第14話 『破壊の魔女』は産声を上げる。

迷宮で無双してきた千奈津ちゃんが拾ってきた『アギラウスの杖』は、迷宮の上層で共通して取得できる遺物では最高ランクの代物であり、上層を象徴する宝物なので非常に知名度がある。


一週間に一度しか再生しない守護者の宝物殿を攻略して、なおかつ相当の運がないと発見できないのだ。年間に1本くらいしか発見されないのではないだろうか? さらに耐久性にも問題があるため、現存しているのは数本だとも言われている。


もちろん、常識で考えたら売ってお金にするべきだ。しかし、僕たちは迷っていた。八橋くんがお祝いとして振舞ってくれたご馳走を堪能した後、リーダー会議を開催して今後について協議する。


「売るのは簡単なんだけど……これをこのまま使って戦力を底上げする可能性もあることは、みんな分かってると思う」


僕の提案に、みんなが一斉にうなずく。この世界で活動をして数年が経ち、ゲームなどに詳しくない子も、スキルなどについては詳しくなっている。


「タクミの言うことは分かる。アギラウスの杖の真価って魔法の強化ではなくて、儀式魔法の汎用化だろ?」


御堂健太郎くんのいう通り、この世界では儀式魔法という種類の魔法がある。蘇生魔法がその代表格だ。


儀式魔法は非常に強い効果を持つけれど、欠点として大掛かりな装置と膨大な魔力石、そして場合によっては複雑な魔力展開の手順詠唱を必要とする。要するに燃費が異常に悪いのだ。


だから、たとえば戦争では初手で敵の数を減らすのに使われる。『隕石召喚』がその典型例だろう。もっとも、相手も儀式魔法で防壁を張るから、魔女と呼ばれる存在によほどの戦力差がない限りは、決め手とはならない。


でも、迷宮でそんなものを使ったら場所によっては味方ごと全滅するから、使いたくても使えない。そういう、超アームストロングクロフネキキイッパツ砲みたいな魔法なのだ。


「そう、貴重な儀式魔法の使い手……」


僕たちの視線は、3軍リーダーの伊達遥香ちゃんに注がれる。『砲台ちゃん』と呼ばれるほどの、強力な儀式魔法スキルの所有者。


だけど、迷宮でそれを披露する機会はほとんどなかった……けど、アギラウスの杖のサポートがあれば、これまでと違って遥香ちゃんも活躍できるはずだ。


アギラウスの杖は、魔力石からの直接的な魔力の変換と貯蔵能力、そして放出する魔力の調整能力に価値がある。天からバケツをひっくり返すのが儀式魔法だとしたら、アギラウスの杖はじょうろのような存在だ。最悪の場合、魔力石を現地調達しながら打てば戦闘能力を継続できる。


中層に潜ったことはまだないけれど、遥香ちゃんの儀式魔法が通用すれば、十分すぎる黒字が確保できるほどに効率が良くなるはずだ。


「私が、こんな貴重なものを使っても良いの?」

「うん、合わなかったらその時に売れば良いしね。みんなもそれで良いよね?」


「もちろん、大賛成だよ」

「遥香、がんばってね」


「ありがとう、タクミくん、みんな。私……頑張るね。『砲台ちゃん』でお荷物だった私も、やっと役に立てるんだね……」


遥香ちゃんはアギラウスの杖を大事そうに抱きしめて、涙ぐむ。あれ、この展開って半日前にも見たことがあるような……うん、あんまり気にしないでおこう。


僕たちは遥香ちゃんの実力を明日確認してからパーティを再編成することで合意して、解散した。


僕が値引きスキルを99%に上げる前だけど、事態は急速に良い方向に転がっている。これも実は偶然ではなくて、あるクラスメイトのおかげだったんだけど、それが判明するのはもう少し後のことになる。


********


そしてその夜、千奈津ちゃんが僕の部屋を訪れてきた。相変わらずノックもそこそこに入室してくるのを注意しよう……と思ったところで、息を飲む。千奈津ちゃんは制服を身に着けていた。その意味するところが分からないほど、僕も野暮ではない。


「おいで、千奈津ちゃん」


抱き寄せて、ほっぺたに軽くキスをする。刀を振るうためにある程度の筋肉はあるけど、千奈津ちゃんの身体は小柄で、とても序列30位を瞬殺したとは思えない可憐な女の子だ。


「良いの? こんなに魅力的な格好で男の部屋に来るなんて」

「うん、私たちも実力がついて、身売りする可能性もなさそうだからねぇ。処女を守る必要もないから、早速、タクミくんに捧げたいんだよ。明日は日花里ちゃんで、明後日がリラちゃんで……最後は遥香ちゃんだよ。良かったねぇ、タクミくん。しばらくは処女が食べ放題ですぜぇ」


聞いたら、解散した後に女子で集まって、僕に抱かれたいかの意向調査をしたうえで順番をじゃんけんで決めたらしい。


4人もいたとは……いつかこういう関係になることを期待していなかったわけではないけど、いざ面と向かって言われると、ちょっと怯む。


「あぁ、もちろん一号さんを決めたりはしなくても良いよぉ。むしろ横並びのハーレム要員の方が安心できるって、みんな言ってるから。これに、夏帆ちゃんとくるみちゃんを入れて、多分詩織ちゃんも処女を捧げたいだろうから……ほぉ、7人ですか。ちょうど曜日ごとに担当を決めてあんなことやこんなことができますよぉ、娼館に行く暇がないですねぇ、い・ろ・お・と・こ♡」


「そ、そう……よろしくね」

「えーっと、リラちゃんがJカップで、日花里がHカップ、くるみちゃんがGカップで、遥香ちゃんがFカップ……ほぅほぅ、タクミくんはあちらの星人さんだったんですねぇ。AカップとBカップ同士で傷を舐め合おうね、詩織ちゃんに夏帆ちゃんや……」


いや、僕が選んだわけではないんですけど。でも確かに、クラスが誇るお山ばかりだ。これに船越アリアちゃんのあの超絶ロケットなお山が加わったら……いやいや、そんな失礼な煩悩は目の前の千奈津ちゃんに失礼だ。


「僕は、千奈津ちゃんもとても魅力的だと思ってるよ。僕から言わせて? 好きです、朝倉千奈津さん。これからも、一緒にいてください」


「うん、私もタクミくんのことが大好きだよぉ。一番じゃなくて良いから、私のことも好きでいてね」


僕たちは改めて、抱き合いながらキスをする。これまでのキスとは違って、心がとても暖かくなるような、幸せなキスだった。

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