席替え
ユリアが留学生としてこの学校に来てから1週間が立った頃
「と、いうわけで席替えをします。みんな準備するように~」
急に教師がそんなことを言い出した。もしや、と思い後ろを見る。きょとんとした顔でいるが、どうだろうか。
「ユリア、もしかしてこれもお前が?」
「これもってなんですか? 私は別に推しをずっと眺めてるためにこの席を取ったわけじゃありませんよ?」
「白々しいことを言うんじゃない」
というかやっぱり狙ってそこ座ってたのかお前。層目で訴えるとユリアは目を背け、
「ん~! 今日はいい天気だなぁ!」
「話のそらし方が下手くそすぎる……」
よくこんなのに渡航許可が降りたもんだ全く。そう思っているとユリアは、
「とはいえこの席替えはほんとに私の起こしたものじゃないですよ?」
と言ってきた。本当か? と怪訝そうな目を向けていると
「お~い、そこ私語をするな~。ユリアちゃんが来てもうそろそろ1週間だし、一旦席替えをして多くの人と交流を持ってもらいたいからねぇ。それじゃあとりあえずみんな順番に回していくからくじ引いてってね」
そうやって教師が説明してきた。
なるほど。そういう理由ならユリアの差し金じゃなさそうだな。
そうこう話しているとくじがこっちにも回ってきた。俺も引いてから後ろのユリアにくじ箱を渡すが、ユリアはなんかモザイクのかかった謎のものを取り出した。
「何取り出してんだお前!」
こいつまさか不正する気か!?
「良いじゃないですか! こっちにいられるのはあと1ヶ月しかないんですよ? バレないようにしますから!」
「だからって不正はだめだろ!?」
大体何の機械だそれ!?
そうこうしているうちに教師にせかされる形でユリアもくじをおとなしく引いた。
「それじゃあ席移動させてね~」
と教師に促されたクラスメイトたちは、ガタガタと机をみんなが移動させる。すると俺の席は場所が変わらないようだった。ユリアはというと左に一つずれ、前に一つずれ、つまり俺の横の席に来た。
「やったか? お前。やったんだな。不正を」
「いえいえいえ! マジもマジの偶然ですって! やるなら徹底的に真後ろ狙いますって!」
「隣のほうが嬉しいとかじゃないんだな」
どこまでも推しの距離感なのか……。
とそんな話をしていると、俺の右隣になんと美咲が来た。こっちも何かしたんじゃないだろうな、とユリアに目で訴えるとふるふる、と違いますというように頭を振っていた。あるのか、こんな偶然が。
「よろしくね佐藤君。それとよかったねユリアさん! 佐藤君の隣の席になれて」
「いえいえいえ! それよりミサキさんこそ良かったですね!」
「? 何のこと?」
「あ~いやほらユリアも美咲が近くの席にいて良かったって思ってるんだろうな」
「? いやユウマさんと隣に慣れて良かったってことですけど……」
ユリアバカッこいつ何言ってるんだよ? 推しにこういう事するのっていいのか!?
「佐藤君もよろしくね? 久しぶりじゃない? 隣になるのってさ」
「そうだなぁ。最後に隣同士になったのって中2の頃か?」
「そうそうそれくらいの頃! 私が結構教科書忘れちゃって佐藤君に見せてもらってたんだよね?」
「あの頃はそんな感じだったなぁ。それが今では美咲の方は学年主席なんだもんすげぇよ」
「佐藤君だって頑張ればもっと行ける実力あるのに……」
「いやいや、俺はこんなもんだよ」
「そう? 昔は私によく色々教えてくれたじゃない勉強」
「それは小学生のころだろ? いまじゃ教えてもらう側になっちゃたよすっかりさ」
「そう? じゃあ教えてあげようか? な~んてね。でも隣の席になったからにはサボったり居眠りしたりは見逃さないからね?」
「しないしないって。真面目に受けはするって!」
「おっとこれはお二人ともいい雰囲気なのでは? では私は壁になってますね」
ユリアは呟く。聞こえてるぞ。まあ変に会話にくちだされてかき乱されるよりは良いか。
「あの頃はよくメモの交換とかしてたよね? 授業中にさ」
「してたしてた! 懐かしいなぁ」
「あとはノートの端っこに落書きして……」
ん? どうしたんだ? 急に黙って美咲の顔が赤くなった。何かあったっけ?
「ユウマさんユウマさん私それ知ってます! 相合い傘書いてたんですよね! 中学の頃! お二人で!」
ユリアがなんて言ってるのか聞こえない。じゃあネタバレなのか。美咲の顔が赤い理由は。
顔を真赤にした美咲は顔をパタパタと仰ぎながら、
「あはははは。恥ずかしいこと思い出しちゃった。変な空気にしちゃってごめんね?」
「いや、俺は別にいいけど……」
そう話しているうちに皆の席替えも終わったようだ。そのまま昼休憩に入ると遠くの方から
「美咲~こっちこっち! 遠くなっちゃったけどアタシら友達だよね~? 一緒に食べよ~?」
とクラスのイケてる女子が美咲を誘っている。ユリアがなにか言おうとするのを止めて俺は
「行ってらっしゃい美咲」
と美咲を送り出した。
「え~! いいんですかぁユウマさん。せっかくミサキさんと隣同士になれたのに送り出しちゃって」
「いいも何もないだろ。そこまで仲良くないよ今はさ」
「う~んでも、ミサキさん今複雑そうな雰囲気出てますよ? 嬉しいこととそうじゃないことが同時に来たみたいな雰囲気」
「気のせいだろ。さすがに。
こいつの言うことはあまり当てにならん。未来でラブラブな関係を知ってるからそう見えるだけじゃないのか?
「う~ん? そうですかねぇ……」
「そうだよ。それとも今更になって席替えで隣になったから嬉しい! なんてイベントでもあったのを思い出したのか? 小学生じゃないんだぞ?」
「そんな単純なイベントは無いですよぉ! う~ん、でもさっきのお二人は結構いい感じでしたよ?」
「クラスメイトで昔からの知り合いだしな。そう険悪になることもないだろ」
「ちょっとムキになってません? ユウマさん」
なってない。何を馬鹿なことを。まるで俺が美咲からの好意を向けられることを怖がっているとでも?
「美咲~なんかいいことでもあった? なんかちょっと顔ゆるくね?」
「えっそうかな? 特に何も……」
「佐藤くんになんか言われたん?」
「なんで佐藤くんなの? 別に? 久しぶりにいってらしゃいって言われたなぁって思ってちょっと変な気持ちかも」
「ふ~ん。いや、だって幼馴染じゃん。仲良かったっしょ? 昔」
「そうね。毎日のようにお互いの家に行ったりお泊りしたりしてたかなぁ」
「ふ~ん。好きだったとか?」
「どうなんだろ。わからないまま終わっちゃったから……」
そして1限の授業中、早速イベントがおきた。
「あっ」
美咲が声を上げる。そちらを見ると筆箱の中身を覗いてはなにか探している。おそらく消しゴムかなにかを忘れたのだろう。そしてその推測はあたっていたようで、肩を落としている。俺は見ていられず、自分の予備の消しゴムをそっと差し出す。大事になりたくはないと思っての行動だった。
美咲はごめんね、というようにこっそりとした動きで俺の消しゴムを受け取ろうとする。だがその時、ピトッと手と手が触れてしまった。
昔とは違う長くて細い指。なんだかドキドキしてしまう。今はただのクラスメイトのはずなのに。そう思いながら美咲の顔を見ると真っ赤になっていた。恥ずかしいのか嫌だったのか。そう思ってさっと手を離す。
お互いの顔が真っ赤になっているが周りには気づかれていない。幸いに思い座り直すと反対側からユリアが
「このエピソード見たことあるやつだ! 抱っこより前のイベントだからもう見れないかと思ってたのに! やっぱくじをいじっておいて正解でした!」
そう興奮しながら言っているのが聞こえた。
やっぱりお前いじってたのか。くじを。
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