第90話



最初は苦痛を和らげるために頭に浮かんだ数字をデタラメに呟いているのかと思いきや、よく考えるとそれは―――






円周率だった。






どこまでも可愛いヤツ♪



ふっと笑い、俺はヒロの頬を包んだ。



ヒロはゆっくりと目を開けて、目尻に涙をほんの少し含ませた目で俺をまっすぐに見上げてくる。



その視線はまっすぐで淀みがなく、いつも懸命に俺を感じようとしていた。





ヒロは―――綺麗だけど、凶暴で―――可愛いけど、辛口で。



でも



いつもまっすぐで、頑張ってる姿が―――その美しい光りが、俺には眩しいんだ。






ヒロ






「愛してる」







――――


――



ぐったりしたヒロを腕に抱いてベッドに横たわると、ふとテーブルの上に置いたミニチュアのドールハウスに目が行った。



ヒロは俺があげたドールハウスを大切にしてくれている。



はたきをかけてこまめに掃除をしているし、時々家の中の家具の置き位置を変えて模様替えなんかもしてくれていた。



子供の狼とヒツジを見て、



こいつは本当はホンモノの子供が欲しいんだろうな―――なんて思う。



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