第57話


カチャカチャ……



俺は手首を動かしたけれど、手錠は虚しく乾いた音を立てるだけ。



引っ張っても、手錠の輪の部分が骨にあたって、手首が痛くなるだけ。



プレイ用に用意したって言ってたから、おもちゃみたいなものかと思いきやその重さと質感は、おもちゃにはない迫力があった。



もしかして、これ……ホンモノじゃぁ……



いやいや、ホンモノって、どこで手に入れるんだよ。



でもあいつ妙なところをこだわるヤツだからな。しかもあらゆる方面で顔が利きそうだ。



人に言えないどっかの闇ルートで仕入れてきたのかもしれない。



はぁ…



俺はため息を吐きながら項垂れた。



好きだと自覚したのに―――アイツはやっぱり意味不明で。俺、アイツとうまく付き合っていけるのかな?



今更ながら不安になる。



平凡だった俺の人生に手を振ってさよならしたって言うのに、新しい世界のなんと奥の深いこと―――



って言うかアイツは特別だよな。特別に変態で意味不明だ。



そんなヤツを好きになるなんて―――俺もたいがい変態で意味不明だ―――



そんなことを考えながら、ベッドに体を横たえると、部屋の隅に大き目のスーツケースが置いてあることに気付いた。



前に来たときはあんなスーツケースなかった。



どこか旅行でも行くのかな。それとも出張とか??



いやいやホストクラブ経営の出張ってどんなのよ。



そんなことをぼんやりと考えて―――





俺自身、周が本当はどんな男なのか―――根本的に知らないことに気付いた。




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