第25話 遥香ちゃんは大変に素直である。

今夜は遥香ちゃんの初体験の日だ。今日はリラちゃん、くるみちゃん、夏帆ちゃんと、目まぐるしくセックスが続いている。


「どうかな……タクミくん。似合ってるかな?」

「あ、うん。似合ってるけど……」


遥香ちゃんが記念すべき初体験のために選んでくれたのは……この世界に転移してきたときに持っていたらしい、私物のパジャマだった。


僕たちは修学旅行に行くときに集団で転移したので、着替えや下着は数日分を持っていて、アリアちゃんに補修してもらいながら大事に使ったり、しまい込んだりしている。ピンク色のパジャマはとても似合っていて可愛らしいし、Fカップのお山が布地を押し上げているのも色っぽい。


それは良い。それは良いんだけど……


「あの、遥香ちゃん。それはどうしたの?」

「あ、うん。ここの倉庫にあったの。下働きの人が使ってたんだろうね」

「いや、そこじゃなくて、何で装着してるの?」


遥香ちゃんが装着しているのは、奴隷用の首輪だ。可愛らしいパジャマと首輪のアンバランスさからは犯罪臭しか漂ってこない。


「だって私、タクミくんの奴隷だから。あっ、ごめんなさい。タクミ様とお呼びせず、申し訳ございませんでした」


深々と頭を下げる遥香ちゃんのおさげ髪を見ながら、僕は今日の『奴隷売買』の最後が遥香ちゃんで、千奈津ちゃんにいきなり話しかけられたために、うやむやのうちにキャンセルをしていなかったことを思い出していた。


「今日はタクミ様の夜伽を務めさせていただきます。奴隷の身分で恐縮ですが、どうか処女を使ってご奉仕させてください」

「いや、待って。普通の喋り方に戻して? というか、何で奴隷としてセックスしようとしてるの?」


「承知しました。だってね、夏帆ちゃんが教えてくれたの。『タクミっちね、私が奴隷としてご奉仕したらさ、今までですごかったよ。だから、遥香ちゃんも奴隷になってあげなよ。タクミっち、ゼッタイに嬉しいと思うよ?』って」


くそっ……情報共有が早すぎる。しかも夏帆ちゃんが今までで一番悶えて感じてくれていたのは正しい情報だから、否定しづらい。


「あ、ごめん。奴隷がご主人様と同じ視線の高さはあり得ないよね」


奴隷路線を進行中の遥香ちゃんはその場に正座をしようとしてきたので、僕は慌てて押しとどめた。その拍子に、首輪についていた鎖に手が引っかかって、無理やり鎖で引っ張り上げたような形になってしまう。


「んぐっ? あっ、やっぱり奴隷として扱うと興奮するんだ。良かった、恥ずかしかったけど、この格好をしてきて♡」

「……もしかして、この首輪をしてるのって、誰かに見られた?」

「うん、これは自分だとうまく締められなくて、日花里ちゃんに装着してもらったから。それと、これを貸してくれたのは千奈津ちゃんだよ」


オワッタ。僕の性癖が恐ろしい勢いで歪められて共有されているのが、手に取るようにわかる。明日の夜は日花里ちゃんの番だけど、ほぼ間違いなく装着してくることだろう。


「とりあえず、中に入ろうか」

「うん、できたら鎖を引っ張って連れ込んでほしいな♡」


僕の主義としては、女の子のお願いは叶えてあげたい。鎖を手に取ると、遥香ちゃんは嬉しそうにしてうなずいている。うーん、嫌がっていないならやるしかないか……僕は遥香ちゃんの鎖を引っ張って、部屋へと連れ込んだ。遥香ちゃんは嬉しそうな表情で、ベッドに腰掛けた僕の横に座らずに、僕の前にしゃがみ込む。


「じゃあ、タクミくん。奴隷としてお相手させてもらうね♡ 私、全部初めてだから上手じゃないと思うけど……下手くそで気持ち良くなかったら、遠慮なくお仕置きしてね。お仕置きのされ方は、ちゃんと、夏帆ちゃんに教わってるから」


そう、他の女の子と違って、3軍に所属していた遥香ちゃんは、これまでに僕と性的なことをしたことがないのだ。それで僕は、ふと大事なことを思い出した。すでに始めようとしている遥香ちゃんに、慌てて声をかける。


「待って、遥香ちゃん。もしかして、キスをしたことがないんじゃない?」

「うん、まだだよ?」

「じゃあ、最初にキスをしようよ。ごめん、そんなことも気付かなくて」

「優しいね、タクミくん。奴隷とキスをしてくれるなんて」


遥香ちゃんは奴隷になり切るのをやめるつもりがないらしい。優しさのハードルが低すぎないかな……僕は心の中で苦笑いしながら、ベッドの下に降りて、遥香ちゃんを抱き寄せる。


「髪の毛の色、すっかり変わっちゃったね」

「うん、魔力の影響だからね。紫音や銀河くんもそうだし、どっちかって言うとお気に入りなんだよ」


遥香ちゃんは元の黒髪から銀髪になっている。僕はその髪を手ですきながら、まずは優しく唇を重ねた。


「んっ……ちゅっ……♡ えへへ、タクミくんにファーストキス、捧げちゃった♡ 嬉しいなぁ、がんばって生きてきたから、こんなご褒美があるんだね。もうお酒も飲める年齢になってキスもまだとか、恥ずかしいけど……日花里ちゃんたちが『お礼』をしてると、私やくるみの出番はなかったから。胸がリラたちより小さくて、ごめんね?」


「そんなことないよ。とても綺麗だよ。僕が初めて見るんだね」

「うん、たくさん見てね。奴隷の身体はご主人様の所有物だから、どんな風にしてくれても良いよ♡」


僕たちはもう一度キスを交わす。長めの時間をかけて舌を絡め、十分に準備ができてきた頃合いに、僕は声をかける。


「ねぇ、本当に奴隷扱いで良いの? せっかくの初体験なんだから、無理しなくて良いんだよ?」

「ううん、これが良いの。だって、タクミくんのナンバーワンにはなれないから、せめてオンリーワンの思い出を残したいんだよ? だから、呼び捨てにして欲しいな……せめてそれくらいしないと、ご主人様と奴隷って感じじゃないし」


「分かったよ。じゃあ、奴隷として仕えなさい、遥香」

「はい、ご主人様♡」


ベッドに腰掛けなおして足を開くと、遥香ちゃんは嬉しそうにしながら僕の前にひざまずく。そして、改めて身体のあちこちにキスをしてくれるのだった。


日課である『奴隷売買』のキャンセルを受けていない遥香ちゃんは、ノリノリで奴隷として振る舞っている。何度も本人の意思を確認したけれど、奴隷として初体験を済ませたいというから、僕も拒否のしようがない。これも遥香ちゃんのリクエストに従って、呼び捨てにしてあげる。

そして遥香ちゃんは『お礼』をしてくれていた。

「みんなはこれをしてあげてたんだね……羨ましいな。私もタクミくんのお部屋に行って、たくさんしてあげたかったよ」


僕の身体にキスをしながら、遥香ちゃんが寂しそうにつぶやく。


「でも、仕方ないよね。だって、私は他のみんなとは違って……」

「待って、遥香ちゃん。その先は……」

「タクミくんに振られたことがある女だからね」


目に涙をにじませながら、遥香ちゃんは昔の哀しい思い出を口にするのだった。


********


それはクラス転移する少し前の、文化祭が終わった後のこと。僕は伊達遥香ちゃんに告白をされて、お断りをした。もちろん、誰にも話してはいない秘密だ。


「タクミくんが日花里のことを好きだったのは、みんな知ってたよ。でも、先に告白すればもしかしたらと思って、思い切ってチャレンジしたんだ」


僕はかける言葉を見つけられないでいた。遥香ちゃんはパジャマ姿に、奴隷の首輪を身に着けて、銀髪のおさげ髪を揺らしてキスをしたりしながら、上目遣いでこちらを見ている。


「でもね、日花里は優しいから、私や千奈津、リラ、夏帆やくるみにね、『平等に愛してもらおう』って提案してくれたの。独占しようと思ったら独占できるのにね。そして、私たちも甘えちゃったんだ」


遥香ちゃんは僕を見つめながら、言葉を紡ぎ続ける。


「この異世界に来ちゃってから、辛いことばかりだったよね。でも私たち、ようやく幸せになれそうだし、タクミくんが女の子をたくさん囲っても変じゃない世界に来れたのは、良かったかも。千奈津の言葉を借りるなら『良かったねぇ、タクミくん。ハーレムものの主人公なんて、全男の憧れですぜぃ? こんな美女に囲まれて、休む暇がないですねぇ』って感じかな?」


「良いのかな、そんなので。僕、ちょっとというか、かなり気になってるんだけど」

「平等で良いんだよ。タクミくんには、たくさん幸せになってほしいもの。もっと生活が安定したら、私たちにタクミくんの赤ちゃんを産ませてね?」


赤ちゃんという言葉に、思わずどきりとしてしまう。まだ僕はそんなことは考えられていなかったけれど、ずっと一緒にいるのなら、そうなるってことだよね。遥香ちゃんが色っぽく微笑む。


「そろそろ、ご主人様に純潔を散らしてほしいな」


僕は遥香ちゃんを立たせると、抱きしめてキスをした。強く抱きしめると、遥香ちゃんの体温が伝わってきて、今すぐ僕の女にしたいという征服欲が湧き起こる。


「んっ……んんっ、ふぅっ♡ やだ、奴隷にするキスじゃないってば……」

「遥香、僕は君のことが好きだ」

「うん、私もタクミくんのことが大好きです。一度は振られた女だけど、みんなと一緒に愛してください」


僕は遥香ちゃんをベッドに横たえて、もう一度優しくキスをする。


「ねぇ、遥香……僕の奴隷になるって、どういうことか知ってる?」

「もちろんだよ。ご主人様に絶対服従して、奴隷としてご奉仕をすることだよね」

「違うよ。僕の恋人になってもらうことだよ。いつも通りに振舞ってほしいというのが、僕の遥香への命令だよ?」

「ずるいなぁ。一度は振った女を恋人扱いしちゃうの? 普通に奴隷扱いの方が、すっきりするんだけど」

「だって、この世界って一夫多妻制だし」

「うん。そこだけは、この世界の良いところだよ」


僕は遥香ちゃんのさらさらの銀髪を撫でる。遥香ちゃんはにっこりと笑いながら、僕の背中に腕を回した。


「じゃあ、私は恋人奴隷になってあげる」


そして僕たちは、愛を重ねた。満足した遥香ちゃんは、僕の横で柔らかい微笑みを向けてくる。


「みんなみたいに、経験はないけど……これからがんばるからね。今度はね、日花里と3人でしようよ♡」

「えっ、日花里ちゃん?」


僕が好きだった女の子と、僕が告白を断ってしまった女の子。相性が最悪じゃないだろうか? そんな思いが顔に出てしまったのか、遥香ちゃんはくすくす笑って、僕の耳元でささやく。


「ネタにするくらいがね、ちょうど良いんだよ。日花里とタクミくんがラブラブする横でね、私は切なそうにおねだりするの。そして、2人がかりでぐちゃぐちゃにしてもらうの」

「あはは……すごい考えだね」

そして僕は誘惑されるままに遥香ちゃんの美しい身体を朝チュンまで貪って、『後ろ手に縛られてお便所扱いされて……ほんまに絶倫やなぁ、タクミくん。うちら、本当に抱き潰されてしまうんやないやろか……♡』と様子を見に来たリラちゃんに呆れられ、ついでにギブアップ中の遥香ちゃんの代わりに、愛を交わさせてもらったのだった。

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