第5話 高西栞 その2


あれから一ヶ月が経った。

 いやね?私も話しかけようとしたのよ?その度に邪魔してくるのよ、葵の天使アーマーが。

 いやほんとにかわいすぎる。ほんとに同い年?中学生が飛び級しちゃったって言われても信じる自信があるわ。

 けど!流石に一ヶ月何もしなかったわけではないわ!

 葵のいまの身長は152cm、体重40.3kg。

私との身長差は約17cm!体重?まぁ平均より大きい胸がついてる私の方が少しだけ重いわ。少しだけね。

 ちなみにこれは身体測定の結果を覗き見したから間違えないわ。これを見た時、私の無駄にいい動体視力はこのためにあったと確信したわ。

 そしてもうひとつ葵も私もこの一ヶ月で友達ができなかった。私は中学の時に告白ラッシュが起きちゃってちょっと女の子たちとの人間関係が面倒くさくなったからあの頃からクールキャラとしてあまり周りと関わらないようにしてたから別にいいのだけど、葵に誰も話しかけないのは思わず「こいつらの目は節穴か?」と疑ってしまったわ。

 私だったら合法的に手が出せる同い年のショタなんてほっとかないのに……。

 ……まぁいいわ。私だけが知ってるという優越感に浸るのも気持ちいいし。

 けどそろそろ話しかけないと、どうやって話しかけようか悩んでいると私に誰かが話しかけてきた。


「高西さん、よかったら今日カラオケ行かない?」


「行かない」


「そんなこと言わずにさ、俺たちそろそろ高西さんとも仲良くなりたいんだ」


 しつこいわね。こちとら今どうやって愛しの天使様を攻略しようか悩んでるのよ。


「私、今忙しいから」


 ちょっと冷たく当たりすぎてしまったかもしれないがほかの女子と変な軋轢を生まないためにもこれぐらいの距離感を維持しないと。今は葵のことで忙しいのはほんとだし。


 

「今日は席替えをするぞー」


 教室に入ってきた担任がそう言った瞬間私は絶望していた。

 だって!葵と離れちゃうのかもしれないのよ!?今は私が前だからプリント渡す時とかグループワークの時とかに関われてたのに……まぁその度に顔がにやけてしまいそうだからすぐに目を逸らしてたんだけど。

 すごく憂鬱な気分になりながら私は担任の作ったくじを引いた。その結果。


「よろしく」


「は、はい、よろしくお願いします」


 そう!葵の隣の席を勝ち取ったのだ!

 もうね、運命でしょこれ。私も葵も苗字に西の文字が入ってるし、完璧に運命ね。間違いないわ。うん。

 ていうか!今私自然に挨拶できてた!?

 大丈夫よね!?できる限り表情筋を引き締めたし、これで変な人だと思われてたらどうしよう……。うぅ隣の席で上手くやっていけるか不安だわ。



 結論から言いましょうか。隣の席最高!!

 まず、窓の外を見るふりしながら葵を見れるのが最高!授業中の真面目な顔とか欠伸を必死で我慢してたけど結局しちゃった顔とか、たまにうとうとしてて目がとろんってなってたり。は?めちゃめちゃ可愛いじゃねぇか。

 てかなんか視線を感じる気がするんだけど……

 あっ!?もしかしてみんな葵のかわいさに気づいちゃった!?……いやきっとたまたまこっちを見てただけね。気づくならもっと早くに気づいてるはずだし。




 ということでやって来ました。葵の部屋の前〜!

何がということでかは私にも分からないけど。

 いやね?私も流石に危機感を覚えたわけですよ。

 最近明らかに葵を見る人が増えてる!!

 授業中、休み時間、なんだか視線を感じるようになった。気の所為と言われたらそれまでだけど私の葵があぶないセンサーが反応してる気がするから間違いない!

 そして私がなぜ玄関の前に立ってるかと言うと私の逃げ道を無くすためである!今までの私は葵の天使アーマーに為す術なく敗走を余儀なくされていた。けどここなら、葵と話す以外に道はない!……まぁ隣が私の部屋だから逃げようと思えば逃げれるけど。

 ……それにしても葵ちょっと遅いな?

 もしかしてなにか事件に巻き込まれてたり!?ありえる!やっぱり葵のかわいさを世間は見逃してくれなかったのか!?やばいやばい私だけの葵がみんなの葵に……

 そんな妄想に耽っていると廊下から足音が聞こえてきた。


「あっ、やっと帰ってきた」


「えっと、あの、えぇ?」


 ふふっ困惑した顔の葵もかわいいなー。

 あっ、そうだこれだけは言っとかないとね


「おかえり、葵」


「……ただいま?高西さん?」


 そうして私と葵の高校生活最初の会話は始まった。



 

「おじゃまします」


 ということではいっちゃったよ、葵の部屋!!

 とりあえず無言だと気まづいので「すごーい」とか「きれい」とか当たり障りのないことを言いつつ廊下を進んでいく。


「かわいくて上に家事もできる……ほしい」


 はっ、思わず願望が口から溢れ出てしまった。

 大丈夫だよね!?聞かれてない!?

 ちなみに私は何度も葵の寝顔を見に……間違えた。葵を驚かせようと深夜に侵入してたのでどこに何があるかとかだいたいわかっているのだが流石にそれを知られたら引かれる未来しか見えないのでいかにも初見ですよ〜というリアクションを取ってるわけだ。

 そうして歩いていると葵にソファーに座るように促されたので大人しく腰を下ろす。すると葵が反対側の床に座ろうとしたので私は咄嗟にソファーの端によりながら隣をポンポンと叩いて「横、座っていいよ」と言った。

 葵は少し戸惑いながらもちょこんと私の横に座った。

 

 (は?かわいすぎんだろ)


 ただ座るだけという動作をどうやったらそこまで可愛くできるのか。思わず頭を撫でようとしてしまい慌てて引っ込めた。それから私は気づいた。

 

 (……あれ?どうやって話そう?)


 そう葵に話しかけるのに必死でどうやって話を切り出すか全く考えてなかったのだ。

 とりあえず葵の方を見るときょとんとした顔でこちらを見ていた。もう!なんでそんな可愛い顔してこっち見てるの!?

 私は自分の理性と必死に戦いながら遠回りに聞いても仕方ないと思ったので直接聞くことにした。


「私の事、分かる?」


 葵は目を見開いたあと不安そうな顔をしながら恐る恐るといった様子で喋り始めた。


「……もしかして、しーちゃん?」


「うん、そうだよ。久しぶり、葵」


 はい、勝った!葵が私のことを覚えてくれた!

 もうその事実だけでご飯3杯はいけますわ。

 良かった、これで忘れられてたら私は夜な夜な葵の部屋に進入して玄関の前でも待ち伏せしてた不審者になってしまうところだった。


「しーちゃん!しーちゃん!」


 そんな風に安堵してると葵が私に抱きつきながら泣き出してしまった。

 はっ!?えっ!?葵が!私に抱きついてきた!?


 (え!?いいよね!?私も抱き返して頭撫でてもいいよね!?)


 葵から抱きついてきたのだしこのチャンスを逃すまいと私は優しく抱き返し、頭を撫でて葵を心ゆくまで堪能することにした。

 



私の理性との戦いが始まった。

 

 

 


 




 

 

 

 

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