第18話 銀河くんは八面六臂の活躍を見せる。

「堂本くん、そっちに行ったわよ!」

「オッケー、任せとけ!」

「紫音、右手から飛行タイプの増援! 弓で牽制をお願い!」


私は凛子の声に従って、ボウガンを構えて襲い掛かってくる魔物に狙いを定める。大きなカラスのような魔物は3体。まずは中央の敵を狙って、集団での動きを封じる。私の弱い弓術スキルでは仕留められないけど、牽制役で十分だ。


「焦熱よ、この世を厭う熾火であれ……!」


大物の相手を加納くんと末永くんに任せて、銀河くんがまずはうっとうしい飛行タイプを排除しにかかる。『魔法剣・達人』のスキルによって極めて強力になった炎が、詠唱に従って刀身から螺旋を描くように伸びる。


「堕ちろ……っ!」


まずは一振りで2体が、翼を焼かれて墜落していく。そこに止めを刺しに行くのは吉塚くんだ。あっちは任せても大丈夫だろう。私は残る1体に弓を放って意識を向けさせ、銀河くんの動きをサポートする。


「凛子、戦況は?」

「大丈夫、あっちの相手は安定してる。今のところ、追加で襲ってくる魔物はいないわ。しかし中層はやっぱり厄介ね……あれだけの魔物だったら上層だと単体なのに、中層だと随伴の魔物どころか、増援まで来るんだから」


全員が戦闘に集中していると危険だというアドバイスを受け入れて、凛子は周囲の索敵に専念している。とりあえず随伴と増援は倒せたので、残りは本命の魔物だ。確か、事前に閲覧した情報ではキリングゴーレムと名付けられている、ロボットのような魔物だ。私たちに中層での戦い方を指南してくれた政府軍の隊長さんの見立てでは、銀河くんの魔法剣と加納くんの剛剣しか通用しない。


「お義兄ちゃん、足元を崩すよ!」


加納小夜ちゃんが、吉塚くんと連携してワイヤートラップのようなものを仕掛けていく。幸いなことに、キリングゴーレムは私たちにとっては相性の良い相手だ。このエリアで接敵する大型エネミーは5種類いるが、特に俊敏なオパール・ケルベロスが相手だと、小夜ちゃんと吉塚くんのスキルが通用しなくなるため、一気に苦戦度が増すことが予想されている。


「よしっ、うまく崩した! 銀河の詠唱が終わるまでは頼むぞ、虎太郎!」

「おうさ! 行くぞロボットもどき……剛剣之参、隕鉄落としッ!」


正面から対峙するのは2軍リーダーの加納虎太郎くんだ。切れ味よりは破壊力に特化された剛剣スキルは、確実にキリングゴーレムの装甲を削っていく。加納くんへのゴーレムの反撃は堂本くんが盾で防ぐ。でも、かなりギリギリそうだ。残った私たちは四方から攻撃を放つなどして、ゴーレムの注意を引きつける。


汝、焦熱なり。

この世を厭う熾火であれ。

命を喰らい、怨嗟を貪れ。

我が魂が破獄を赦す。

深淵から這い寄り、三千世界の空気を焼きて誅戮せよ。

……破軍、

……陽獄!


その間に、銀河くんは完全詠唱を終わらせた。1日に1~2度くらいしかできないという完全詠唱でのスキル発動を選ばなければならないくらい、中層の敵は手ごわい。今日は午前中の探索でヨロイグマに放ったので、この戦闘が終わったら撤退することになるだろう。この距離でも肌がちりちりしてくるような、すさまじい熱量が戦場に充満していく。


「堂本くん、虎太郎くん、避けて!」


銀河くんの声に反応した2人が距離を取り、代わって銀河くんがキリングゴーレムに向かって距離を詰める。先程のように刀身から炎を伸ばさずに、そのエネルギーを凝縮させた一撃だ。


「これで終わりだっ!……炎虎獄炎破!」


炎をまとった一撃がゴーレムに突き刺さり、その身体をバターのように柔らかく溶かしながら切り裂いていく。そして大型の魔力石が、鈍い音を立てて地面に落ちた。それとほぼ同時に、末永くんの援護を受けた凛子の長槍が、孤立した飛行タイプの最後の一匹を仕留める。みんな、疲れ切った表情をしながら戦闘が終わったことを確認し合う。


「ふぅ……なんとか倒せたね。みんな、怪我はない?」

「お義兄ちゃん、お疲れ様♡ さっきの剛剣、カッコ良かったよ♡」


さっそく恋人に駆け寄る小夜ちゃんに心の中で苦笑しながら、私も全身を使って息をしている銀河くんに近寄る。魔法スキルの影響で、さらに髪の毛が赤くなったようだ。


「あっ、紫音ちゃん……今すぐ、するの?」

「えぇ。銀河くん、魔力が空っぽでしょう? 入口に近いところとは言え、撤退の道中に接敵する可能性もあるんだから用心しないと。大丈夫、私に任せて」


私は銀河くんのほっぺたに手を添えると、その唇を私の唇でふさいで、舌を滑り込ませる。銀河くんは抵抗せず、されるがままになっている。


「んっ……紫音ちゃん……」


私は銀河くんの喉に向けて、魔力のこもった体液を流し込んでいく。私が所有する回復魔法スキルに付随しているサブスキル『魔力譲渡』だ。体液を分け与えることが必要なので、こういう場だと必然的に唾液になる。


私はみんなに見られていることは気にせずに、銀河くんと濃密なキスを交わし続ける。銀河くんが顔を赤くしているのがとっても可愛いくて、早くセックスをしたくなってしまう。この『魔力譲渡』の欠点は、もっと濃厚な体液……つまりアレがほしくなって、性欲を刺激してしまう点にある。


「ぷはぁっ……もう大丈夫だよ、紫音ちゃん。みんなを守れるくらいには、魔力が快復したから」

「そう、なら良かったわ」


私としてはもっと銀河くんとのキスを楽しみたかったのだけど、魔物はいつまた襲ってくるか分からないので仕方ない。最後にちゅっと軽くキスをしてから、私は身体の向きを変える。銀河くんと同じように顔を真っ赤にしている凛子の姿が目に入る。あら、照れてるの? でも、アリアさんともっとすごいことをシちゃってるの、知ってるのよ?


「しっかし、やっぱり中層はキツイなぁ。これより攻撃が強力になったら、盾役として護りきれるか、不安だよ。もっと、衝撃の受け流しがうまくできるようにならないとな」

「それに、メインエネミーに攻撃がまともに通用するのは、銀河と虎太郎だけだからな。せめて、随伴と増援の相手は俺たちだけでできるようにならないと、効率が高まらないよな」

「そうだな。サブウェポンとして、長坂さんみたいなボウガンを持っておくか。中距離から牽制できるだけでも大きいし」


みんな、弱音を吐くことなく前向きな感想を言い合っている。数年間にわたって命がけの戦闘を繰り返してきた私たちのチームワークは健在だ。吉塚くんが散らばっていた魔力石を回収し終えて戻ってくる。


「加納さん、戦果物の回収は俺たちの仕事なんだから手伝ってよ……」

「あ、ごめんね。お義兄ちゃんの汗をぬぐうのに夢中になっちゃってた」


「ありがとう、吉塚くん。どうだった?」

「あぁ、やっぱり稼ぎの効率は段違いに良いな。傷薬の消費も激しくないし、この入口周辺で稼ぎながら力を付けていこう」

「そうだね。向こうのことは気になるけど、焦り過ぎても危ないからね」


私たちの目標は、あっちに残った人たち、特に4軍と5軍のみんなを救うことだ。そのためなら、この迷宮で多少辛いことがあっても、乗り越えていける。


「さぁ、中層の探索はここまでね。一度入口に戻って、上層に潜りなおして少しでも稼いでから帰りましょう」


私は銀河くんと早くセックスをしたい衝動を抑えながら、みんなに次の行動を提案した。待っててね、銀河くん。その可愛い顔にあえて目隠しをして、抵抗できない銀河くんのことをいっぱい愛してあげるから。泣いて止めてって言われても、やめてあげないの。それから、スイッチが入った銀河くんにたっぷりと反撃されてあげるから、覚悟してね♡

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