第6話 高西栞 その3
理性との激戦を制し、葵が落ち着く頃には日が完全に沈んだ頃だった。
……危なかった、あともう少し長ければ私は何をしてたかわかんない。
荒くなった息を整えながら葵と雑談してると葵が私に疑問をぶつけてきた。
「なんで話しかけてくれなかったの?」
「もし、忘れられてたら嫌だから」
当然と言ったら当然の疑問。私は葵のことを最初から知っていて話しかけに行かなかった。
その理由として大きいのはやっぱりこれだろう。もちろん葵の天使アーマーにやられてやむなく撤退してたのもある。
だってさ、せっかくできた幼馴染の天使に忘れられてました、とかだったら私は3日は寝込む自信がある。
もし葵に「誰?」なんて言われたら全財産を競馬に突っ込んで負けた人のように膝から崩れ落ちるに違いない。
「ありがとう、しーちゃん」
そんなことを考えると葵が突然感謝を伝えてきた。
多分僕に話しかけてくれてありがとう的なニュアンスだと思う。
葵は昔からよく私に「ありがとう」って伝えてくれる。その時の葵の顔は泣いてたり笑ってたりで様々だがその目にはどこか真剣味があり心からの感謝だってことが伝わってくる。
「どういたしまして」
これは昔から何度も繰り返したやり取り。
でも私と葵を繋ぐ大切なものだ。
その後葵がご飯を作ってくれるらしいので少し悩んだがご馳走になることにした。
私も女の子の端くれ、男の子に全てを任せるほど女は廃んでないため何度か手伝いを申し出たが「お礼だから」と押し切られてしまった。
昔から一度やると言ったら梃子でも動かないので諦めて料理ができるのを待つことにした。
料理を待ってる間寛ぐわけにもいかないのであおいのことを見ながら待っていてふと気づいた。
……葵、私より料理出来る?
いやまぁ?もしかしたら今作ってるのがたまたま葵の得意料理なだけの可能性もあるし?
……はい、多分負けてますね、これ。
けど!料理は愛情って言うし?
は?葵の料理に愛情が籠ってねぇっていうのか?
ふぅ、脳内喧嘩もこれぐらいにして多分匂い的にカレーかな?
というわけで葵お手製カレーを盛り付けて食卓につきました。
「「いただきます」」
「おいしい……」
いや、ほんとに美味しいなこれ!
え!?葵ってこんなに料理出来たっけ?
「葵料理出来たんだ」
「うん、パパもママも出張が多かったから」
「そっか、葵はすごいね」
私がそういうと葵は少し目に涙を浮かべながら「えへへ〜」と少し誇らしげにしていた。
あっ、かわいい。
てか、家事も料理も出来て、おまけにかわいいとか逆に何が出来ないの?
「しーちゃん、家まで送るよ」
かわいいだけじゃなくて男らしさも持ってるとか最強か?
あっ、でもどうしよ、葵に私が隣に住んでること言ってない。なんなら合鍵を持ってることも。
……合鍵のことはとりあえずまだ黙っておこう。もし寝顔を見に来てたこと、じゃなくてまだ驚かせれてないからね。うん。
けど、これチャンスじゃない?私が今まで隣の部屋だって隠してたのは葵を驚かせるためでした〜的な感じでいけば違和感も少ないはず
よし、これでいこう。
「お願い」
「うん、じゃあちょっと準備してくるから待ってて」
「すぐ着くから何も持ってこなくて大丈夫だよ」
流石にすぐ隣に行くのに準備させるのは申し訳ないし。
葵の家から出た私は数歩だけ歩いてすぐに立ち止まった。
「なにか忘れ物でもした?」
「ううん、してないよ」
「じゃあどうしたの?」
葵がすごく不思議そうな顔で上目遣いで尋ねてくる。
やばい、かわいすぎる。じゃなくて。
口角が勝手に上がるのをできる限り抑えながら私は自分の部屋の玄関に指をさして。
「ここが私が今住んでる家」
そう告げた。
ふっふっふっ。とりあえず違和感なく私が隣に住んでることを伝えられたんじゃない?
それにしても葵の驚いた顔もかわいかったな。
もう何してもかわいいとか反則でしょ。
やばい思い出しただけでもニヤニヤしちゃいそう。
それはさておき、合鍵の件はどうしようかなぁ
多分持ってることに対して葵に教えても「そうなんだ〜」ぐらいで終わるからそこは問題ないはず。
問題があるとすればいつも私がやってた寝顔観察。
まぁ、葵の眠りは深い方だし、できる限り眠りが深くなった時間にお邪魔してるから私から言わなければバレることもないと思う。多分。
けど、これで明日からは、葵と一緒に学校生活を送れるってことでしょ?
……あれ?待てよ?私の学校でのイメージはクールキャラなわけで、葵と接する時もいつもの癖で少しクールめで接してたけどもしかして葵のことをかわいがれない?あのかわいさを前にしてクールキャラを貫き通すの?ちょっと自信なくなってきた……
まぁ漏れ出ちゃったら仕方ないけどできる限り自重していかないと、周りに引かれるのはまだしも葵に引かれるのだけは絶対にヤダ。
せっかく今は再開したクールなお姉さん系幼馴染のキャラで通せてるのにそれが崩れるのはまずい。
私の好きな小悪魔系のお姉さんがショタを惑わすっていうシチュエーションを現実でやるためにもこのキャラは貫き通さねばならん。
クールキャラになったのは周りとの関係が面倒くさくなったからだけど思わぬ所で役に立ちそうで正に棚から出たぼたもち!
これを生かさない手はない!
よーし明日から頑張るぞー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます