怪我と幼馴染と保健室
うちの学校では体育は男女で一緒に行うことになっている。
その日は体育館でバスケが行われていた。
「こっちこっち! パス!」
「よっしゃ任せた!」
と、バスケ部が試合の展開をリードしていた。俺は一応体を鍛えていた頃があったとはいえ、最近はあまり走り回らなくなったのもあって、あまり活躍はできていないが、ユリアはチームメイトに
「こっちで~す! こっち空いてま~す!」
と言ってパスを貰っていた。
ガシャン! とボールが宙を舞い、ゴールに入る。活躍できているようだ。未来でもバスケはあってルールは変わっていないようだった。俺も少し頑張らなければ、と
「こっちだユリア!」
「はい! ユウマさん! パス!」
とボールがこっちに来る。俺はレイアップシュートを決めた。
「ナイスシュートです! ユウマさん!」
これで少しは良いところができたかな、と安心している間に、プレイが再開する。どちらのチームもパスの応酬を広げ、試合は盛り上がっていく。
しかし、その試合の途中、俺の方にパスが飛んでこようとしたとき、パスしようとしたクラスメイトがすっぽ抜けてしまい、あらぬ方向にボールが飛んでしまった。
「あっ! 危ない!」
と、観戦していた美咲の顔面にボールが。間一髪でかわしたが、大きく上半身を揺らしたために今にも倒れそうになる。
「くそっ!」
美咲の周りには誰もいない。このままでは怪我をしてしまうと思い、近くに駆け寄り、ガシッと肩をつかむ。俺はその勢いのまま足を滑らしてしまったが、美咲は倒れることがなかった。
「佐藤くん! 大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。あっでも足首がちょっと痛いかも知れない」
「先生! すみません私のせいで佐藤くんが怪我しちゃったので今から保健室につれていきます!」
「いいって美咲。お前じゃあ支えられないだろ?」
「支えられるから大丈夫だから! 怪我した人が無茶言わないの!」
そうして俺は美咲に肩を支えてもらいながら保健室に到着する。
先生の姿は見当たらない。
「先生は今……いないの? じゃあとりあえず湿布貼るから靴下脱げる? 脱がそうか?」
「イテテ……ごめんちょっとお願いしてもいいか? けっこう盛大にひねったっぽい」
「だから言ったでしょ? 今湿布取って来るからそこ座ってて! 動かしちゃだめだからね?」
「うん。わかったよ美咲。ありがとうな」
そう言って俺は近くの椅子に座る。結構痛くなってきた。捻挫してるかもしれない。
「助けてもらったのはこっちの方だよ。君がいなかったら私の頭にボールあたってたし、そうじゃなくても私のほうが怪我してた」
俺がいる方にボールが投げられたのが原因なんだからそんなことはないと思うのだが。
だが美咲は責任を感じてしまっているらしく、
「ほら! 靴下脱がすよ? ちょっと痛いかもだけど我慢してね?」
「今日美咲テンションおかしくないか? イテテ……」
「もう目の前で怪我しないでって昔言ったよね!? あの中学2年のとき!」
「そういえばあったなそんなこと。お前すごい泣いてて……」
「あ、当たり前でしょ!? あんな血が出てびっくりしたんだから!」
「ごめん。嫌なこと思い出したよな」
「君の方こそ大丈夫? ごめんね変なこと思い出させて」
真っ赤な視界。美咲の泣き声。嫌なことを思い出してしまったが、顔に出してはいけない。ミサキを余計に心配させるだけだ。
そうしているうちにひねったところに美咲が湿布を貼ってその上から包帯を巻いてくれた。
「これで固定したからね? 動かさないでベッドで寝てて! いいね?」
「わかったよ。ありがとう美咲」
「先生が戻ってくるまでの間、しばらくは私もここにいるから何かあったらすぐ言う事! わかったわね?」
「わかったわかってるって。ありがとうな美咲」
そうして俺はベッドに横になる。枕元には美咲が。二人きりの時間が流れる。
「そういえばもう怪我は大丈夫なの?」
「まあもう走り回っても大丈夫になってるよ。じゃなきゃ体育休んでるって。中学の頃は最後の方全部休んでたし」
「そうだね。3年連続リレー選手に選ばれるはずだったのに。あのころからだよね? 私達が疎遠になっちゃったのって」
「俺がしばらく学校来なくなって腐ってたからなぁ。今にして思えば嫌なこと結構言っちゃってたかもしれん。ごめんな」
「良いよ別に。もう気にしてないからさ」
……もう、か。つまり昔は気にしてしまったということだが、美咲は気づいているのだろうか。
「……本当にごめん美咲。あのころは自分が自分がばっかりでさ……」
「あんなに頑張ってたテニスできなくなったなら、周りに当たり散らすのは当然だよ。わたしがそれを受け入れられなかったから……」
「いや。悪いのは俺だ。あんな事言うべきじゃなかった」
美咲は黙り込んでしまう。俺もいたたまれなくなって次の言葉が出てこない。そうこうしているうちに授業終わりのチャイムが鳴る。すると扉が開いて
「ユウマさん! 大丈夫ですか!?」
と、ユリアが入ってくる。息を切らせていた。授業終わりに走ってきたのだろう。心配かけちゃったな。安心させようと俺は
「とりあえず処置はしてもらったから大丈夫だよ」
という。すると美咲は
「ユリアさんが来たなら私はもう行くね? 先生に報告してこないと……」
と部屋を出ていこうとする。
「ごめんな。何から何まで」
「ううん。じゃあ行くね。ユリアさん、あとはよろしく」
「はい! ユウマさんのことはお任せください!」
ピシャっと扉が閉まり、美咲は外へ出る。ユリアはこっちに近寄ってきて
「ユウマさん大丈夫ですか? 気分悪いとかないですか? お水持ってきましたからこれ飲んでください」
とペットボトルを差し出してきた。
ありがとう、といってペットボトルの水をもらう。が、飲んだあたりでこれが俺のものでないことに気がつく。
「アレ? これ新しく買ったやつ?」
「いえ。とりあえず私のを持ってきました。なにか問題でもありました?」
「問題大アリだバカ!」
これって間接キスじゃ……。
「私は気にしませんよ?」
「俺は気にするの! それとお前はもうちょっと気にしなさい!」
「それより美咲さんとなにか進展はありました?」
話を逸らされた。俺はペットボトルを横に置くと、
「これも小説にあったイベント?」
と聞いていた。
「いえいえ。なかったですこんなイベント。それに私でも怪我することをイベントって呼びたくないです」
「ごめん。ちょっと美咲と昔のこと話してて、それで変な気持ちになってたかもしれない。お前が来てくれてよかったよ」
「ユウマさんが私のこと素直に褒めるなんて……ゆっくり休んでくださいね」
「うん。ありがとう。ちょっとまだ痛いから痛み止めの薬持ってきてくれるか?」
「わかりました。水は……これしかありませんけど良いですよね?」
「良くないから買ってきてくれ。あとで代金払うから……」
そう言いながら、時間は過ぎていくのだった。
保健室の外、一人美咲は歩く。
「やっぱユリアさんはすごいなぁ。あんなに佐藤くんと仲良くなって。元気づけられて……あれ? なんだろうこの気持ち……変だな……」
そう呟いた言葉は誰にも届かなかった。
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