第2話 おかえり
あれからだいたい一ヶ月過ぎた。
この一ヶ月の間僕は何度も幼馴染の夢を見た。
最初の一回だけならまだしも何回も見るのは少し恥ずかしかったが、夢の中とはいえ幼馴染に会えるのは嬉しかった。
そして一ヶ月も経てばクラス内でもグループと言われるものもできているわけで。
そのグループに所属してない所謂ぼっちと言われる存在は僕と――
「高西さん、よかったら今日カラオケ行かない?」
「行かない」
「そんなこと言わずにさ、俺たちそろそろ高西さんとも仲良くなりたいんだ」
「私、今忙しいから」
そう、僕の幼馴染と同姓同名の高西さんだ。
彼女はこの一ヶ月の間ほぼ毎日遊びに誘われては断るというのを繰り返していた。
今も僕の目から見ても凄くかっこいい感じの人に話しかけられても必要最低限の言葉だけで断っている。
放課後はいつもすぐに帰ってしまうし、休み時間もずっと本を読んでいて誰かに話しかけられても二、三回口を開いただけで会話を終わらせてしまう。
そして彼女の後ろの席にいる僕は多分彼女に嫌われていると思う。
なぜならプリントを渡す時ややむを得ず会話が必要な時などに目が合うとすぐにそらされてしまうし、たまになんでか分からないけど肩がプルプル震えてたりしている。多分授業中とか休み時間も僕は基本的にずっと席にいるのでそれが嫌なんだと思う。誰かが後ろにいると嫌だしね。
けど一人で学校を歩くのは少し怖いから許して欲しい。
そんなこんなで過ごしているうちに5月に入りゴールデンウィークも終わった頃、席替えをすることになった。
席替えと言えば言わずと知れたビッグイベント、クラスに浮ついた空気が流れ始める。特に何故か男子の方はかなり盛り上がっていた。
それを見て高西さんはすごく嫌そうな顔をしていた。
結果的に僕の席は変わらなかった。
窓側の一番後ろの席だ。正直人と余り関わらなくていいこの席が好きだったので凄く嬉しい。
変わったことがあるとすれば――
「よろしく」
「は、はい、よろしくお願いします」
そう、隣の席が高西さんになったことぐらいだろう。
これにより当然僕は男子から私怨が混じった目を向けられるようになり少し憂鬱な気分になった。
少し昔を思い出してしまい席を誰かと交換しようか悩んだが、一ヶ月経っても誰とも話せてない僕にそんな提案ができるはずもなく。
僕は少し憂鬱とした気分で過ごすことになった。
席が変わったからといって生活そのものが変わるわけもなく僕は今まで通りの生活を送っていた。
けど授業中や休み時間などに高西さんの方から視線を感じるようになった。
多分僕じゃなくて窓の外を見てるんだと思うけど、たまに僕が高西さんの方に目を向けると慌てたように視線を前に戻すから僕に顔を見られるのが相当嫌なんだと思う。
……今まで高西さんってこんなに窓から外見てたっけ?
そんな疑問が浮かんだが僕が気づいてないだけど多分前の席だった時も見てたんだと思う。
「ちょっと遅くなっちゃった」
今日は授業で分からないところがあったから先生に質問しに行って帰りにスーパーに寄って来たからいつもより帰る時間が遅くなっていた。
今日の夜ご飯は既に決まっていたので明日は何にしようか考えながら歩いていると僕の玄関の前に誰かが立っていた。
「……は?」
濡羽色の背中の真ん中まで伸びた髪、僕よりたかい身長、そして最近何度も見るようになった凛とした横顔。
僕の幼馴染と同姓同名、高西さんが玄関の前に立っていた。
「あっ、やっと帰ってきた」
「えっと、あの、えぇ?」
なぜ彼女がここにいるのか全く分からない僕はただ困惑することしか出来なかった。
そんな僕の様子を見ていた彼女は口角を少しあげて微笑みながら僕に向かって言葉を発した。
「おかえり、葵」
「……ただいま?高西さん?」
それが僕と高西さんとの高校生活最初の会話だった。
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