EP5 ひるね
神社に着くころには、既に体力の大半を消耗していた。あの睡眠時間では仕方がないことだった。
御社殿にきつねさんの姿が見えなかったので、賽銭箱の裏に回り込み、そこにあった段差に腰掛けた。すると、急な眠気に襲われ、そのまま事切れるように眠ってしまった。
「————というわけで、君の両親は死んでしまった。弟は————生きてはいるが、極めて危険な状態だ。命の保証は出来ない」
「君は叔母に引き取られることになるが、それは九月からになる。それまでは君の祖母が世話をしてくれるそうだ」
「君は何も知らないのかい? 🔳🔳🔳🔳、🔳🔳🔳🔳、🔳🔳🔳🔳の三人との関わりは? では🔳🔳🔳🔳との関わりは? ————そうか、分かった。この話はこれで止めにしよう」
「どうして早く帰って来なかったの。母さんがどうなってもよかったの」
「どうして俺達を見捨てたんだ。お前は家族が大事じゃないのか」
「ねぇ、おにぃちゃんだけなんでいきてるの」
「全く、面倒事が増えたよ。どうして私が引き取らなきゃいけないんだね」
「将暉」
「将暉」
「おにぃちゃん」
「将暉くん」
「君は————
「ねぇ、大丈夫?」
その一言で目が覚めた。どうやら眠ってしまったらしい。心配そうに見つめるきつねさんの顔が見える。今、自分が膝枕されていることに気付くのは、もう少し後のことだった。
時間は————二時を過ぎた頃だった。五時間も眠ってしまったらしい。
「すっごくうなされていたけど…………何か私に相談したいことがあったら、何でも言ってね」
「大丈夫、夢の話は夢の中だけだから。きつねさんが心配する必要はないよ」
そう言って、僕は体を起こした。心配させまいと笑顔を作る。自然を、平穏を装う。それでも、きつねさんは僕のことをまだ心配しているようだったが、僕が意地でも話さないことを見抜いたみたいで、これ以上の言及はせず、いつものように振る舞い始めた。
その後はいつも通りに過ごした。お互いに夢の中の話をすることは無く、ただ時間だけが過ぎていった。
日が沈み始めたので、僕は帰ることにした。いつものように手を振り、別れの挨拶をする。帰り道を歩く足は、心做しか速くなっているような気がした。
家に着き、いつものルーティーンを済ませ、テレビの前に座った。今日はいつもと違い、どのテレビ局を見ても例の事件に触れることは無かった。嬉しいような、寂しいような気がした。他の番組では、食べ物の話をしていたり、音楽が流れていたりと、日常的に見る普通のテレビ番組が放送されていた。
退屈になったのでテレビを消した。床に就き、目を閉じる。今日は簡単に寝ることが出来た。
次の日の朝、いつものルーティーンを済ませた後、ふとテレビが気になって付けたら、「お盆休みに行きたい場所特集」で話題が持ちきりだった。事件について触れられることは殆ど無く、みんなの興味が薄れてしまったようだった。
しかし、世の中には忘れたくても忘れられない人もいる。僕も、そして彼も、きっと同じだろうと、心の中でそう思った。
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