第63話


一気に色んなことがありすぎて、俺は目の前がまさに真っ暗―――



眩暈がして、今にもぶっ倒れそうだった。



周りの社員からはひそひそと探るような話し声が聞こえる。



俺は慌てて手を振り、立ち上がった。



「いえ…俺、横領なんてしてないです…」



なんて間抜けに、それでも何とか答えると、周はふっと苦笑をもらした。



見慣れてる筈の笑顔なのに―――それは俺の知らない笑い方だった。






「いえ。横領の主犯は経理部の守川。そしてあなたの隣の部署の宮下みやした 比奈、この両名です。あなたは知らない間に巻き込まれたようですが、一応事情を伺いたいのでね」





比奈が―――横領…………



それも守川と………!?






隣の部署を見ると、いつも比奈が座っている席に彼女の姿はなかった。








ただでさえぶっ飛んだことを言われ、そのうえ



『あなた』??『です』?だと……?



俺は周がこんな風に俺に喋ってるのをはじめて聞いた。



そんな混乱をよそに、年配の刑事が周に耳打ちするようにこいつの耳でささやいた。



「橘警視………」



話の内容こそ聞き取れないものの、“警視”って結構偉い立場なんじゃないの………?



って言うか、いつももっと変態っぽいのに、何でそんないかにもデキそうなエリート刑事気取ってんだよ…






それは俺の知らない―――周だった。





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