第55話


言われて気付いた……



そう言えば比奈がエレベーターの中でやり直そうって言ってきたんだ。






でも俺はそれを断った。






周が―――好きだから。





周は俺を抱きしめる腕に力を込めた。ぎゅっと抱き寄せられて周の香りを体いっぱいに感じる。



「あの女狐の匂いなんてさせやがって。お前の香りは俺様の香水だけでいい」



もしかして……周、比奈に嫉妬してる?



しかも…なんかそれマーキングみたい…



思いながらもそれが少し嬉しかったり。




俺相当ヤバいな。



相当、周にイカれてる。



ちょっと前の俺なら「何わけわかんねーこと言ってやがる!」って怒鳴り散らしていただろうけど。



「比奈のことは今はなんとも思ってない。この香水も偶然ついたものだ」



言い訳?みたいなことを言って、それでも俺は慌てて周を押しのけた。



「とりあえず、今は会社戻らなきゃ」



「行くな」



いつになく周はしつこい(?)何か俺を会社に行かせたくないみたいな…



単に比奈に嫉妬してる…だけには見えなかった。



もっと切羽詰った……そんな事情があるみたいだ。



「でも大切なものなんだよ。とりあえず離せ」俺が腕を振り払おうとすると、周のスーツパンツにぶつかり、ポケットから何かが落ちた。



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