第8話 『奴隷売買』が高効率な僕のスキルって……

「タクミくん、私はあなたの奴隷になりたいの。金貨30枚で買ってくれないかな?」

「良いよ。じゃあ、96%割引で……」


僕は、いつも詩織ちゃんとやっていた形だけの奴隷売買を、クラスの女子を集めて夜の日課として行うことになっていた。今日は詩織ちゃんと夏帆ちゃんも来ている。


夏帆ちゃんは結局、追い出される前に自分から娼館を出て、詩織ちゃんの養父母の店である『キンベーン商会』で期間限定で働くことを選択していた。就業許可は3か月しかないので、ここまでには、僕たちの生活を安定させておきたい。


「ねぇ、これって形だけでも結構恥ずかしいんだけど。詩織ちゃん、毎日こんなことをしてたの?」


3軍パーティに所属している島崎くるみちゃんが、僕との取引を終えてお金を返しながら、顔を赤くしている。ちなみに男子は追い出されたので、この場には僕以外は女子しかいない。お風呂上がりの良い匂いがし過ぎて、ちょっとクラクラしそうになる。


「ごめんね。でも今の売買で、確実にスキルの熟練値は成長したから」


微々たるものではあるけど、熟練値は成長している。僕と詩織ちゃんは、これまで1日1回だったこの日課クエスト『奴隷売買』を女子の全員とやってしまうことで、短期間で一気に熟練度をカンストさせようともくろんでいた。


「でもショック……私の価値って金貨30枚……日本円にしたら300万円程度だなんて……」

「60枚の子が多いから、非処女だと価値が半減するみたいね」

「やめてー! タクミくんの前で、そんなことをはっきり言わないでー!」

「いや、処女の方が恥ずかしいと思うんだよね。私たち、もうれっきとしたお酒もたばこもオッケーな年齢なのにさ……」

「だよねぇ……いざという時のために取っといているこの悲しみよ……」


実は熟練度の上がり具合で、スキルが判定している価値の上限がある程度分かってしまう。なんで処女か非処女かをスキルが判定できるのかと言うと、そこはもうスキルだからとしか言いようがない。スキルの存在自体が、人智を超えた存在なのだ。しかし、これをうっかり伝えてしまったのは失敗だった。女子がみんな、自分の価値判定会みたいなことになっている。


「タクミっち……ごめん。私みたいな汚れた女は、金貨10枚分の価値しかなかったよ……」


一番評価の低かった夏帆ちゃんが、orzみたいな状態になっている。娼婦としての男性経験の豊富さは、評価を下げるほうに働いたようだ。


「強く生きるのだよ、夏帆ちゃん。むしろこの場で非処女は勲章だと思いねぇ……私だって早くタクミくんに抱かれたいけど、我慢してるんだよねぇ」

「ちょっと、千奈津。本人の前でそんな恥ずかしいこと、言わないでよ」

「あれれ、日花里ちゃんはタクミくんに純潔を捧げたくなかったんだねぇ。お揃いだと思ってたのに、悲しいねぇ」

「そっ、それは今話すことじゃないでしょ、千奈津……!」


うん、いろいろと聞かなかったことにしたほうが良さそうだ。現に日花里ちゃんは顔を真っ赤にしながら『今のは忘れて!』と視線で訴えてきている。


「でも、この中で価値の上限が分からないのは詩織ちゃんと、遥香ちゃんと、千奈津ちゃんと、日花里ちゃんの4人か」


僕たちがかき集めた現金は金貨60枚ちょっとほどだ。なので、この4人にはそれ以上の価値があるとスキルが判定していることになる。


「この中で唯一の魔法スキル持ちの遥香ちゃんは当然として……2人には、何かすごい潜在能力があるのかもね」


詩織ちゃんがしたり顔でうなずいている。まぁ処女の相場が金貨60枚というのが分かったので、処女である2人に何かの上乗せがあることは確定だ。千奈津ちゃんは刀を持ったら強いらしいけど、日花里ちゃんにはどんな価値が隠されているんだろうか? ちなみに、この空間で処女でないのは、夏帆ちゃんとくるみちゃんだけのようだ。


「おぅおぅ、私の居合術はスキルには正確に評価してもらえてるようで、嬉しさのあまり絶頂しそうだねぇ」

「ちょっと、千奈津。今日はいつも以上に変じゃない? 変なものでも食べた?」

「えっ、私の選んだ野草のせいで……ごめんなさい、死んでお詫びします……」

「待って、ほのかちゃん! 大丈夫だから、千奈津ちゃんがちょっと変なのはいつものことだから!」


みんな、恥ずかしさでテンションが上がっているようだ。ちょっと狭い部屋に女子全員が集まっているので、ビジュアル的にはハーレム状態だ。僕も正直、早くここを出ないと理性を失いかねない。


特にそこの吉崎リラちゃん、さっきからクラス2位の高さを誇るお山が揺れ動きすぎなんですよ……この前の『お礼』を思い出しちゃうじゃないか……


「でも、詩織ちゃんはこれを毎日してたのね。嘘でも『私を奴隷として買ってください』って男の子に言うの、ドキドキしちゃうよ……」

「私も、今でもドキドキしちゃうよ」

「やだ、それって遥香がタクミくんにときめいてるからじゃないの?」

「もう、やめてよ。そんなんじゃないったら……♡」


おーい、唯一の男子もここにいるんですから、ガールズトークは程々にしてくださーい。……しかし、さっきの千奈津ちゃんと日花里ちゃんの会話もそうだったけど、遥香ちゃんもまんざらではなさそうだし、僕ってもしかしてモテるのかな?


娼館のお姉さま方と夏帆ちゃんしかセックスの経験はないので、僕は何を隠そう素人童貞だ。千奈津ちゃんたちは早く処女を卒業したがっているけど、僕も素人童貞を捨てたい。


ちなみに、念のために御堂くんを相手に実験したけど、男相手だと何も起きなかった。詩織ちゃんの分析では『僕が男を奴隷とすることに何の価値も感じていないからでは』ということらしい。さらに追加の実験として八橋くんを相手に実験したら、ほんの少しだけ上昇した。どうも、調理スキル持ちの八橋くんを奴隷にすることには価値を感じているらしい。


「みんな、ありがとう。この熟練度の上がり方だと、来週には97%に到達しそうかな。99%になった時にどうなるかは分からないけど、きっとみんなのためになるスキルだと信じてるよ」


僕たちは一致団結して、この苦境を乗り切ることを誓い合ったのだった。疑似とはいえ奴隷売買を繰り返す、つまり僕がご主人様になる行為を延々と行ったことによって、どんな副作用が待っているかも知らないままに……

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