第54話


「IDカード?んなもん、明日でもいいじゃねぇか」周が腕を組んで柱にもたれかかる。



「大事なもんなんだよ。誰か一人でも紛失したら社員全員のIDを作りなおさなきゃならない」



「厳重なんだな。それは社員全員持ってるのか?」



「いや持ってるのは主事以上だけど……」



何でそんなことを聞くのか不思議だった。



ま、どうせ聞いたところで「お前のことを全てを知りたいから」なんて答えられるのがオチだけど。



「と言う訳で、俺取りに行ってくるわ。また来るよ」



そう説明して俺は行こうとした。その腕を周が掴む。



力強い腕に引き寄せられ、俺はあっけなく周の胸におさまった。



ふいに心臓がドキリと大きく音を立てて跳ね上がった。



「……な、何?また来るって」



恥ずかしさを隠すために慌てて言うと、周は俺の頭に顎を乗せてきた。







「会社には比奈が居るからか?」








周の低い声は甘さを感じられず、どこか冷たかった。



何か周……怒ってる?



ってかこいつが怒ったとこ初めて見たかも…



でも何でこんなところで比奈が出てくるんだ?



「比奈は関係ないよ。彼女にはもう新しい恋人が居るし」






「お前から―――俺じゃない香水の香りがする。女ものの、香水だ。





お前、比奈と何かあったのか?」




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