再挑戦!ラブラブベリー

「カフェに行ってこいよ」


 ある日の朝、陽斗からそう言われた。


「あ? なんでだよ」


「あそこ、今カップル専用のあれやってるだろ?」


「もう行った」


「それは好きってなる前だろ? 今だからこそ行くべきだ。今度はふたりきりで、誰にも邪魔されずな」


「そ、それは……」


「恥ずかしがるなリア充。ユリアちゃんが消えたら困るんだろ? 俺達を信じろ」


「ま、まあそこまで言うなら……」


「ユリアちゃんは文芸部が今日、未来のこと質問するために拘束中だ。今日がチャンスだぞ」


「チャンスって……」


「とにかく誘え! そんでラブラブベリーフラペチーノを飲んで写真撮って来い!」


「またあれかよぉ~!」



 と、放課後。俺と美咲は集合してカフェへの道を歩いていた。もちろん手を繋いで。これも陽斗のオーダーだった。あいつユリアと同じディレクションしてやがる。

 その途中でよく遊んでいた公園を見つける。


「わ~懐かしいねぇここ。でも遊具結構変わっちゃってるね?」


「そうだなぁ。危ないって言われたのかな? あの回転するやつ……」


「あったあった! 真ん中入って変身ごっこしてたね悠真くん」


「お前はプリキュアチェンジだったっけ?」


「あはは。これ言われると恥ずかしいね昔のことって」


「だろ? ユリアが来てから俺はずっとその恥ずかしいこと言われてきてたんだぜ?」


「あはは。でも嫌じゃなかったでしょ?」


「ああ。まあなぁ。あいつのおかげで今お前とこうして仲が戻ったわけだし」


「っとそうだ。この先に馴染みの豆腐屋さんあったよね?」


「あったあった。買いに行かされてなぁよく」


「ちょっと寄り道、いいかな?」


「いいよ」



「おう。美咲ちゃんいらっしゃい。おっとそっちのは……」


「おっちゃんそっちの呼ばわりはひどくないか? お得意様なのに」


「おうすまんすまん! いや珍しい組み合わせというか懐かしい組み合わせと思ってな?」


「ああ。最近また仲良くなったんだよ。ね? 悠真くん」


「ああ。そうだよな。美咲」


「そりゃ良かった。心配してたんだぜ? あんな仲よかったのに最近は一緒じゃなかったからよ」


「そ、そんなに仲良かったですか?」


「ああ。恋人か夫婦かってくらいにはな。聞いたらはい! 夫婦です! って美咲ちゃんが……」


「待ってください! 私そんなこと言ってたんですか!?」


「たぶんあれおままごとのまま買い物連れてかれてたんじゃねぇかな。まあ微笑ましかったがよ」


「そ。そんなこと……」


「それよりその年になって昔みたいに手を繋いでるってことは付き合い始めたんだろ?」


「そ、それはまあ、に近い感じかな?」


「う、うん。そうだね。告白して、返事待ちです」


「そうかそうか! 陽斗のやつから聞いてるんだぜ? お二人がつきってるってことはよ!」


 そう、この店は陽斗の実家なのだ。にしてもあいつあんま好きじゃないはずの親に言ってまでこの作戦を成功させようとしてるのか。


「お二人さん。結婚してからも家をご贔屓にね?」


「け、結婚……」

「そ、それじゃおっちゃん失礼しましたぁ~!」


 フリーズした美咲を連れてその場から逃げ出したのだった。



 そして例のカフェに着いた。あまり今日は混んでいないらしい。


「ちょっと今日は人が少ないみたいだね。……少し残念かも」


「ん? どうした美咲? 後半聞こえなかったけど……」


「ひ、独り言だから! うう、私おかしくなってる……」


「そ、そうか……」


 聞かれたくないかもしれないのであまり突っ込むのはやめておく。やぶ蛇な予感がするし。


「ところで今日も例のアレ頼むんだよね? 写真撮っちゃおうよ」


「そ、そうだな。じゃあこっち近づいて……」


「え、えいっ」


 そういって美咲はこっちに密着してくる。前より大胆に。

 俺もなるべくラブラブに見えるよう肩を抱いて手の中に収まるような姿勢を取る。


「じゃ、じゃあ行くぞ。はいチーズ」


「う、うん。あわわいい匂いがするよぉ~」


 いい匂いはこっちのセリフだ。自分のことを好きと言ってくれる美少女が自分の手の中でいい匂い出してて、頭が茹だりそうだ。まだ6月なのに。


「と、撮れたぞ? だから離れて……」


「も、もうちょっとだけこうしててもいい?」


 何言ってるの美咲!? 顔真っ赤だから離れたほうがいいと思って気を利かせたのに! 


「学校じゃこんな事できないから……だめ?」


「だめじゃないけど……」


 可愛すぎる! 反則だろ! 上目遣いでだめ? なんて言われたら! 



 そうして密着したまま順番が来た。例の愛してるを言わないと買えないはずだ。

 ここは俺が先に恥をかくべきだろうと


「「愛してるっ」」


 またハモってしまった。前もこうじゃなかったか? 


「あの~お客様、ありがとうございます。でもあのそれ言わなくてもお買い求めいただけるように変更になたんですよ」


「嘘でしょ!? 対策がどうのこうのって……」


「2ショットの時点で恥ずかしいし飲むときも恥ずかしいのに偽装する意味が薄いとかさすがに店頭で愛の告白は恥ずかしすぎるとかの意見だ多くてですね……すみません。先に行っておくべきでした」


 くそ! 恥ずかしい思いしたのに! 


「そ、それではラブラブベリーフラペチーノ1つご結しますねぇ!」



 そしてラブラブベリーフラペチーノが来たので、席についた。これからまた飲むのか……。このカップル用相飲みストローで! 


「えっとじゃあ飲もうか? 悠真くん」


「あ、ああ。行くぞ!」


 ええいままよ! そう思い飲みつく。くそっやっぱり美味しいなこれ。

 トントン、と肩を叩かれる。恥ずかしくて下の方に目園を向けていたのだが、なにかあったのだろうか? 

 顔を上げると、目が合う。ニコッと笑う美咲。何なんだ? 

 そのまましばらく無言の時間が流れるが、不思議と悪い気分がしない。まるでこうあるのが自然なように。



 無言のまま飲み終わる。前とは違いすぐに去っていったりしない。二人でなんてことない話をする。結局また飲み物を頼んで、夜までそこにいたのだった。



 結局、その後も駅前のショッピングセンターを二人で回って、夜はファミレスで食事を摂ることになった。


「覚えてる? ユリアさんが来た初日のこと」


「ああ。ここで歓迎会やったっけな」


「そうそう! で、私が転びそうになったとき……」


「俺がダサく助けたな」


「ダサくないよ。かっこよかった。それと……」


「それと?」


「うん。疎遠だったのに、男子に触られたのに、別に嫌だって思わなかった。あのころから多分、君のこと意識してたんだと思う」


「そ、そうだったのか……」


「ユリアさんはもうすぐ未来に帰っちゃうんだよね?」


「今日を入れてあと4日だな」


「ねえ。きょうは楽しかった。でも明日からはユリアさんとデートしてあげて?」


「それは……」


「だって、推し、なんでしょう? それにもうすぐ帰っちゃうんだし……」


「私はまだ……だから……」


「好きじゃないのかよ」


「好きだよ。君のことも。ユリアさんのことも。だから後悔したくないんだ」


「そうか」


 帰るまであと3日。もう時間はない。

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