ぎこちない関係
翌日、学校に登校しようと家を出たが、そこには美咲の姿があった。
「あ~。昨日はありがと。これ。よかったら」
と包みを渡される。
「お弁当。佐藤くん普段はパン買って食べてるでしょ? お礼で現金とか菓子折りとかってのも同級生だしちょっと違うなっておもってさ」
「ありがとう。嬉しいよ」
そう言って包を受け取る。変に断るのも悪いと思ったからだ。
あれ? でもなんでそれ知ってるんだ? 最近話していないのに……?
「佐藤くんの家共働きで朝は忙しいからって弁当は買って食べてるって中学の頃言ってたじゃない。あれから変わってないんでしょ?」
「まぁな。とにかくありがとう」
「ん。それじゃあ私は先に行ってるから」
「ああ。ありがとうな」
こうして、二日目の朝はいつもと違う始まり方をしたのだった。
「今日お弁当もらいました?」
ユリアは授業前こっそりと俺に話しかけてきた。
「今日もらうのも小説に書いてあることだってのか?」
「ええ。バッチリと」
プライバシーも何もあったもんじゃない。
だがここまで来たらどこまで書かれているのか気になるので少し聞いてみる。
「で? その小説ってどれくらいの長さでどこまで正確に書かれているんだ?」
「それは言えません。もう何も言わないってきめてますから。でもまぁ変なことが書かれているわけじゃあないですから安心してください! 安心安全な健全なラブコメディですから!」
人の青春がこれってプライバシーも何もあったもんじゃない。だがまぁ少し安心はできるだろう。こんなにいい子がハマる程度には健全だとわかったわけだし。
「それで未来人って何かすごいガジェットとかあるのか? そっちのが気になるんだが……」
「いくつかはありますが、基本過去の人に見せちゃいけない感じですね。身の回りのものは現代に合わせた昔のものにしてますし、パッと見で未来っぽいものはないですね」
まあそのへんはしっかりしてる感じだもんなぁ未来。
「でも今のところモザイク技術以外で未来っぽい物何一つ知らないぞ。俺に詳しいのだってストーカーでもできるようなことじゃないか? まあ俺なんかストーキングするやつがいるとは思わないが……」
「いえいえ! ユウマさんは素敵な私の推しです! 昨日だってあんなかっこ良くミサキさんを助けて……」
「あれはダサくなかったか? 尻もちついて仲良くない女子抱っこしてって……」
「いえいえいえ! あれこそ最初の意識イベント! まだまだここからですからねぇ!」
まだまだ、といったか。まあ1ヶ月滞在すると言っているんだしまだまだなのは確かだろうが。
と、そんな話をしているうちに1限の時間になった。教師が入ってきたので会話を切り上げる。と、後ろから
「今日はまだイベントがありますからね……」
というつぶやきが聞こえてきた。だから聞こえてるって。
そんなつぶやき声があったのに、その日の午前中は何事もなく過ぎていった。
そして昼休みになるといつものメンツと食事をとるのだが、今日は例のお弁当があるのでパンを買いに行くいつもの流れに乗らないでいた。
「あれ? 今日は弁当なの? 初めてじゃね?」
陽斗が俺の用意した包みを見てそう言った。
ああ。まぁ……、と流しながら包みを開けてみたが、そこには色とりどりのおかずが。
「けっこう豪華じゃん。お前自分で作ったん?」
「いや……それは……」
まあそうだよとでも言って切り抜けようとした矢先
「ごめん! 間違えた!」
と美咲が自分の席からこっちに向かってくる。
「こっちだったの! ごめん! もう食べちゃったかと思って!」
自分の席から持ってきた包をこっちに押し付けてきた。
「じゃあ!」
そう言い残して足早に去っていく。
弁当の中を開けるとそこには食べ盛りに向けたような茶色の山があった。
「おお~。いやこっちも結構豪華で……って待てよお前なんで今高橋さんから弁当もらった?」
「それはまぁいろいろあって……」
と言い訳をしようと思っていたところ向こうの席からも同じような質問が飛んでいた。
「昨日佐藤くんに転びそうなところを助けてもらってね。怪我がなかったのも彼のおかげだったから、なにか恩返しをと思って……」
という声が聞こえてきた。
「お前あれホントの話?」
「ほとんどはね。俺が勝手にやったことだからあんま言わないでくれよ恥ずかしい思い出だからさぁ」
なんだかむず痒くなってそんなふうに謙遜していると
「いえいえいえ。あれはかっこよかったですよサトウさん。自分が怪我してでも相手を守ろうとするその意識! あの勇姿はフォルダ入り確定です!」
ユリアが割って入ってきた。なんでこっち来た。イケてるグループに誘われてたろ。
そこで思い出す。今日はまだイベントがあると言っていたことを。これだったのか。
「ユリアさんどうぞどうぞこちらへ。さ、こっち座って。俺なんか立ってますから」
陽斗はそんな調子でユリアに椅子を勧めていた。
「ありがとうございます! でももう食べ終わったので平気です! それよりあの高橋さんからお弁当もらうなんてすごいなー昨日あんなかっこ良く助けてたからなぁー」
わざと教室中に聞こえる声で言いやがった。
当然俺も美咲も質問攻めに合うが、そんなに深いエピソードではないので、さっきの答えを繰り返す形になってしまう。
そうこうしているうちになんとか食べ終わりこの弁当箱はどうするのが正解か……と思案していると美咲がこっちにきて
「食べ終わったのもらうね。美味しかったかな? こんなことでお返しになってるか不安だけど」
そう言いに来た。もらうねと言われて持って帰るのもあれかと思い包み直してから渡す。
「美味しかったよ。でも内容違ったってことは2種類も作ったの? 大変じゃなかった?」
「普段から品数多めに作ってるから大丈夫だよ。美味しいって言ってもらえてよかったぁ。男子にお弁当作るのなんて初めてだったから」
「味付けも好みの味だったしちょうどよかったよ。唐揚げ大好きだし」
「そうそう! 昔家で夕食食べたとき唐揚げお代わりしてたでしょ? あのときのママの味付けなんだ」
あ~あのおばさんの唐揚げかぁ! どおりで食べたことある好きな味だと思った!
「いっぱい食べてたもんね。知ってる? あのあとお父さんの分まで食べちゃってたの。お父さんは別のおかずだったんだよ? あの日はさぁ」
「まじでか!」
それはおじさんにわるいことしちゃったな。
「別にいいよ。お父さんは佐藤くんのこと気に入ってるし。知らないでしょ。当時私に向かって佐藤さんちの息子さんみたいに息子が欲しかったなぁって言われたんだよ!? あんまりじゃない?」
「そこまで気に入られてたのか……
気が付いてなかった。よく冗談で息子がほしいと言ってきてた記憶はあったのだが……。
「お年玉だって佐藤くんのヤツのほうが先に用意されてたんだからね?」
「う~ん。そこまで行くととっても申し訳ないなぁ」
「あの頃はあんなに仲良かったのにね。私達」
「そ、それは……」
たしかに昔はよくお互いの家を行き来していたのに。
美咲のほうも変なことを言ってしまったと思ったのか黙ってしまって、なんだか少し気まずくなってしまった。その直後、午後の授業開始前のチャイムが鳴って、この話はおしまいになった。
ほんとうに。どうしてこうなってしまったんだろうな。
「う~んあれ? このイベントはもうちょっと違うはずだったのに?」
そう呟いたユリアの言葉は都合よく俺の耳には入らなかった。
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