第4話 高西栞 その1
「葵くん、こっちの高校に通うらしいわよ」
ある日夜ご飯を食べていた私は母から突然そう告げられ、驚きのあまり箸を落としてしまった。
「……どういうこと?」
かろうじて言葉を絞り出した私は、母に問いかけた。
「そのままの意味よ。葵くんこっちで一人暮らしするらしいのよ」
「だから、なんで葵がこっちに来るのか聞いてるの」
「さぁ?私はただ葵くんの両親から葵くんが遠いところの高校に行きたがってるって相談を受けたから、なら栞が通おうとしてる高校はどうかって提案しただけ」
私は次々告げられる衝撃的な事実に驚きを隠せないでいた。
「あと、あなたも高校入学と同時に一人暮らししてもらうからそのつもりで」
「そんなこと、どうでもいいから今は葵の話を……って私が一人暮らし!?」
「そっ、あなたいつまで経っても家事を覚えようとしないじゃない、だからこれを機に一人暮らしで強制的に家事を覚えさせようと思って」
母は、淡々と喋っているが今の私はそれどころではなかった。
なんで葵がこっちに来るのか、そもそも一人暮らしってどういうことか、色んな疑問があったがあまりの衝撃に私は言葉を失っていた。
もちろん。葵と会えるのは嬉しい。また、あの可愛い顔を見れると思うと……やばい想像しただけでもニヤニヤしちゃいそう。
けど今はそれよりも聞かなきゃいけないことがある。
「そもそも、私に一人暮らしなんて出来るわけないじゃん、掃除とかはまだしも料理もちょっとしかできないし、私にはまだは」
「隣の部屋、葵くんよ」
「やるわ」
即答だった。
私は今すごく悩んでいる。
私の手の中には葵の家の鍵。
うん、なんで?
「葵くんのご両親が渡してきてくれたのよ、栞なら信用できるから何かあった時に葵くんのそばにいてくれ、って」
葵のご両親が渡してきたらしいがいつの間に会っていたのか。
「葵くんが心配でこっそりついてきたらしいのよ、それでこの合鍵を栞に渡しておいて欲しいって」
(普通何年も会ってない幼馴染に合鍵なんて渡すかな?)
そう疑問には思ったが貰えるものは貰っとけ精神の私は合鍵を受け取った。……変なことには使わないように我慢しないと。
そうして高校の入学式当日、私は自分の席で本を読んでいた。ちなみに内容はちょっと大人なお姉さんと小さな男の子が仲睦まじく生活するストーリーが綴られているラブストーリーだ。……ちょっとえっちなシーンもあるけど。
葵にはまだ私のことを言ってない。私から葵に話したいから葵のご両親から葵に伝えないように頼んだ。
私は今日葵と話をするつもりだ。
今まではちょっと怖気づいちゃって話に行けなかったけど今日は違う。
なぜなら葵の席は私のひとつ後ろ。
席が近いなら話しかけても不自然ではないはず。
何を話そうか、どうやって話しかけようか悩んでいると男子にしては背が小さい子が教室に入ってきた。
(来たっ!)
顔は俯いていてよく見えないが間違いなく彼が葵だろう。
私の葵センサーが反応してるからね、間違いない。
どうせなら顔を見たいなと思った私が彼のことをじっと見つめた。
「ッ!」
不意に彼と目が合ってしまい私は思わず目を逸らしてしまった。一瞬しか見えなかったけどあの目、顔、雰囲気間違いなく葵だ。
数年ぶりに生の葵の顔を見た顔はいつも通りに保ちつつも内心では悶えていた。
(かわいすぎる!!)
そう私の幼馴染西宮葵は男とは思えないほど可愛いのだ。
(なにあの目!クリッとしてて丸っこくてすっごくかわいい!今は前髪が長くて半分ぐらい隠れちゃってるけどそれもいい!それにあのちょっと大きめの制服!手が少し隠れてて親の服を着た子供みたいでかわいい!アイドルとかより絶対葵の方がかわいいよ!)
そんなことを考えていると葵がこっちに向かって歩いてきた。
(正面から見るとさらに可愛い!えっ!てかもう運命の再会しちゃうの!?やばい心の準備が!)
そうこう考えいる内に葵は私の横を素通りして自分の席に座った。
(もしかして私だって気づいてない?)
そう気づいてしまった私は少し悲しくなったが今葵と話してもまともに会話出来る自信が無いので正直ほっとした。
いつ話しかけようか悩んでいる内に入学式は終わり、気づいたら家についていた。
「って!何やってるのわたしー!?」
葵に話しかけるチャンスは沢山あったのに話しかけようとする度に葵のかわいさにやられてしまっていた。
「こうなったら直接家に行って……」
そう思った私は合鍵を使って葵の部屋の中で待ち驚かせる計画を思い付き実行しようと思ったが、学校で話しかけられないような私にそんな勇気が出るはずもなく時間は過ぎていった。
そして深夜1時私は葵の家の玄関を合鍵を使って開け葵の寝室へと侵入しようとしていた。
(ちがう!これは葵の寝顔が見たかったとかそういうのじゃなくてただ葵を驚かせようとしてるだけ!!)
誰に向かって言ってるのかも分からない言い訳を並べつつ私は寝室へ歩を進めた
(これってもしかしなくても犯罪になったりするじゃないだろうか)
そんな考えがよぎったが葵のかわいい寝顔を見るため……。間違えた。葵を驚かせるためには必要なことなので無視することにした。
え?普通家に誰か入ってきたら気づかないかって?
チッチッチッあまい、あまいよ。ラノベの付き合いたてのカップルぐらいあまい。
葵は昔から起きなきゃいけない時間までなら並大抵のことでは起きないのだよ。お分かりかなワトソンくん。
つまり、私がこうして堂々と侵入しても葵は気づかないというわけさ!
よーし!それじゃ葵の可愛い寝顔とご対面するとしますか。
そうして私はきちんと全ての部屋を確認しつつ寝室に向かった。
葵の寝室に着いた私は気づいたら葵の頭を撫でていた。
(はっ!?私は何を?)
寝室に着いて葵の寝顔を堪能しようと枕元まで近づいたまで覚えてる。けどいつから葵の頭を撫でたかが思い出せない。
(え!?もう一時間も経ってるの!?)
現在の時刻は深夜2時葵の部屋に侵入してから一時間が経過していた。
流石にそろそろ寝ないと明日に響くので私は退散することにした。
……あと五分だけしてから出ることにしよう
その後五分だけで終わるはずもなく私が自分のベッドに入った頃には空が白み始めた頃だった。
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