第5話 夏帆ちゃんは、昔のキャラを思い出す。★

夏帆ちゃんが口をゆすいだ後で、僕たちは手をつなぎながら夏帆ちゃんの部屋へと移動していた。入室すると、夏帆ちゃんはするするとネグリジェを脱いでいく。


「ごめんね、着たままでして破れたりしちゃうと、もう予備がないから……」

「良いよ、気にしないで。もう女将さんも見ていないから、ゆっくりしよう」

「ううん、ちゃんとサービスさせて。男の人に満足してもらうのが、私の仕事だから」


夏帆ちゃんはあちこちにキスをしながら、僕の服を脱がせていく。こうされていると、僕が客という立場なんだと実感する。


「それにね、タクミくんだから言うけど、そんなことを言ってくれる男子に本当に手抜きをしちゃったことがあるの。でも、指名が遠のいちゃってね……当たり前だよね、スッキリしたくてお金を払ってるんだから」


夏帆ちゃんは寂しそうにそう言いながら、僕にベッドに腰掛けるように促してくる。そして自分はベッドに横たわると、僕を見て妖艶な微笑みを見せる。


「タクミくん、お願い」

「うん。じゃあ、よろしくお願いします」


そして抱き合っていると、夏帆ちゃんが僕の首に腕を回して抱き着きながら、耳元でささやいてきた。


「ねぇタクミくん、私がここを追い出されたら……私のこと、忘れてね。タクミくんが一番私のことを買ってくれたんだよ? これまで優しくしてくれて……ありがとう」


心臓が、ドキリと高鳴る。夏帆ちゃんが冗談でそんなことを言っているわけじゃないのは、心の底にひしひしと伝わってきた。


「やめてよ夏帆ちゃん、そんなことを言うのは」

「もう、ダメなんだ……実はね、先週からクラスの男子みんなに『私を買って』ってお願いして回ってるの。でも、来てくれたのはタクミくんと末永くんと、八橋くんだけだったんだ……今月はもう最下位になるし、新しい子も来たから、私が部屋を空けてあげないと……」


「じゃあ、僕たちのところに戻っておいでよ」

「それは無理だよ。5軍でもガチの足手まといだった私が戻っても戦えないし、することって言ったら、みんなの娼婦になることくらいしか……でも、今でも買ってもらえない女の子だし」


夏帆ちゃんは自虐的な笑みを浮かべる。僕も、夏帆ちゃんが娼婦になったいきさつを思い出していた。遥香ちゃんたちの制止を振り切って、娼館街に消えていったあの日のことを。


「私、タクミくんたちみたいにサポートできる才能もないから、娼婦になったじゃん? もう疲れたの。鉱山娼婦なんて数を稼ぐためにもっと過激らしいし、この世界でがんばるの、嫌になっちゃったんだ……」


「それなら、僕がこれから通い続けてあげるよ」

「ダメだよ、お金が無くなっちゃう。タクミくん、みんなのために詩織ちゃんと色々計画してるんでしょう? それはみんなのために使ってあげて……ごめん、こんな話をしてタクミくんの重荷になるつもりなんてなかったのに……最後に会えたのがタクミくんだったから、つい嬉しくて」


夏帆ちゃんは涙を流しながら、僕にキスを求めてくる。僕はそれに応えて、夏帆ちゃんと舌を絡ませる。


「ねぇ、夏帆ちゃん。もう少しだけ、がんばってくれないかな?」


僕は夏帆ちゃんを抱きしめながら、指で涙をぬぐって、その瞳を見つめる。


「そんなことじゃないかと思って、詩織ちゃんの養父母にお願いして、出稼ぎ用の就労資格の発行の準備を進めてるんだ。それさえあれば、店番として住み込みで3か月は働けるから、その間だけでもがんばって。僕がきっと、その間にどうにかするから」

「どうにかするって……どうするの?」


僕は言いよどんだ。値下げスキルの隠し要素のことは秘中の秘だから、いくら夏帆ちゃん相手でも伝えるわけにはいかない。でも、僕の気持ちを汲み取ったように、夏帆ちゃんは娼婦としての口調から、クラスメイトだったころの昔の口調に戻って話しかけてくれた。


「分かったよ、タクミくん。お人好しな君のことを信じて、死ぬのはやめるよ。でもバッカだよねぇ、タクミくんも。夏帆ちゃんみたいに娼婦になったビッチのことなんて捨てちゃえば良いのにさ、そんなに夏帆ちゃんの具合が良かった? ほらほら、言ってみなよ、タクミっち」

「うわ、懐かしいね、そのキャラ。学園ではギャルの長井さんだったもんね」


「うん、こっちだと金髪にも染めらんないし、足手まといが変に目立っても仕方なかったかんね。でも、こんな汚れた私を気遣ってくれて嬉しいなぁ♡ 夏帆ちゃんね、詩織ちゃんとこで、もいちど張り切ってみるよ。そうじゃないと、死んじゃった坂崎さんたちに顔向けできないもんね」


夏帆ちゃんは、僕を見つめてにんまりと笑う。


「しっかし、タクミっちがそこまで私に惚れてくれていたとはねぇ。やっぱり、ギャルの方が良かった? 夏帆ちゃんの魅力に、メロメロになっちゃってた?」

「いや、そんなんじゃないから。僕だって、娼館の他のお姉さんと遊んだりするし」

「ふーんだ。どうせ夏帆ちゃんは、Bカップの日本人体系ですよー」


僕たちは見つめ合って、そして笑いあった。夏帆ちゃんのこんな笑顔を見るのは、クラス転移してから初めてかもしれない。


「……ねぇ、私、タクミっちに惚れちゃったみたいなんよ。本命じゃなくても良いから……仕事じゃないと、全然違うね」

「僕はあんまり変わらないけど?」

「うわ、サイテー。そういうデリカシーのないこと、千奈津ちゃんたちに言ったらダメだかんね?」


僕たちは冗談みたいなことを言い合いながら、身体を重ね合う。僕にとっても、心が軽くなる行為だ。


「惚れたっていうけど、夏帆ちゃんって彼氏持ちじゃなかった?」

「いや、それ聞いちゃう? いたけどさ、違うクラスだったから……あっちは地球人で、夏帆ちゃんは異世界人だもん。うん、キスの味もぜんぜん違う感じ。詩織ちゃんとこにいった後も、無料でたくさんサービスしてあげるから、会いに来てね。あっ、夏帆ちゃんは重たい女じゃないから、何号さんでもぜんぜんオッケーだかんね」


「うん、待っててね。絶対に、みんなの将来のことは僕たちでどうにかするから……」

「うん、待ってるよ……」


ちなみに夜の『お礼』のときに「タクミくん、いつもより匂いが濃ゆいねぇ」と千奈津ちゃんに言われて夏帆ちゃんを買いに行ったことを正直に申告し、「へー、タクミくんったら絶倫ですなぁ」とからかわれたのだった。

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