第74話


周が―――俺を好き………




想いは……一方通行じゃなかった。




しかも平凡で何の取り得もない俺の、ありのままの姿を好きになってくれた。





周の言葉を聞いて、俺は目を開き―――その目頭に熱い何かが込み上げてくるのを何とか堪えた。



涙なんて―――比奈にフられたときでさえ出なかったのに、



こいつの言葉に、俺は感情を制御できず、今にも嗚咽が漏れそうになった。



誰かに―――そんな風に褒められたのははじめてだ。



俺自身こんな平凡な自分が嫌だったし、それでも毎日を平和にやり過ごそうといつも一生懸命だった。



『ヒロ、箱を開けたか?』



急に言われて俺は慌てて鼻を啜った。



「………いや」何とか答えると、クスッと甘く笑う声がして



『泣いてるのか?可愛いやつめ♪』なんて言い出した。



「な、泣いてなんかない!」慌ててぐいと目元を拭うと、



『開けてみろよ』なんて周に言われて、それでも俺は素直になれずに



「どうせお前のことだろ?変なパンチが飛んできたり?爆弾だったり」と悪態をついた。






『ありがちだな。だけど俺様はそんなセコい真似しない。




そこにはお前が欲しかったものが―――入っている』






欲しかったもの―――……?





そう言われて、俺こいつに何かねだったっけ??なんて考えながらも恐る恐る、箱を開けた。



箱を開けると―――……



中にはミニチュアのドールハウスが入っていた。



赤い屋根に白い壁。



まるで絵本に出てきそうな一軒家。




その中にはちゃんと作りが精巧な家具が入っていて、テーブルにはヒツジと狼が向き合ってちょこんと座っていた。



その周りには一回り小さなヒツジと狼のぬいぐるみ。






これって―――………





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