第3話

「アタシ? そうねぇ、旅の途中で人の笑顔に触れたいから……かしらねぇ」


「人の……笑顔……」


 フィンリーの言葉に、エマは考え込んでいる様子だった。不思議そうな顔をするフィンリーだったが、それも一瞬の事で、すぐに穏やかな表情へと変わる。


「ふふ。エマは優しいのね?」


「え?」


「だって、アタシの事をそれだけ考えてくれている。それって、とっても素敵な事よ?」


 言われたエマは、困惑と同時に頬を赤らめる。こんな事を言われたのが初めてだったからだ。褒められた経験の少ないエマにとって、フィンリーの言葉は温かく感じられた。その様子に、宿屋の老婆も微笑む。

 その時だった。

 村の外が騒がしくなる。何事かと思っていると、宿屋の中に、壮年の男性が入って来た。


「婆さん! 大変だ! 採掘場が崩れやがった! アンタの孫も無事かどうか……!」


「そ、そんな……!」


 老婆のうろたえる姿に、声をあげたのはフィンリーだった。彼は真剣な面持ちで男性に声をかける。


「場所はどこ? アタシも手伝うわ。男手は必要でしょう?」


「そ、そうだが! アンタ、力あるのかい?」


 男性の当然な疑問にも、フィンリーは真剣に一言返した。


「漢に二言は無くてよ!」


 妙な説得力に、男性は圧されてフィンリーを連れて宿屋を出て行く。その姿を見たエマも、椅子から立ち上がると声をあげた。


「わ、わたし! 使だから! だから、お役に立てる事あります! 治癒魔法なら、ですけど……」


 声がどんどん小声になっていくエマに、フィンリーが声をかけた。その声色は力強くも優しいものだった。


「治癒魔法はとても助かるわ! そうでしょう? ミスター? 怪我人も沢山いるのだから、エマも連れて行くわよ!」


「お、おう……?」


 完全にフィンリーのペースに乗せられた男性と共に、フィンリーとエマは採掘場へと向かう。

 そこは、入り口が崩れており、周囲には怪我をした男性やその手当に当たる女性達がいた。そんな中をフィンリーが進むと、現場責任者のエイベルに声をかけた。

 彼もまた、気が動転しているのか、冷静そうに見えて焦燥感があるように見受けられた。


「ミスターエイベル! 手伝いに来たわ! 崩れている瓦礫はパズルみたいなもの! 下手に動かせば被害が広がる! そうよね!?」


「お、おう。占い師の兄さん? そ、その通りだ」


「なら、手当たり次第はマズイわよね? さぁ! やるわよ! エマ、貴女治癒魔法ならって言っていたけれど、他には?」


「は、はい! あの! 少しだけなら、身体強化の魔法もかけられます! それを今から皆さんに!」


「頼もしいわ、エマ!」


 フィンリーの言葉に勇気づけられたように、エマが胸元からペンダントを取り出す。そして、静かに呪文を唱え始めた。


「人の願いは力となる……想いを強固に! インパクトパワー!」

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