第6話 とうとう訪れた、僕たちのお別れ。
僕たちのクラスは、4名から5名でパーティーを組んでいる。メンバーは転移してから固定で、2軍にいた真田詩織ちゃんと5軍にいた長井夏帆ちゃんが抜けたことはあったものの、入れ替えたことはほとんどない。
35人のクラス全員で転移して、すでに死んだか行方不明になったのが8人。クラスを離れたのが詩織ちゃんと夏帆ちゃんの2人。
そしてパーティに編成されずに戦力としてカウントされていないのが、買い出し兼雑用担当の僕と調理スキル持ちの八橋二郎くん、それとメイドスキルという謎の家事全般スキルを持っていた船越アリアちゃんの3人。
残った22人の生徒が、5軍まで分かれてパーティーを構成している。ちなみに、このパーティの人数構成はかなり一般的で、転移した最初のころに自治政府軍から派遣された教官さんが仕分けたものを、そのまま踏襲している。
1軍から3軍までは実力と適性による男女混合で、4軍と5軍は残った生徒が男女別に振り分けられている。要は、4軍と5軍は寄せ集めだ。
ちなみにこの世界の戦闘能力は大部分をスキルに依拠しているので、男女での差があまり発生しない。違うのはヤバい時の逃げ足くらいだろうか?
「タクミ、この剣の斬れ味が鈍ってきた感じがするんだよ」
声をかけてきたのは、1軍パーティーの末永竜広くんだ。同じ小学校からの友人でもある。末永くんの両手剣を受け取ってみると、確かに刃の色が鈍くなっていて、ちょっと刃こぼれもしていた。
「あぁ、ちょっと気合いを入れて研いでおくけど、店に出さないといけないかもな。その時は代理の剣を借りておくけど、前衛のメインは堂本くんに任せておけよ」
「悪いな、よろしく頼むよ」
鞘も僕に預けながら、末永くんはキョロキョロと振り返って周りの視線を気にすると、僕にささやいてきた。
「1軍と2軍でな、独立しようって意見が強くなってきている。俺はもちろん反対してるけど、多数決にされたらもう持たない」
「そっか……むしろ、今まで一緒にやってくれてたことが奇跡だったのかもな」
「それで、みんなは船越さんには一緒に来てもらいたいけど、八橋とお前は……船越さんがいれば調理もこなせるから、って理屈らしい」
さらに詳しく聞くと、1軍と2軍メンバーでは、あくまで見捨てるのではなく、もう数年経ったのだから集団生活をしなくても良いだろうという理屈で、八橋くんと僕は3軍以下の生活を支えてもらうために連れて行かないという論調になっているようだ。
でも、それに恨みはない。むしろ、よく今まで自分を殺してクラス全体を支えてくれたと思う。
「分かったよ、末永くん。でも、お前はこっちに残るなよ。1軍だからって、メンバーが欠けたら危ない。団体行動が取れなくなったら、死ぬぞ」
「分かってる。だけど、心配なことは心配だ」
メインの収入源である魔力石の収穫は、3軍の収支がトントンで、4軍と5軍は慢性的な大赤字だ。1軍と2軍が抜けたら、今までと同じような安全マージンは確保できない。収入のためにリスクを取るようになり、いつかヘマをして……全滅して還って来なかった、かつての3軍パーティーのことを僕は思い出していた。
「すまん……」
「気にするな、こっちはどうにかする」
そしてこんな会話をした数日後、1軍と2軍パーティー、そして船越さんの合わせて9名が独立してこの拠点を出て行くことが、正式に表明されたのだった。
まぁこの時点では、1軍パーティのリーダーでクラスの絶対的エースでもある紀藤銀河くんが、実は僕たち全員のために決死の覚悟を決めていたことは、僕も末永くんも、まだ知らなかったのだった。
*******
1軍と2軍パーティが移転する新たな拠点の契約はもう済ませていたそうで、銀河くんが食堂に全員を集めて独立の発表をしてから、実際に転居するまではあっという間だった。
わざわざ東西の反対側に拠点を構えたので、会いに行こうとしないと会えない距離だ。せめてもう少し近いところに住んでほしかったなぁと、寂しくなってしまう。
「広くなっちゃったね。お掃除とお洗濯……アリアちゃんがしてくれていたこと、私たちでしないといけないんだなぁ。メイドスキルって地味に優秀だったよね」
そばに来た門倉日花里ちゃんがため息をつきながら、ガランとしてしまった拠点を見渡している。引越しをするときにはお祭り騒ぎのようだったけど、9人と16人に分かれてしまい、元が35人だったことを思うと、嘘のように人気が少ない。
寂しさのせいか、思わず手をつないで指を絡めあってしまう。
「そうだね……とりあえず、船越さんがやってくれていた家事は僕と八橋くんががんばるけど、手伝ってもらうことも増えるかも。僕たちがここにしばらくは住んで良いことは政府のお役人の人が約束してくれたけど、それもいつまで続くか、がね……」
命の危険を犯して魔力石を採取する3K職場で働く僕たちは、自治政府には疎まれていない。クラスメイトのほとんどが当たり前に持っている戦闘スキルだけど、そこそこ貴重なのだ。だけど、自治政府軍には入れてもらえない程度にしか、信用もされていない。
「でもタクミくんは、ぜんぜん諦めたりなんて、してないんだよね?」
1軍と2軍が引っ越すことを聞いて様子を見に来てくれていた詩織ちゃんが、僕の表情を覗き込んでくる。握られていた日花里ちゃんの手が、その言葉に反応してぎゅっと握りしめられる。
「えっ、タクミくん、何か考えたりしてる?」
「うん、今さら隠し事もなかなかできないよね……まずは、各パーティーのリーダーに集まってもらおうと思ってるよ。日花里ちゃん、招集してくれる? 詩織ちゃんも一緒にお願いできるかな?」
「良かった……やっぱりタクミくんは、私たちのクラスのまとめ役だよ。安心できるなぁ……文化祭の時も、展示物をうまい感じでまとめてくれたのはタクミくんと遥香ちゃんだったもんね」
日花里ちゃんは僕の頬っぺたに感謝のキスをしてくれて、「おーおー、熱いですなぁ、お2人とも。タクミくん、このまま押し倒しちゃえば日花里ちゃんの純潔をゲットのチャンスじゃないかなぁ。ついでに私のことも所有物にしちゃいますかぃ?」と、いつの間にか背後を取っていた千奈津ちゃんにからかわれてしまったのだった。
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