クールな幼馴染の夢を見てると思っていたら現実だったらしい

ねねろ

第1話 前の席の子の名前は...


僕――西宮葵にしみやあおい――は、地元を離れ少し遠いところにある高校に入学した。

 地元を離れた理由は色々あるが、疲れてしまったが一番大きな理由だと思う。

 いや、これも言い訳で実際は逃げただけだ。

 僕が遠い高校に行きたいと両親に話した時は、とても心配されたが一週間ほど経つと僕に一つの高校を勧めてきた。

 その高校は、なにか特徴がある訳でもなく、強いてあげるなら中高一貫の学校であることぐらいで、僕の学力でも頑張って勉強すれば入れるような高校だった。

 何故この高校を勧めたのか聞いても『行けばわかる』の一点張りで理由は教えてくれなかった。

 けれど、地元から離れる際に一番大きな壁だった両親の説得をしなくてもよくなったことに正直少しほっとしていた。

 それに余裕を持って入学できる学力を持って居ない僕にとっては、両親に質問する時間より勉強を優先しなければならなかった。

 寝る間も惜しんで、というより寝ることに恐怖を感じていた僕は眠い目をこすりながら必死に勉強した。



 それから時は流れ受験を終えた僕は引っ越しの準備をしていた。

 そう、両親が勧めてくれた高校に受かったのである。

 両親は仕事の都合上、僕について来れないためすごく心配されると思ったが以外にもあっさりとした態度で僕を送り出した。

 まぁ、今生の別れという訳でもないしそこまで気にしてないのかもしれない。家事も昔から手伝ってきて一通りはできるし、料理はまぁまぁ得意だしね。


 そうして一人で地元から出てきた僕は今少しオーバーサイズの制服を身にまとい、自分のクラスを確認していた。


「え……?」


 そこで僕はある一人の名前を見つけた。

 ――高西栞たかにししおり――五年前親の都合で引っ越して行った僕の幼馴染だ。

 もしかしたら、同一人物かもしれない。そんな期待を胸に僕は自分の教室に向かった。

 教室には既に何人かの生徒がいて、中高一貫だからなのか初めてあった人なのかは分からないが各々が会話に花を咲かせていた。

 そんな中一際存在感を放つ生徒がいた。

 彼女は窓側の一番後から一つ前の席に座って本を読んでいたかと思うと一瞬だけ顔を上げて僕を視界に捉えると少しだけ目を見開きすぐに本に視線を戻していた。

 綺麗な人だなぁと思いながら僕は黒板に貼ってある座席表から自分の席を確認する。


「え……」


 僕は驚きの余り固まってしまった。

 あの綺麗な文学少女が高西栞という名前だと知ったからだ。

 それと同時に僕の幼馴染である高西栞とは別の人だと思った。なぜなら僕の知っている高西栞という人物はもっとおちゃらけてるというか、明るいというかとにかくじっとして本を読めるような人ではなかったからだ。

 僕は少し残念に思いながら自分の席に重くなった足を運んだ。

 その際先ほど本を呼んでいた生徒、高西さんから見られている気がしたが、気のせいだと判断して僕は自分の席に座った。

 座って特にやることもないのでぼーっとしてると周りから視線を感じたので意識を向けてみると僕ではなく僕の前に座る高西さんへの視線だと気づいた。

 少し恥ずかしい気持ちになりながら僕は後ろ姿しか見えない彼女のことを見た。

 特徴的な背中の真ん中辺りまで伸びる髪の毛は濡場色で艶があり、窓から入ってくる日光によって輝いているように見える。しっかりと伸びた背筋は垂直に保たれていて、座っているため正確には分からないが僕よりかなり身長が高い。……まぁ僕が小さいだけなんだけど

 顔はさっきの一瞬しか見れなかったが大きな目はキリッとしていて鼻筋が通っており、可愛いさよりもクールな美人という印象を受けた。


 (すごく綺麗な人だったし視線が集まるのも当然か)


 そう結論づけた僕は視線を彼女から自分の机に変えて時間が過ぎるのを待った。


 入学式も滞りなく終わりその日は解散となったので僕はすぐに家に帰った。

 荷解きが微妙に終わってなかったのでこの時間で終わらせて掃除や洗濯をしている間に夜になったのでご飯を作って入浴を済ませた僕はベットに入った。

 寝る前のこの時間は少し苦手だ。昔のことを夢で見るかもしれないと思うと不安で眠れないこともあった。

 でも、今日はなんだかいつも感じてる不安を感じなくて安心して眠ることが出来た。


 その日僕は多分幼馴染の夢を見たと思う。

 見たと思うっていうのはいつも見る嫌な夢は記憶に残るのに今日の夢ははっきりと思い出せないからだ。

 それにしてもいくら幼馴染と同姓同名の人と会ったからってもう何年もあってない幼馴染の夢を見たのは少し恥ずかしいけどすっごく安心できた。

 夢の内容としてはよく思い出せないけど多分頭を撫でてもらったりしたと思う。

 それにしてもあんなに大きかったかなぁ?まぁ昔から僕の方が身長が低かったし何年も会ってないんだから思い出補正みたいなのが働いたんだと思う。

 久々にゆっくりと眠ることのできた僕は夢に出てきてくれた幼馴染に感謝しつつ学校の準備を始めた。

 

 

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