人生2度目のキス

 そして放課後、俺、美咲、ユリアの三人ででかけることになった。表向きはユリアの思い出つくり、裏の目的は推しの尊いシーンを見せてユリアを満足させることだ。


「とはいえもうあらかためぼしいところは見終わっちゃったんですよねぇ私」


「何か行きたい所あるか? もう1度見たいところとか」


「それならお二人の思い出の場所に一緒に行きたいです! 推しカップルなので!」


「それじゃあまずは……」


「秘密基地、とか?」


「ああ。一度連れて行ってるし、いいかもな」



 そして例の秘密基地跡地につく。が、先客がいた。男女小学生低学年くらいだ。


「邪魔しちゃ悪いな。遠くからちょっと見るくらいで終わらせよう」


「そうだね。今の住人に悪いもんね」


「お二人は秘密基地でどんな話をしてたんですか?」


「そ、それは……なんだっけ?」

「普通に遊ぶのと変わらなかったけど……ね? 隊長さん?」


「あ~おもいだした! 特撮のチームかなんかに影響を受けてお前のこと高橋隊員って呼んでた時期あった! それで秘密基地を作るって言い出したんだ! 恥ずかしっ!」


「ソフビの人形で怪獣退治したりね? でもその後ちゃんと私のやりたがったおままごとに付き合ってくれてたんだよ?」


「そうそう! それで確か……夫婦って感じの設定が多かった気が……」


「そうなんだよね! 子どもが二人で~一軒家! 私は夫の帰りを待っていて……」


「おれが……なんだっけ? 公務員か何かだった記憶があるな。夢も希望もない」


「おままごとセット毎回かさばるのに、悠真くんは毎回持ってきてくれてね? あのころから優しかったなぁ」


「わあ! やっぱりお二人は仲良しだったんですね? それで籠城したときのことって……」


「あのころは私のお母さんが仕事忙しくてね? なかなか帰ってこなくて、イライラしてたの。 迎えに来るはずの時間より遅くなって、それで……」


「俺が、美咲は渡さない! って……美咲の親相手に何言ってんだか」


「でも、嬉しかったよ? まだ好きって気持ちに気づいてなかったけどそのころは」


「そ、そうか……」

 そうこう話しているとユリアの薄さが下に戻っていってる気がする。ユリアのテンションに連動してるのか? 


「さてさて。そろそろ次の場所に行きましょう!」



 次の場所は前住んでた場所、つまり初キスの場所だ。俺は覚えていなかったが美咲は……


「うわ~なつかしい! よくここに遊びに来てたんだよねぇ!」


「それで、美咲は覚えてるのか? 初キスの思い出」


「もっちろん! 劇やったでしょ? 白雪姫の」


「ああ。そういえばやったなぁあの白雪姫が10人くらいいるやつ」


「あれでみんな悠真くんにキスされたくて立候補してたんだよ?」


「嘘だろっ!? 皆主役! みたいな昨今の事情じゃなかったのか!?」


「あはは。やっぱり気がついてなかったんだ。人気だったんだよ? 当時すごく」


「全然気がついてなかった。それで、初キスとなんの関係が?」


「それで、私が嫉妬しちゃって……おままごとの最中に夫婦はキスするんだよ! って……」


「そ、そんな流れだったのか……」


「ほっぺにキスして、キスされて。だってほっぺしか知らなかったから……」


「そのエピソード知ってます! 初めての嫉妬エピソード! でも私が見たときはキスシーンの最中だった気が……」


「だってさ悠真くん。する? キス」


「ば、バカっ! 冗談でもそんなこと……」


「冗談じゃなかったら、してくれるの?」


「そ、それは……」


 ユリアの方を見てしまう。


「私のことは気にしないでください! 推しカップルのキスシーン! 好物ですから!」


 あきらかに無理をしている声色。俺は……


「あはは! なんてね。次いこっか」


 美咲ははぐらかす。こっちも少し無理をしているようだ。



 そして最後の場所、思い出の地、山の頂上に着く。


「あ~久しぶりに来たけど変わってないねぇ~」


「だよな。いい景色だよな」


「それは悠真くんと見てるからだよ。一人でここにくるって発想はなかったし。一緒にいるからいいんだよ」


「そ、そうか……」


「美咲さん、少し良いですか?」


「どうしたのユリアさん?」


「その……ちょっと……お花を……」


「ああ! わかった。行ってらっしゃい。えーとあっちにあるから……」


「あ、ありがとうございます~」


「どうしたんだ?」


「乙女の秘密。デリカシーないよ?」


「ご、ごめん」


「それより、ここ懐かしいねぇ」


「ああ。何かあるとすぐここに来てたからな」

「そうだっけ?」


「ああ。学校でなにかあったときも、中学校の頃髪切ったときも……」


「そういえばそうだったね。君が来てくれるって信じてたの」


「いつも一緒だったからな」


「喧嘩別れしたあとも、しばらくは毎日ここに来てたんだ。悪い夢で、すぐ元通りになるかもって」


「それは……そうだったのか……」


「でも今は仲直りできて、好きだって言えて、嬉しいんだ。楽しいんだ。やっぱり好きだって思い直してる」


「美咲……」


「あえて嬉しい。話せて嬉しい。触って、そこにいて、何をしていても嬉しい。たとえ私を選んでくれなくてもそれでも……友達でいてくれますか?」


「美咲!」


 愛おしくて、思わず抱きしめる。


「ゆ、ユリアさんが戻ってきちゃったらどうするの?」


「そ、それでも俺は……」


「じゃあ、ん」


 と、顔を近づけてくる。俺も自然と顔を近づけた。

 唇が触れる。ただそれだけのキス。好きを自覚してから初めての。


「えへへ。キス、しちゃったね」


「あ、ああ」


「ユリアさんにはないしょ、だよ?」


「誰にも、だろ? 二人だけだ」


「うん。えへへへへ」




 離れた場所から見ています。お二人のキスを。心が通じ合う尊い瞬間を。このためにわざわざ恥をかいてお手洗いに行くふりをしたというものです! オタク冥利につきますね! 


「あはは。あれ? なんで泣いて……尊すぎて涙が出ちゃったのかな?」


 わかっている心に蓋をして。仲睦まじい二人の間に入っていくことができなくて。たちすくんだまましばらく動けなかったのでした。

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