単純な俺と心が読める君

マハ

第1話 心を読まれた!?

 放課後の理科室での掃除時間、突然俺はクラスの女子に話しかけられた。


「ねえ、もし他人の考えていることがわかったとしたらあなたはどうする?」


「え?」


 俺に話しかけているのか?いや、そうに違いない。なぜならこの理科室には俺と本橋もとはし のぞみの二人しかいないからだ。


 掃除はクラスで決められた班ごとに行われていて、本来であれば五人で掃除をすることになっている。


 しかし、他の三人はテニス部であり、掃除をさぼって部活へ行っているので二人だけの状態になっている。


 それにしてもどういう意味だ?他人の考えていることがわかる?そんなことあるはずがない。でも今聞かれているのはわかるとしたらの話だ。いや、しかし急に聞かれてもなんて答えるのか思いつかない。


「富永君?あなたの考えを聞かせてほしいの」


 考えているとすぐ目の前に本橋さんが近づいていた。


「うわあ!!」


 びっくりして大声を出してしまった。本橋さんはこんなことする人だったのか?そもそも俺はこの人のことをあまり知らない。話したのも今日が初めてだ。しかし、こんなに女子の顔が近いとなんか恥ずかしいなあ……いやいや、今はそんなこと考えている場合じゃない。聞かれている質問に答えなければ。


「他人の考えていることがわかるしたらどうなるかだって?そんなの相手に気に入られるために相手がやってほしい行動を取ったりするんじゃないか?」


「ふふ……。やっぱりそうよね。普通であればそうする」


 面白くないはずの答えに本橋さんはなぜか笑う。


「そんなおかしな回答だった?みんな同じようなこと答えるんじゃない?」


「今の回答は別に変じゃないわ。でもそんなに都合良くはいかないわ」


「都合良く?」


「そう。他人の考えがわかるからといって、相手がやってほしいことだけに従っていればいいというわけじゃない。そこが難しいのよ」


 まるで本橋さんが他人の考えがわかり、それを経験しているような話ぶりだ。


 えーと、この子あれか?ちょっと変わってる子か?頭のネジが外れちゃってるのかな?


「なるほど、冨永くんはそんな失礼なことを考えているのね」


「……!?どういうこと?」


「私ね、人の考えていることがわかるのよ」


「え!?」


 なんて冗談だ?俺はどう返せばいい?とりあえず話をつなげるか?


「わかった。仮に本橋さんが人の考えていることがわかるとしよう。そうしたらなぜさっき俺に変な質問したんだ?考えていることがわかるんならそんなこと聞かなくてもわかるんじゃないか?」


「いったでしょ。考えていることしかわからないって。相手が今考えていること以外はわからないの。だから相手に質問をして考えさせる必要があるの。富永君もさっき質問をしたときに考えちゃったでしょ?」


「なるほど、じゃあ今俺が考えてることわかる?」


「わかるよ。この電波野郎て思ってる。すごく君失礼だよね」


 まじかよ。本当にわかるのかよ。でもこれくらいなら予測できることじゃないか?確かに電波野郎ていうワードが出たのは驚いたけど今の流れ的に考えればわかるもんじゃないのか?


 よし、次は普通では考えないことを考えてみるか。


「すごいね。あたってるよ。でも俺はまだ信用してないよ。たまたまかもしれないしね。だからもう一回だけ今考えていることを当ててみてほしい。それなら信じるよ」


「ちょっと、笑わせないで。こいつに急にビンタをしたらどんな反応をするんだろうて考えてるでしょ」


「当たってる」


 こいつは本物だ。まじのガチもんだ。


「すげえな。なんでそんな能力もってるんだ?」


「私もわからない。あと能力なんてもんじゃないよ。病気だと私は思ってる」


「病気?そんなことないだろ。相手の考えてることがわかるなら相手の気分が良くなる方法だったり、テストでいい点数とれたりするだろ」


 本橋は、「はあ……」という顔をしていた。


「富永君、全然わかってないよ。相手の気分をあげようとして望んでいることをし続けたとしてもそれはただの都合のいいやつになるだけだよ。それにテストも同じであってるかわからない考えがわかっても仕方ないよね?」


「確かに……。能力があってもいいもんじゃないんだな」


 妙に納得してしまった。


 でも疑問が残る。なんで本橋は急に話したことのない俺なんかに話してきたのか?なぜこんな考えがわかるという能力をもっていることを伝えたのか?


「それも答えるよ」


「おい、考えを読むなよ」


「仕方ないじゃん。勝手に頭の中に入ってきちゃうんだから。それと、その答えは……と……」


「え、なんて?」


 本橋は何か言葉に詰まっていて、ボソボソと話している。


「友達が欲しかったからなの!!」


「うわあ!?急に大きな声出すなよ!」


「しょうがないじゃん!恥ずかしかったんだもん……」


 でもなんで俺なんだ?クラスでも俺より性格のいいやつなんてたくさんいるのに。


「それはねえ……」


 もう考え読むなよとか突っ込む気にもなれん。


「富永君の思ってるような性格のいい人なんてめったにいないよ」


「え、そうなの?」


「うん。みんな欲にまみれてる。嫌な考えばっかり頭にはいってきてもうやだ。その分富永君は……」


「俺は?まさかめちゃくちゃいい奴てこと?」


「単純なの」


「よし、お前とは今日で縁を切ろう」


「ちょっとやめてやめて!縁切らないで!」


「うるせえ!最初俺がいいやつみたいな感じ出してたのになんでそこで本当のこといっちゃう?おまえが単純だよ!」


「違うの!富永君が単純なのがいけないの!あと性格いいとかの話は冨永くんが早とちりしてただけなの!」


「こいつ……。まあいいや、俺が単純だろうが本橋さんが他人の考えがわかろうが別にそんなこと関係ないしどうでもいいよ」


「え、ほんと?それって友達になってくれるっていうこと?」


「ああ、よろしくな」


「うん、よろしくね!富永君!」


 本橋は今までにない満面の笑みを浮かべた。こいつ笑うと普通にかわいいじゃないか。


「あ、今……」


「あ……」


「いや、なんでもない……よ」


くそう、すげえ恥ずかしい。


こうして俺と本橋の友人としての関係が始まった。

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