第65話


比奈と俺が付き合う前から、比奈は守川とデキていて―――比奈は俺のIDを利用するために―――横領するために、俺に近づいたってわけか…






これで納得だよ……




周がやたらと比奈のことを知りたがったわけも。





ついでに言うと俺に近づいたわけも―――





そう言えば俺の行動範囲を気味悪いほど知り尽くしていたし…



こうゆうのを潜入捜査って言うんだろうな。



俺を好きだと言った言葉も―――全部、捜査のためだったわけか―――




俺一人が盛り上がって、バカみたいだ……



比奈も比奈だよ。昨日俺に抱き着いてきたのは俺のIDを手に入れる為だったってわけか。





まるで魂が抜けた人形のように俺はうつろな視線を周に向けた。



周は俺の視線を受け止めながらも、すぐに逸らすと一枚の紙をテーブルに滑らせた。



「これは昨夜の出納データの一部です。深夜1時に現金が守川の架空のペーパーカンパニーの口座に移動させられている。そしてそれを引き出したのは宮下。



あなたのアリバイは証明できましたので、ご安心ください」



俺は感情のない目でその紙面に走る数字を見て……それが破格の金額であったことに、すでに何も感じなくなった。



ただ指先が―――周の細くてきれいな指をひたすら追っている。



あの手に何度も撫でられた。



何度も包まれた。



温かくて―――さらりと感触のいい……周の手。



「アリバイ証明―――……か…」



俺はすべてに納得がいった。




昨日、周が俺を会社に行かせようとしなかったこと。



手錠を掛けてまで、部屋に閉じ込めたこと。






って言うかあれやっぱ本物だったわけだ―――




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