第24話 『破壊の魔女』の真価。
「タクミ、そしてヒカリ。ちょっと良いかな?」
千奈津ちゃんたち、新3軍のメンバーからじっくり報告を聞きたいところだけど、カナレさんも多忙な人だし、わざわざ自分の部隊と離れてきたくらいだから、重要な用事なんだろう。僕は中層探索の戦果のヒアリングをくるみちゃんと紗季ちゃんに任せて、拠点の中へ案内する。
「きれいに使ってくれているね。私もここが兵舎だった頃は寝泊まりしていたから、嬉しいよ」
カナレさんは、昔は中隊長だったけど、今は出世して、マクガレフの自治政府軍の大隊長だ。自治政府軍は旅団規模みたいなので、結構な幹部である。僕たちが拠点内の小部屋に入ると、カナレさんはすぐに話題を切り出してきた。
「先日、上層でハルカが強力な魔法を使って魔物を狩りつくしているという報告を受けたんだ。ただ、訓練を兼ねて上層を探索するのは経験の浅い部隊だから、『よく分からないけど強力な詠唱魔法を使っている』くらいの、あやふやな報告だった。だから今日は、自分の目で確かめてみようと思ったんだ」
あぁ、だからカナレさんが直々に中層探索のメンバーに入っていたのか。何でこんなにえらい人が潜るのかな?って違和感はあったんだよね。
「見た時から分かってはいたけど、ハルカに直接聞いて、教えてもらったよ。『アギラウスの杖』を手に入れるとは……すさまじい幸運だね。私は一応大隊長だから、上層の地図や魔物、手に入る宝物の情報などについては全て頭の中に叩き込んであるつもりだ。その知識に基づけば、アギラウスの杖は上層で最も価値があり、売る以外に使い道がない宝物でもある」
密室なのに、カナレさんは声をひそめながら話す。その緊張した声色に、僕たちの背筋は思わず伸びてしまう。
「売る以外に使い道がない……この意味合いはわかるね?」
「えっと、まず使い手である儀式魔法のスキル所有者が希少だから……ですよね?」
「そう。そして、あの杖は使い勝手が非常に悪いらしい。スキル持ちだから必ず使いこなせるものじゃないし、少し出力を誤ると壊れてしまうそうだ。私は中層に到着して、すぐに部隊を別方向に向かわせた。そして入口に人を配置して、冒険者パーティも私たちの方角は立ち入り禁止にしたうえで、ヒカリたちに同行した」
そうなの? 日花里ちゃんを見ると、うなずいて肯定した。要するに人払いをしたということか。
「先に話せば、チナツは恐ろしいほどに強かった。あのオパール・ケルベロスを一騎打ちで仕留めるなど、尋常ではない強さだ。あまりの強さに身震いしたし、感動したよ。『神速』のウィードさんにも勝ったらしいね。私も、今度チナツに稽古をつけてもらう約束をしたよ……だが、チナツの強さはあくまで個としての強さだ」
千奈津ちゃんはやっぱり中層でも非常に強いようだ。まぁそうだよね、上層の宝物殿の守護者を2手で倒した千奈津ちゃんにしてみれば、中層の魔物でも相手にはならないだろう。そして千奈津ちゃんの強さをひとしきり称賛した後で、カナレさんは思わぬ言葉を紡いだ。
「タクミ、これが本題だ。ハルカの実力は他の者に見せるな。特に、目の肥えた連中が多い中層の探索には参加させないでくれ」
「え、どういうことですか?」
僕は思わず前のめりになる。カナレさんの表情は真剣そのものだ。その表情を見ると、最初の迷宮探索の際に、調子に乗って死にかけた飯塚くんを叱り飛ばしていた時のことを思い出す。
「ハルカは強すぎる。私は戦争を何度も経験してきた。戦場では、『魔女』の存在が戦況を大きく左右する。そして私の知る限り、ハルカの実力は魔女の中でも上位に入るだろう。隠すんだ、タクミくん。決してハルカの力をよそに漏らすな……特にクヴァル皇国の上層部に知られてはならない」
「遥香の力が知られると、軍隊に引き抜かれるということですか?」
「そうだ。ハルカほどの魔女であれば、まず間違いなくクヴァル皇国の最高戦力に位置づけられるだろう」
「それは、遥香ちゃんが嫌がりますね」
「そうだね。君たちに戦場は似合わない。それは、指導した私が良く知っている。そして実は、私はハルカが儀式魔法を使えることを、上に報告していない」
肩をすくめて苦笑いしながら、カナレさんが言葉を続ける。
「だから、バレれば私もタダではすまない。実は今日、お願いして、杖の出力を最大値に高めた魔法を一発だけ打ってもらった。あれは回天の代物だ。ハルカほどの戦力を持てば、皇帝や将軍たちは、きっと使いたくなる。『ハルカが儀式魔法を放てば、あの国にも楽に勝てるのではないか?』『どれほどの破壊力を持つのか、戦場で目の当たりにしたい』とね」
まぁ、そういうものだろう。カナレさんの懸念が僕たちにも実感を伴って伝わってくる。そしてそれは、おそらく外れない。
「西部が戦争になれば、マクガレフも軍を出さなければならない。私の部下もたくさん死ぬだろう。それよりも、部隊が出払えばマクガレフの治安は悪化し、盗賊や犯罪は増加する。特に周辺の農村地帯は守れなくなる。大勢の女子供が、悲惨な目にあうだろう……私は農村の出だ。この国が版図を拡げるためではなく、汗をかいて働く人たちを守るために軍人になった。この忠誠は皇国ではなく、マクガレフの評議会と民衆のためにある。だから、戦争は避けたい。頼む、タクミ。幸いなことに、魔女は序列に匿名でしか載らない。ハルカの実力は隠し通してくれ」
僕と日花里ちゃんは顔を見合わせて、うなずきあった。僕たちも、ハルカちゃんが戦争に駆り出されたり、盗賊に襲われて不幸になる人が増えるところを見たいとは思わない。
「分かりました。パーティは再編成して、ハルカちゃんは迷宮に出さないようにします」
「ありがとう。ギンガたちが速やかにこの拠点に再合流できるように、私も便宜を図ろう」
こうして、僕たちは『遥香ちゃんの真価を外に漏らさない』という、思わぬミッションを持つことになったのだった。
********
僕と日花里ちゃんはあわただしく駐屯地へ戻っていくカナレさんを見送ってから、御堂くんとくるみちゃん、遥香ちゃんを交えて今後のことを協議した。そして、食堂に全員集合をしてもらい、遥香ちゃんの実力は隠した方が良いとアドバイスを受けたため、新3軍の中層での活動は一時中止することを確認し合った。
「俺たちは生きるために戦ってるんだ。伊達さんを、無駄な戦争に巻き込ませたいわけじゃない」
御堂くんの言葉に、みんなが同意してくれる。このクラスで、本当に良かったと思う。余計な情報を外に漏らすような性格のヤツもいないから、安心して情報を共有して一丸となって行動できる。
「ごめんね、みんな。やっと『砲台ちゃん』を卒業して戦力になれると思ったのに……」
「良いよぉ、遥香ちゃん。敵は私と千雨がぶっ殺して回るから、大丈夫」
鞘に入った千雨に頬ずりしながら、千奈津ちゃんが微笑む。えーと、手放してるのを見たことないね。『千雨も女の子だから、きれいにしないとねぇ』なんて言いながらお風呂場にも持ち込んでるらしいし……セックスの時にも持ってきてそうだな、それ……
「じゃあ、伊達さんは今まで通り詠唱魔法をメインに戦闘するってことで良いかな?」
「そうね。周りの冒険者パーティには、この前のことは、収支を気にせずに魔力石を浪費してたってことにしましょう。お互いにあまり詮索しないのがルールだから、みんな気にしないでくれると思うわ」
「ごめんね、私が中層では戦力になっていないせいで。最近、身体能力向上系のスキルが強化されたから、少しは役に立てると思ったんだけど……」
「気にしないで。今日の戦果ってすごかったんだから。昔だったら1ヶ月分くらいの稼ぎになってるよ?」
えっ、そんなに稼いでるの? 本当に、これまでの数年間の苦労、そして銀河くんたちが今してくれている苦労って何だったんだろう……こうして僕たちは解散して、くるみちゃんと皇子ちゃんは銀河くんたちの拠点に行った。念のため、御子柴くんと鹿谷くんの無害コンビに護衛についてもらう。引っ越して一週間も経たないのに戻ってきてもらうのは申し訳ないけど、早めに銀河くんと長坂紫音さん、そして加納虎太郎くんを交えて再編成したい。
そして夜になり、僕の部屋を顔を赤らめた遥香ちゃんが訪れたのだった。
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