第16話 「あははっ、楽しいっ、楽しいよぉっ」×2の恐怖。
前日に千奈津ちゃんがガッツリと稼いでくれたおかげで、僕たちの朝食はいつになく高レベルの内容になった。魔力石は政府の専売なので自家消費分以外は卸さないといけず、代金の支払いはまだ先なんだけど、これからの黒字はほぼ確定なので前祝いといったところだ。
「タクミ、今日は草尽くしじゃないぞ。見てみろ、燻製肉が3枚もついている」
「草って言うな、野菜やキノコ類って呼べ! ほのかちゃんが見つけてきてくれる貴重な無料食材を、俺が調理スキルで美味しく調理してやっていただろうが!」
八橋くんがイラっとした様子で御堂くんに反論しているけど、どことなく嬉しそうだ。ちゃんとした予算が調理に回ってきたのが、よほど嬉しいんだろう。『ほぼ無料食堂、継続○日目』なんて札を食堂に出してたりしたしね、思えば高田ほのかちゃんの植物鑑定スキルで僕たちは生きて来れたんだなぁ……みんなで支え合って生き抜いてきたことを実感する。
「八橋くん、お代わり!」
僕の隣では、千奈津ちゃんが特盛りご飯(みたいに八橋くんが調理してくれたもの)を平らげて3杯目を注文している。そもそも、公休日でもないのに朝ごはんをゆっくり食べるなんて贅沢は、僕たちには許されていなかった。
「やっぱり、全身運動をするとお腹が減るねぇ。野獣と化したタクミくんのお相手を務めたから、くったくただよぉ♡」
あ、ちょっと待って千奈津ちゃん。男子がいる前でそういう感想を述べるのはやめてください。ほら、御堂くんたちが凄い視線で僕を見つめているんですけど。
「は? タクミ、今聞き捨てならない発言が朝倉さんから飛び出したけど?」
「そうなんだよぉ、私もすっかり女にされちゃってねぇ。日花里ちゃん、タクミくんの愛し方はすごく激しいから、今夜は覚悟しておいた方が良いよぉ? リラちゃんも、遥香ちゃんもね」
僕と初体験をする予定であることを暴露されてしまった3人が、顔を真っ赤にしている。逆に、男子たちの表情は真っ青だ。
「おま……この世に平等という言葉はないのか?」
「ハーレムは流行らないぞ、タクミ。時代は純愛だ。悪いことは言わないからリラちゃんの双子山は俺に譲ってくれ」
「いや……うちのはタクミくん専用やから……あ、もちろん赤ちゃんができたら別やけど」
「強く生きろよ白田、俺の本命はアリアさんだから、まだノーダメージだ」
「バカ、現実を見ろよ。この流れでアリアさんがタクミ以外に行くと思うか?」
「くそっ……くそっ……クラスの3大山脈を独占だなんて、そんな横暴が許されるはずが……!」
もう分かったから大三元トリオ(中村くん、白田くん、発条くん)、娼館に行ってお姉さんを好きなだけ抱いて来いよ。ちなみに3大山脈とは、リラちゃん(圧倒的暴力)、アリアちゃん(サイズ不明の超絶ロケット)、日花里ちゃん(ふんわり触感)の3人のことだ。
「お前ら、諦めろよ。娼館に行けば良いだろうが」
4軍の3バカと違って、八橋くんは冷静だ。さっきから高田ほのかちゃんと良い雰囲気を醸し出しているのは、そういうことなんだろう。他の5軍の4人と違って、僕への『お礼』もしようとしなかったしね。
「さて、おバカはここまでにして、迷宮に行くわよ?」
3軍リーダーであり、実質的にこの探索団のリーダーである伊達遥香ちゃんがみんなを急き立てる。今日の迷宮探索は、遥香ちゃんが装備することになった『アギラウスの杖』の戦力テストをメインの目的に据えている。
一応、詠唱魔法も使えるものの、これまで燃費最悪の儀式魔法を使えずに悶々とした日々を過ごしていた遥香ちゃんにとって、待ちに待った機会だ。戦力になることが確認できたら、パーティ編成を見直すことになっている。
「千雨、今日もたくさん血を吸わせてあげるからねぇ。昨日の私の血も舐めさせてあげれば良かったねぇ」
いや、記念すべき初体験の場に妖刀を持ち込むとか、怖すぎるから勘弁してください。千奈津ちゃんも刀を手にして、殺る気満々だ。不安なのは、まじめな性格の副委員長で僕と一緒にクラスの取りまとめをしていた遥香ちゃんまでもが、千奈津ちゃんと同じ雰囲気を漂わせていること……。
そして僕は不安を抱えたまま、みんなを送り出し、夕方になって杞憂じゃなかったことを知るのだった。
*******
夕方になり、遥香ちゃんと千奈津ちゃんのお2人は迷宮から上機嫌で戻ってきた。呆れたような、怯えたような表情の残りの皆さんも後ろをついてきている。
「……ねぇ、タクミくん。私たち、もういらないんじゃないかな……」
「……あぁ、俺もそう思う。地獄だったぜ、もちろん俺たちにとってではなく、迷宮と魔物たちにとってだけどな……」
みんなを代表して、島崎くるみちゃんと御堂健太郎くんが大きな溜息をつく。その表情から、昨日に引き続いて迷宮で何が起きたかは想像に難くない。
「あー、うん。遥香ちゃんはだいぶハッスルしたみたいだね」
「ハッスル? タクミくんは迷宮がドカンドカンと破壊されて、ついでに魔物が虐殺される様子を、ハッスルという言葉で表現してるの?」
くるみちゃんの語気が荒くなる。それはそうだよねぇ、僕だってそんな現場に居合わせたらドン引きするもん。
「あ、いや、ごめん」
「お前……あれはヤバいぞ、あれは。出くわした他の冒険者パーティや自治政府軍の皆さんは逃げ惑っていたぞ。『あははっ、楽しいっ、楽しいよぉっ』って叫びながら凄まじい魔法を乱射して、迷宮に破壊の限りを尽くしたんだぞ、伊達さん。特にモンスターハウス……あれは反則だった」
「うん。本当ならお互いに視認してから戦闘が始まるのに、召喚した隕石を四方から突っ込ませて終わりとか……FPSゲームで建築物にトラックで突っ込むタイプだったんだね、遥香って」
うーん、想像するだけでも恐ろしい光景が、2日続けて展開されたようだ。しかも、他の冒険者パーティが逃げ惑うって、巻き添えで二次被害とか、本当に出してないよね? 政府に僕たちの新戦力がダダ洩れとか、あんまりよろしくないんですけど?
「私たちの仕事って、遥香が暴れた後に散乱してる魔力石を拾い集めて回ることだけだったし……しかも千奈津のときと違って、瓦礫を片付けるというおまけ付きで……」
昨日の会話をコピーして貼り付けて修正しただけじゃないか?と思わざるを得ない会話を、僕たちは繰り広げていた。
「とにかく、2人は中層じゃないと危険だ。明日からはパーティを組みなおそう」
まったく反省しておらず、ハイテンションなままの遥香ちゃんは、アギラウスの杖に頬ずりをしながら陶酔した表情を浮かべていた。自分からは何も話そうとして来ないのが怖い。遥香ちゃん、君が僕と初体験をするのは最後の予定なんだから、それまでにその杖で卒業しないでね?
そしてこの夜は、僕と初体験を果たすために、色っぽいコルセットを身に着けた日花里ちゃんが部屋を訪れてくれたのだった。
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