第5話   そこにいたのはやっぱりあの人

 なんの話だ?


 俺は村人の話を盗み聞きしていた。

 だが、重要なところが聞き取れなかった。


「あ、そうだ。」


 せっかくあそこに人がいるんだ。"鑑定"してみるか。


「そういえば鑑定って他人のどこまで見れるんだろ」


未だに"鑑定"は俺自身にしか使っていなかったため、ちょうどいいと思い、使ってみることにした。


「じゃあさっそく」


 俺はその人を見ながら、『鑑定』と頭の中で呟く。


「お、出てきた出てきた。なになに『クロス HP100/100 ATK 5000 DEF 500 SPEED 500』高くない?『職業 狩人  種族』ん?...え?」


 俺は俺自身の目を疑った。


 ―だって、...だって、......。


 俺は混乱していた。


「え?...は?どう、いう...」


 俺は急いで村の者たちにかたっぱしから"鑑定"をした。


「同じ...村長も、誰もかも、全員...」


 俺には訳が分からなかった。


「じゃあ、村人が出て行ったって言うのは、そういう...。」


 俺は走り出した。その人に伝えるために。


「ランスさん!」

「あぁ、あなたですか、どうしました?」


『鑑定』...この人は...大丈夫だ。


「この村から急いで出て行ってください!」

「は?何を言って...?なんで今日来たばっかりの人にそんなことを...」

「理由なんていいから早く!」


 そんな俺の必死さに何かを感じたのか、


「なにか、あったのか?落ち着いて話して欲しい」


 その人はあまりにも真剣な目で、


「私が対処しましょう。」


 そう言うのだった―――――。




「...そう、ですか」


 俺は先ほど"鑑定"したことで判明したことを伝えた。


「あなたはどうやってそれを知ったんですか?」

「それは企業秘密ってやつですよ。」

「ま、そりゃそうですよね。...確かにこの村の人が減るスピードは速すぎる。それはあまりにも不自然で、誰かの意思によるものなんじゃないかと思うほど。ですが、やはり...。ということは私の妻と子も...。」

「慌てないんですね。」

「いや、内心慌ててるし、驚いてますよ。でも、それを顔に出すほど弱くない。...兄を呼びましょう。私よりも頼りになる人なので。」


 そうして俺たちはランスさんの家へと向かった。



「――ということなんだ」


 俺が先ほどランスさんに述べたことをランスさんがそのまま兄、パイクに話した。


「この村が...なんという。」


 パイクさんは思いつめたような顔をする。いや、このような反応が普通なのだ。


「聞いた話なんですが、」


 俺は話始める。


「おそらく今夜があなた達の番かと。」

「そうか。わかった。君は見たところまだ10代だろう。だが弟から君が空を飛んでいたと言いうことは聞いている。だからどうか私たちに力を貸してくれ。」


 そう言われ、俺は


「もちろんです」


 そう答えるのだった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――


 この人たちは戦えるのだろうか。

 俺からしたらそれだけが疑問だった。

 俺には時間操作があるからいいもののこの人たちには槍しかない。


「あの、失礼な話なんですが。あなたたちは強いんですか?」

「そりゃある程度には...。あなたと初めて会ったときはすぐ負けてしまいましたが、あなたのような能力を持っていない限りは勝算はありますよ。」


 そこに兄、パイクも便乗するように、


「俺たちをなめてもらっちゃ困る。」


 と言った。

 これだけ自信満々なら大丈夫だろう。俺はそう思っていた。


「君の言うことがほんとなら、おそらく彼らが来るのは今日の夜だろう。」

「どうしてです?」

「それは...今日が満月の夜だからだ。」


 満月...この世界にも月があるのか。


「あとどれくらいなんだ?」

「今はまだ昼だ。月が出るまでざっと15時間といったところか。」


 やはりこの世界と俺の元いた世界の時間の進み方は違うのか。


「でしたらそれまでに村の周りを堀などで囲えますね。」


 ランスがそう提案した。

 それに対しては俺もパイクも同意見だった。

 襲いに来るとわかっていながら何も準備しないのはおかしいからな。


「最低限の逃げ道なんかも確保しておきましょう」


 そんな話をしていたときだった。



『アオォォォォォン!!』



 と狼の遠吠えのようなものが聞こえてきた。

 その瞬間、辺りは闇に覆われ、月明かりだけが照らしていた。


「なにが起きてる!?」


 この状況にはさすがのランスさんでも驚きを隠せていなかった。


「もしかしたら向こうに能力持ちがいるのかもしれんな...」

「スキル?転生者にしかないんじゃ...」

「まぁ確かに外界から来た者が持っていることが多いが奇跡的な確率でたまにこの世界の住人なのにも関わらず能力を所持していることがある。」


 魔王は教えてくれなかったな。忘れていたのか知らなかったのか、はたまたわざとか。


 パイクが答える。

「要るに突然変異だな。お前も能力持ちだろう?外界から来た者が持っている力とされているが本当に稀に"能力"を所持している人間や魔物なんかがいたりする。だが、今言ったが、本当に稀だ。そんなやつが向こうにいるだなんて考えたくもないな。」


 なるほど、そういうことか。じゃあ、俺たちの能力とこの世界のやつらの能力には本質的な違いはないんだな。

 ってことは時間操作が俺以外にもいるかもしれないってことか。


「だったら猶更相手が何をしてきたのか気になるな。」

 

俺は身構える。

そして暗闇から"それ"が俺たちのいる場所を目指し、来る。

そしてそれは姿を現す。

月明かりが影を作り顔は見えなかったが、影だけでも相当な数がいることがわかる。


「いやー、注意していたつもりでしたがやはり気づかれてしまいましたかー」


 それは淡々と話す。


「私達はワーウルフ。人を糧とし、満月の夜に本来の力を発揮する魔物です。」


 

その仲間であろう者も話始める。


「俺たちはずーーーーーっとこの村で生きてきた。」

「人間が育つのを待ち、十分なほど育ったら食べ、また別の個体を育てる。まぁ我慢できなくなって喰ってしまった個体も何体かいましたが。」

「それも今日で終わりや。もう人間は貴様らしか残ってへんからなぁ!」


なぜにこいつだけ関西弁...。


「もーみんな、うるさいー。折角の人間が怖がって逃げちゃうでしょー。」

「あぁ!?なんやとこのメスぅ!口答えかぁ!?」


そして俺たちのことは目にもとめず喧嘩を始める。

俺たちを脅威だとも思っていないのだろう。


「...して」

「あぁ!?」


 横にいたランスさんが声を上げる。


「どうしてこの村を...!」


 その顔はあまりにも怒りに満ちていて、パイクさんですらも目を見張っていた。


「どうしてって、そりゃあ...」


一人の男が歩いてくる。


「...私がそのためだけにこの村を興したからですよ。」


 そして月明かりは全体を照らす。

 そこに現れたのは、


「やっぱりあんたか」


 まぎれもない村長だった―――――。

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