第4話 夏帆ちゃんは待合室でサービスをする。★

僕は足早に午前中の買い出しを終えて、お昼過ぎから夏帆ちゃんを買いに行った。昼間の娼館街はさすがに人気もそれほど多くはない。僕は一本裏路地に入って、いつもの娼館に入っていく。


「こんな時間に娼館へ足を向けるのも、慣れたとはいえまだ少し後ろめたさがあるよ……」


でも、昼は割引があるからどうにか夏帆ちゃんを買えるのだ。そう納得させつつ、重い扉を押し開け、かつてのクラスメイトがいる場所へ向かう。


「あぁ、あんたかい。久し振りだねぇ、でも、うちで割引はよしておくれよ」


入り口ではさっそく、娼館の女将さんが出迎えてくれた。最初の頃に安値でサービスをしてくれた恩もあって、他にも娼館はたくさんあるけれど、男子の大半がここの常連になっている。ちなみに僕も、ここで初体験をさせてもらった。


「こんにちは、女将さん。今日は普通に正規料金で払いますよ」


ちらりと受付の帳簿を見ると、この店に通うクラスメイトたちの名が目に止まってしまう。やっぱり、命の危険を抱える僕たちには、こういう場所でしか心を癒せない仲間も多いのだ。


「カホちゃんかい? それとも、他の女の子にするかい? ちょっと高いけど、処女の子も今日から新しく入ってるよ。あんたのとこのカツヤくんも買いたいって言ってたけど、そこは早いもの順だからねぇ」


カツヤというのは、1軍パーティに所属している堂本克也くんのことだ。処女を買えるとか、どんだけ貯めてるんだあいつ……僕は割引なしの正規料金を女将さんに渡しながら、夏帆ちゃんを指名することを告げる。


「あいよ、じゃあちょっと待っててね」

「あっ、ところで女将さん……」


「あぁ、さっそくお客が付いたと思ったら、聞いたんだね? 悪いけど、うちも商売だからね……身体を売ってお金に替えたい覚悟を決めた女の子は、このマクガレフの街にもたくさんいるし、周りの街からもやって来るんだよ。あんたらみたいな子供たちがよその世界からやって来たのには同情するけど、もう随分と経ったから、いつまでも特別扱いは……ねぇ」


女将さんの言葉に嘘はない。女将さんなりに夏帆ちゃんに配慮をしてくれたからこそ、これまで娼婦として生きて来れた。この世界で親のない子供や貧しい子供が珍しくないのも、その通りだ。売り上げの悪い女の子はよりクラスの低い娼館に移籍して、そしてここみたいな低級の娼館で部屋を持てなくなった娼婦は……


「女将さんには感謝しかないけど、それでも商売は商売……か」


僕は財布の中身を確かめながら、わずかに胸が痛む。夏帆ちゃんもそうだけど、いつまでここにいられるのか分からない状況で頑張っているんだな……と強く感じさせられる。


「あっ、タクミくん。指名してくれてありがとう」


待合で椅子に腰掛けていると、薄いネグリジェを身に着けた夏帆ちゃんが、笑顔で階段から降りてきた。まとめ上げた髪から見えるうなじが、とっても艶めかしい。


「どうしようか? ここでサービスする?」


この娼館はランクでは低級に位置する分、ちょっと過激なサービスで人気を維持している。やり過ぎるとさすがに怒られるけど、指名した女の子にここでサービスを受けることは基本料金に含まれているのだ。事実、あっちでも防具店のお店のおっちゃんが良いことをしてもらっている。


「ごめんね、私はあっちのお姉さまみたいに大きくないから……」


僕の視線に気付いた夏帆ちゃんが、ちょっとしょげ返る。


「あっ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだよ。ほら、ちゃんと夏帆ちゃんのエッチな格好に興奮して、反応してるから」

「本当だ。私の身体で満足してくれているんだね。嬉しい……♡」


娼婦の笑顔を浮かべながら、夏帆ちゃんがズボン越しに僕に触れあってくる。そして顔を寄せて、唇を重ねてきた。僕は夏帆ちゃんのペースに合わせて、濃厚なキスを重ねる。


「んっ、ちゅぱっ……んぅっ、んふ……ぷはぁっ……タクミくんのキスが上手だから、我慢できなくなっちゃうよ♡」

「うん、僕も我慢できないよ」

「早く上でしてもらいたいけど、まずはここで、サービスするね♡」


僕は腰を浮かせて脱衣をしてもらう。夏帆ちゃんはにっこりと笑うと、いつも通りにサービスを始めた。


「……えへへ、やっぱり私を買ってくれて嬉しいな」


夏帆ちゃんのネグリジェの裾が揺れる。昔はクラスでそこそこ目立つ存在だったのに、今はこんな形でしか会えないなんて、やるせなさを感じてしまう。


そして僕が満足して、サービスが終わる。クラスメイトが娼婦になって、僕はその子を買っている……転移前の日本では……いや、ある可能性はあるんだろうけど、まぁ普通は体験しない行為だ。それを僕たちは当たり前のように行っているし、むしろ『買ってほしい』と望まれている。


でも生きているだけ、僕たちはまだ幸せだ。自分の魔法スキルを過信して、『俺の実力なら中層部でも無双だぜ』とソロで活動して死んでしまった飯塚、慎重になっていたはずなのに迷宮で深入りしすぎて、まだ遺骨や遺品も発見されていない河島たち、そして恋人が行方不明になってしまい、将来を悲観して首を吊った坂崎さん……やめよう、これ以上思い出すと憂鬱になってしまう。


「……それでも、生きるしかないし、生きたいんだよなぁ、僕たちは」


サービスを終えた夏帆ちゃんの頭を撫でてから、僕たちは娼婦とお客さんとしての行為をするために、夏帆ちゃんの個室へと移動する。


「行こっか、タクミくん……私の部屋、一番下のランクでちょっと狭いけど」

「うん、ありがとう。……夏帆ちゃんこそ、無理しないでね」


そう言いながら、僕は少しだけぎこちなく笑う。クラスメイトの身体を買うという行為に、心がちくりと痛む。だけど、今の僕はただ、夏帆ちゃんの求めに応じるしかできないのだった。

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