EP4 赤の檻


「違う。僕じゃないんだ。僕は悪くないんだ。悪いのは『あいつら』なんだ」

 燃え盛る家の前で、少年が何かを言っている。

「消防隊、もっと何とかならないのか! こんなんじゃ火は消えねぇぞ!」

 色々な人が集まって、火を消そうと躍起になる。

「あれって櫻井さんの家じゃない? 可哀想に。ああも燃えてしまったら、何も残らないじゃない」

「でもまぁ、あの集合住宅には他に住んでる人は居なかったし、まだ良かったんじゃねぇか?」

 周囲を囲む野次馬、反応は様々で、でもみんな他人事のようだった。既に現場周辺はシートで覆われているのに、人々はそれの隙間から中を伺い知ろうとする。

「中から救出しました! 通してください!」

 家の中から出てきた勇敢な隊員が、住人を救出する。感動の瞬間。遠くに居た野次馬は、この声を聞いて安心しただろう。でも、僕は見てしまった。黒焦げになり、人間としての体裁を保っていない家族の姿を。消えそうな声で生を乞う母、掠れる声で末子の心配をする父、ただ呻き声を上げるだけの弟。それらは地獄のようだった。

 ああ、退かないと。そう思って動かした足は、落としてしまったケーキの箱を蹴ってしまった。【おたんじょうびおめでとう たつや くん】と書かれたプレートと、四本の蝋燭、ぐちゃぐちゃになった白い塊が箱から出てきた。あぁ、もう食べれないな。何故かそう思った。

 救急車のサイレンが鳴り始め、家族が病院へ出発することを示していた。僕はそれを見送ることしかできなかった。

 警光灯と炎の赤が渦巻く空間に、僕はまだ囚われている。

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