ならいい」


 そういうと彼はグラウンドに向かっていった。


 (しーちゃんと恋人か)


 正直、想像も出来ない。

 しーちゃんは確かに可愛いと思うしすごく美人だ。

 けど、しーちゃんは僕の憧れの人だ。

 僕なんかが恋人として横に立つなんておこがましいと考えてしまう。

 しーちゃんが今も僕と友達でいてくれるのは凄く嬉しいし、安心する。

 昔から、あの時僕を助けてくれた日から僕の傍にはいつもしーちゃんがいた。しーちゃんと一緒に過ごす時間はすごく楽しいし、何より嫌なことを忘れられた。

 だから僕は今の関係を壊したくない。

 そもそも人を好きになるというのが僕にはまだよく分からない。

 しーちゃんや両親のことは好きかと問われれば好きと断言はできる。けど、両親に恋愛感情を向けることがないように、しーちゃんへの好きも恋愛からくるものなのか、友愛や敬愛からくるものなのかが分からない。

  いつかこの気持ちがきちんと整理出来た時、僕は彼女の隣に立てるだろうか。

 そもそも彼女が僕のことを「特別」と表現したのは幼馴染という関係からくるものだ思う。

 しーちゃんは多分僕のことを手のかかる落とうと程度にしか考えていない。僕もしーちゃんに頼ってしまうことが多い。

 高校生になっても多分それは変わってない、勉強も運動でも彼女に僕が勝っているところなんてほとんどない。

 きっといつかは愛想を尽かされてしまう。

 それは嫌だ。

 僕を幼馴染という関係からくるものだとしても「特別」と言ってくれた彼女に応えたい。

 彼女を誰にも渡したくない。


「……え?」


 僕は今何を考えていたんだろう。

 しーちゃんを誰にも渡したくない?

 しーちゃんは誰のものでもないのに。まるで自分のもののように考えてしまった自分に嫌気がさした。

 独占欲という表現が合う僕のこの感情は自分勝手なエゴでしかない。

 僕の唯一の友達を、大切な人を誰かに盗られたくない。こんなものをしーちゃんの前で出してしまえば軽蔑されて彼女との距離が開いてしまうかもしれない。

 嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

 

 僕にとって特別な人はしーちゃんしかいないから

 けどこの感情をさらけ出すことはできない。

 だからそっと蓋をして閉じ込める。

 絶対に表に出てこないように。

 







 


 

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