第2話

 屋外より暖かい室内に入ると、宿屋の老婆が暖炉に火を点ける。かつての魔法使い達が編み出したと言われる、簡単に火を点けられる魔道具の火打石だ。

 魔道具――かつての魔族との大戦後に、魔法使い達が民のためにと生み出した道具達の事だ。

 これにより、技術発展が大きく進み、世界はかなり快適になったと言える。

 だが、魔道具の発展と共に魔法使い達の需要は減り、世界から次々と姿を消して行った。

 その理由は不明のまま……


 ****


「暖かいわねぇ~」


 フィンリーが優しい声色でエマに話しかける。だが、エマは口をつぐんだまま、入り口から動こうとしない。

 そんな彼女にフィンリーは再度微笑むと、割ったばかりの薪を置きに行ってしまった。その背中を見つめるエマに老婆が語りかける。


「引っかかるかい?」


「うぅ。そういうわけじゃ……ただ、どういう人なのかなって」


 戸惑っているらしいエマに、老婆が優しく触れて背中をさする。その温もりにエマは頬を赤らめ、ようやく緊張がほぐれたのか、促されるまま椅子に腰かけた。老婆が温かいスープを持って来て、エマの目の前に置く。

 タマネギが煮込まれたシンプルなスープ。

 だが、身体が冷え切ったエマにとっては、ありがたいものであった。


「お婆ちゃん……飲んで、いいの?」


「当たり前さね。その為に目の前に置いたんだから、さぁさぁお飲みよ」


 老婆の言葉で、エマはスープにゆっくりと口を近づけ、少しづつ口に含んで行く。


「温かくて、美味しい」


「それは良かった」


 微笑む老婆に、エマの表情も自然と柔らかくなる。そこへタイミングを見ていたのだろう、フィンリーが戻って来た。彼は、エマと老婆に微笑むと声をかけた。


「マダム、アタシもスープ頂いてもいいかしら?」


「勿論さね。さぁさぁお座りよ」


 宿屋の老婆は、嬉しそうに微笑むと、フィンリーと自分のスープを用意して、テーブルに並べた。


「ありがとうございます、マダム。とっても、美味しそうだわ!」


「ふふ、エマのお墨付きさね。ねぇ? エマ」


「はふ。はい! とっても、美味しくて温まります!」


「まぁ! 冷えた身体には助かるわぁ! では、ありがたく頂きますわね?」


 フィンリーはスープに口をつける。美味しそうに飲む彼を、エマが見つめている。


「エマ? 貴女、アタシが村に来てから、ずっと気にかけてくれてたわよね? 良かったら理由を教えてくれる?」


 咎めるでもない、優しい声にエマは落ち着いたのか、スープを飲み干し、空になった器を置いてから、ゆっくりと口を開いた。


「あの、フィンリーさんは、なんで占い師をされているんですか?」

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